第9話 停戦交渉
うわ、本物だった。
それが、俺の偽らざる気持ちだった。
てか、突っ込みどころが多すぎて、どうしたらいいのか解らないよ…………
マコトが困惑していると、敵軍の使者(正使)が口をひらいた。
「前当主である白鳳様の母親メープル様と、私たちは和平条約を結びました」
そこで、白鳳を前当主だと言ったことに対して、メープルが敵軍の正使に強烈に抗議し出した。
うわ、この女は、相変わらず空気が読めないんだな…………
敵国の正使が、少し可愛そうになってきたよ。
まあ、この女がどういった経緯で、敵軍にいるのかは、どうでもいいことだ!
問題は、これからのことだ。
くさっても前当主の母親である。
我が軍に影響がないといったら、ウソになるだろう。
どうするのが正解なのかな?
マコトが考え込んでいると、メープルが睨みつけてきた。
「マコトさん、あなたが白鳳ちゃんに、当主の座を返せば、全て丸く収まるんです。早く、決断してください」
この女の頭の中は、本当にお花畑なんだな…………
てか、俺は物事を難しく考えすぎていた。
もっとシンプルに、行動しよう。
無言で立ち上がったマコトが、メープルに近づいた。
すると、メープルが微笑んだ。
「白鳳ちゃんに、当主の座を返す気になったんですね!」
幾ら恨んでくれてもいい。
俺は、もうお前と接するのが嫌なんだ!
マコトが剣を抜いて、メープルの首を跳ね飛ばした。
そして、跳ね飛ばされたメープルの首が、見学していた脳筋領主であるアカツキの前に転がった。
「ぎゃー」と、アカツキが悲鳴を上げた。
気持ちはわからんでもない。
だが、他の二人(山東地方の領主であるハンゾウ+敵国の正使)を見習え。
眉一つ動かしてないぞ。
てか、海千山千のハンゾウはともかく、何で敵国の正使は涼しい顔をしているんだ?
同僚が殺されたんだぞ。
もっと動揺するべきだろ。
もしかして、俺がメープルを殺害することを予想していたのかもな…………
それ以外に、正使が涼しい顔をしている理由が思いつかない。
もしそうなら、エゲツナイ手を使ってくる奴らだ。
マコトが睨みつけると、敵国の正使が落ち着いた口調で言った。
「使者を殺すということは、もう交渉はしないという意思表示ですね?」
どうやら、俺は苦しい状況に追い込まれたようだ。
その後の停戦交渉で、俺は大幅な譲歩を余儀なくされた。
だが、停戦交渉中に、嬉しい情報もあった。
それは、行方不明であった、ハクビシンさんが敵の捕虜になっていたのだ。
内心嬉しくて仕方がなかったが、表情には出さずに淡々と交渉を行った。そして、俺はハクビシンさんを取り戻せたのだ。
百点には程遠いと思う。
それでも、十分に満足できる結果を、俺は得ることができた。
翌日。
敵軍の退却が始まった。
現在のこちらの兵力は、5000
敵軍は、9000
この戦力差だと、追撃して大勝するのは難しいだろう。
もう少し勝ちたかった。
それが、本音だった。
いや、用兵の天才ではない俺が、不利な状況からここまで来れたのだ。
満足するべきだろう。
さあ、ハクビシンさんを迎えにいって、みんなで十龍の街に戻ろう!
そして、夕方。
捕虜交換が行われる場所に、マコトが到着した。
連れている兵は、100名ほど。
敵軍も、同程度の兵を連れてきている。
あ、師匠がいた。
遠めでも解るぐらい、大きな怪我をしているな…………
日常生活に復帰できたら大成功で、戦場に立つのはもう無理だろう。
いや、もうハクビシンさんは十分に戦ってくれたのだ。
『あとは、俺に任せてくれ!』
そう目で伝えると、ハクビシンさんが苦笑いを浮かべていた。
まあ、今後のことについては、落ち着いてからゆっくりと話そう。
そんなことを考えながら、マコトが敵軍との事務処理を行った。
十分後。
全ての交渉が問題なく終わったので、自軍に引き上げようと思った。
そこで、謎の部隊(現れた位置的には、敵軍の可能性が高い)が現れた。そして、謎の部隊が、全力でこちらに向かってきた。
「どういうことだ?」
こちらが強い口調で詰問すると、敵軍の代表者が慌てた様子で答えた。
「たぶん、末端まで命令が伝わってないんだと思います。すぐに止めてきます!」
そう言い残して、敵軍の代表者が謎の部隊に近づいた。そして、謎の部隊と接触した瞬間、敵軍の代表者の喉に、槍が突き刺さった。
もちろん、やったのは謎の部隊だ。
てか、謎の部隊の先頭にいる男が、俺だけを睨みつけていた。
和平交渉をぶち壊しにしてでも、俺を殺したい人間。
たぶん、林仲の村を襲った傭兵団『赤い川』だろう。
敵の数は、150名ほど。
東国の兵が協力してくれれば、勝てる相手だ。
だから、東国の副官に、マコトが問いかけた。
「そちらが雇っていた、傭兵団が暴走しているみたいだな。和平をぶち壊しにしたくなければ手伝え!」
こちらの発言を聞いた、東国の副官が叫んだ。
「私は文官なんだ! 戦いなんて、できるか!」
そう言い残して、東国の副官が走り去ってしまった。まもなく、指揮官に釣られて、東国の兵も逃げてしまった。
うわ、生きて戻っても、東国の王に殺されるぞ。
まあ、臆病者の心配なんて、どうでもいい。
問題は、これからのことだ。
大きく頷いた後、マコトが叫んだ。
「うろたえるな! すぐ近くには、我が軍の砦がある。十分もすれば、援軍がきてくれるはずだ!」
こちらの発言を聞いた、部下が安堵の表情を浮かべていた。
もっとも、敵は死兵みたいだからな。
かなり厳しい戦いになるだろう。
いや、弱気になるな。
俺ならば、絶対に勝てるんだ!
まずは――
「グエンは砦に戻って、援軍を呼んできてくれ」
こちらの発言を聞いた、林仲の村の村長であるグエンが叫んだ。
「嫌です!」
いや、一分一秒を争う、いまの状況で断るなよ。
マコトが睨みつけると、グエンが叫んだ。
「だって、相手は林仲の村を襲った傭兵団『赤い川(レッド・リヴァー』です! 私にも戦わせてください」
そう言うと思ったから、使者に選んだのに、無駄になってしまったな…………
まあ、いまは説得している時間はないか。
そばにいた林仲の村の名主であるコウメイに向かって、マコトが強い口調で指示を出した。
「コウメイ、状況を伝えて、砦から援軍を連れてきてくれ!」
こちらの発言を聞いた、コウメイが少し躊躇した。
その後、コウメイが苦しそうに言葉を発した。
「……わかりました……マコト様、死なないでくださいね!」
死ぬつもりなんてない。
だが、楽に勝てる相手ではないだろう。
部下に向かって、マコトが叫んだ。
「攻撃を仕掛けてきたのは、ウチの村を襲った傭兵団『赤い川』だ」
部下の顔色が変わった。
まあ、家族や友人を殺された人間も多いのだし、当然のリアクションだろう。
「俺は妻である、ヒミコの仇をずっと取りたかった。だが、上級貴族の当主としての役目を優先させて、ここまで来てしまった!」
大きく息を吸い込んでから、マコトが言葉を続けた。
「上級貴族の当主としては、ここで逃げるのが正解だとわかっている」
逃げた場合の方が、俺が助かる可能性は高いだろう。
だが、俺が逃げたら、護衛の半数は死ぬことになる。
それが、俺は我慢できなかった。
「俺は、もう何一つ失いたくないのだ!
だから、みんな俺と一緒に戦ってくれ!」
直後、部下たちが大声で答えてくれた
「「おお!」」
こうして、最後の戦いが始まった。




