第7話 チート能力があっても、困難なミッションは困難なままだ
マコトが目を覚ますと、十字架の木が目の前にあった。
俺は、またこの場所に戻ってきたのか。
てか、手が震えているな…………
落ち着け。
落ち着くんだ。
俺が殺したのは、罪のない村人を殺した山賊だ。
何の問題もない。
そう、何も問題はないのだ!
そう思い込もうとしたが、手の震えは治まってくれなかった。
そこで、ヒミコが優しく声を掛けてくれた。
「大丈夫ですか? 震えていますよ?」
ああ、そうか。
俺はヒミコを助けるために、戦っているんだ。
だから、頑張ろう。
「……大丈夫……」と答えて、マコトが立ち上がった。
そして、震える手を押さえつけて、三度目の戦いに挑戦したのだ。
大丈夫だ。
俺なら、やれるはずだ!
なんの根拠もなく成功を確信していると、納屋の前を山賊が通り過ぎていった。
よし、今度こそ!
マコトが納屋を飛び出て、山賊に襲い掛かった。
よし、今回も斧使いの胸を貫けた。
次は――
マコトが槍を捨てて、懐から鎌を取り出して剣士の喉を切り裂いた。直後、剣士の喉から血があふれ出して、剣士が地面に倒れた。
よし、敵は奇襲に対応できていない。
いけるはずだ!
そう思って、ヤマトが弓使いに襲い掛かろうとした。だが、血に足をすべらせて、ヤマトが地面に倒れてしまったのだ。
ウソだろと思ったが、弓使いが矢を放ってきた。
その矢が、ヤマトの心臓を貫いた。
これで死ぬのは、五度目。
全てで、胸を貫かれた。
これって、偶然なのかな?
そんなことを考えながら、ヤマトが意識を失った。
そして、ヤマトが再び、十字架の木の前に戻ってきた。
次だ。
次は、絶対に上手くいくんだ。
そして、四度目の戦い。
俺は、斧使い、剣士、弓使いの三人組を倒すことが出来た。
ここまでは、順調だった。
だが、ここから先が、順調に進まなかったのだ。
理由は、解っている。
山賊のボスである、アフロ野郎が異常に強いのだ。
何度挑んでも、一撃で殺されてしまう。
俺一人では勝てないので、ヒミコや村の人間に協力を求めたが駄目だった。
かれこれ、五十回近くは戦っているが、突破口が全く見えなかった。
自分の頭を強く掻きながら、マコトが呟いた。
もう限界だ!
村なんて放っておいて、逃げよう。
俺はヒミコに貸しなんて――
あるな。
俺はヒミコに、二ヶ月も養って貰った。
文字通り、身を削ったお金で――
「……でも、精神的にも肉体的にも、もう限界だよ……誰か助けてよ……」
マコトが泣いていると、ヒミコが声を掛けてきた。
「大丈夫ですか?」
ヒミコを睨みつけて、マコトが叫んだ。
「大丈夫じゃないから、泣いているんだよ!」
いかん、感情的に言葉を返してしまった。
もう抑えが効かなくなっているみたいだ。
マコトが言い訳を考えていると、ヒミコが提案してきた。
「あなたの悩みを、私に話してみませんか? ほら、他の人に話すと、楽になるっていいますよ」
マコトが顔を上げると、ヒミコが困惑した表情を浮かべていた。
たぶん、俺は相当酷い表情をしていたのだろう。
若干の沈黙の後、ヒミコが微笑んだ。
「でも、お金の相談とかはしないでくださいね。私の家は、貧乏なので」
この笑顔を守るために、もう少しだけ頑張ってみよう。
でも、途中で力尽きても、文句は言わないでくれよ。
本当に限界なんだから――
山賊が村に迫っていることを、ヒミコに告げた。
こちらが真剣に伝えると、ヒミコはちゃんと行動してくれるので、こうすることにしたのだ。
さてと、俺はいつものように納屋に行って、武器を確保するか。
槍がないと、最初の三人組が倒せないのだ。
そんなことを考えていると、納屋に到着した。
そして、武器を調達していると、山賊がやってきた。
いつもの三人組(斧使い・剣士・弓使い)だ。
三人組が納屋の前を通り過ぎたので、マコトがいつものように背後から襲いかかった。
よし、斧使いを殺せた。
続けて、呆然と立ち尽くしていた、剣士の喉を切り裂いた。
ここまでは、いつもの作業だ。
そこで、混乱から立ち直った、弓使いが矢を放ってきた。その矢を避けるために、マコトが前方に飛び込んだ。
今回は上手く飛び込めたので、矢が左肩にかすっただけですんだ。
うん、順調だ。
マコトが飛び掛って、弓使いを地面に押し倒した。
よし、上手くいった。
「助けて」という弓使いの言葉を無視して、マコトが敵の喉に鎌を振り下ろした。
まもなく、弓使いの喉から血があふれ出して、弓使いが動かなくなった。
ふう、これで第一関門は突破だ。
次は、敵の副長がいるモヒカン隊(マコトが、勝手に命名した)をやりにいこう。
ここを叩かなければ、ヒミコの父親が殺されてしまうのだ。
マコトが、村の裏口に回った。
そういえば、ちゃんと裏口を確保して、村人を殲滅しているってことは、敵の指揮官はかなり優秀だよな。
そんなことを考えていると、モヒカン隊の四人が見えてきた。
ハッキリ言って、こいつらは雑魚だ。
始めて戦ったときも、あっさりと勝てた。
こいつらの問題は、援軍を呼ぶことだ。
敵のリーダーであるアフロ野郎を呼ばれたら、こちらの負けが確定してしまう。
だから、副長のモヒカンではなく、特殊な笛を持っている男から殺すのだ。
敵の集団に、マコトが近づいていく。
戦闘を繰り返してきたおかげで、暗殺の技術だけは上がったな。
まあ、真正面からの戦いでは勝てないし、こうなって当然か。
そんなことを考えていると、特殊な笛を持っていた山賊が振り返った。
目が合った山賊が『お前は、誰だ?』と発言しようとしたので、マコトが無言で山賊の喉を切り裂いた。
よし、一匹目を倒せた。
「お、お前は何者なんだ!」と叫びながら、モヒカンが突っ込んでくる。
いつも通り、バカで助かるよ。
モヒカンの攻撃を避けて、マコトが敵の胸にナイフを叩き込んだ。直後、モヒカン隊の人間がバラバラな方角に逃げていった。
ふう、これで第二関門も突破だ。
ここまでは、何の問題もない。
問題は、これからだ。
本当に、どうやったら山賊を倒せるのかな?
いや、山賊を倒すではなく、山賊を追い返すにハードルを下げよう。
これなら、まだ何とかなりそうだった。
問題は山賊のボスである、アフロ野郎だ。
あいつさえ、戦闘に加わらなければ、簡単に勝てるのに――
わかった。
敵の士気を下げて、山賊を撤退に追い込もう。
まずは、敵の副将の首を切り落として、敵に投げつけよう。
これで、相手の士気が下がるはずだ。
マコトが手際よく、敵の副将の首を切り落とした。
こんな事ばかり上手くなってもな…………
そんなことを考えながら、マコトが敵の本隊に真正面から挑んだ。
思えば、戦闘能力に自信がなかったので、姑息な暗殺ばかりしてきた。
だが、こういった風に、真正面から挑むのは気持ちがいいな。
敵の副長の首を投げつけて、マコトが叫んだ。
「すでに別働隊は始末した! 逃げるなら、いまのうちだぞ!」
こちらが煽ると、敵の大将であるアフロ野郎が叫んできた。
「副長の仇を取るぞ!」
直後、山賊たちが声を揃えた。
「「おう!」」
ああ、敵の副長は人望があったのね。
ちゃんと、覚えておこう。
そんなことを考えながら、突っ込んでくる山賊を対処していく。
あれ?
山賊って、こんなに弱かったっけ?
簡単に、二人ほど殺せたよ。
やっぱり、五十戦近くも戦っていると、猛者になってしまうのか。
達人になると、敵の体に線が見えるようになると聞いたことがある。
俺の場合は、線は見えなかった。
だが、その代わりに、女性の声が聞こえてきていた。
その声の指示に従えば、面白いように敵が倒せるな。
まあ、精神的に限界に達したので、幻聴が聞こえているだけかもしれないな。
そんなことを考えていると、敵のボスであるアフロ野郎が叫んできた。
「距離を取って、飛び道具で仕留めろ!」
何だって!
「20対1なのに、飛び道具を使うなんて卑怯だぞ!」
こちらの叫びを無視した、敵の弓兵が矢を放ってきた。
くそ、この量だと全て避けるのは無理だ。
全力で避けようとしたが、マコトが数本の矢をくらい地面に倒れた。
まあ、こうなるよね。
やっぱり、真正面から挑むのは、下策だ。
次は、敵の大将である、アフロ野郎を暗殺する方法を見つけよう。
そんなことを考えていると、敵の大将であるアフロ野郎が前に出てきた。
「降伏して、俺の部下にならないか?」
初めての展開だった。
まあ、真正面から戦ったのは、始めてだし当然か。
若干の沈黙の後、マコトが口をひらいた。
「悪いね。俺は、この村に守りたい人がいるんだよ」
自分で言っていてなんだが、カッコいい台詞だな。
まあ、その守りたい人は、俺のことなんて覚えてないんだけどね。
「……残念だ……」と呟いてから、アフロ野郎が近づいてきた。
元々、向こうの方が強いし、こちらが大怪我をしている状態では勝ち目はないだろう。
いや、たとえ相手が格上でも、相打ち狙いなら何とかなるはずだ!
マコトが覚悟を決めて睨みつけると、敵が足を止めた。
早く来てくれないかな?
かなり出血が酷くて、辛いんだけど…………
そこで、敵のボスであるアフロ野郎が叫んだ。
「退却だ!」
意味がわからん。
いや、敵としては、死兵を相手にしたくなかっただけか。
けっこう、簡単だったんだな。
ほどなくして、敵の姿が完全に見えなくなった。
直後、安心したマコトが、意識を失った。