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第8話 籠城戦

 翌日の早朝。

 朝食を食べ終えたマコトが、正面門(東門)の城壁の上に到着した。


 敵兵が攻撃の準備をしているな。


 てか、敵には攻城兵器がないと思っていたが、小物(組み立てたハシゴや弓矢など)はあるんだな。


 まあ、それらなしでの攻勢なら、楽が出来ただろう。

 だが、楽はさせてくれないようだ。


 東門にいる敵兵の数は、おおよそ6000。

 こちらは、3000ほどで対処する予定だ。


 地の利があるとはいえ、厳しい戦いになるだろう。

 てか、俺がこの世界にきてから、楽な戦いなんて一回もなかったな…………


 たまには、楽な戦いがしたいよ。


 そんなことを考えていると、部下が不安そうな表情を浮かべていた。


 このままでは、いかんな。

 部下の士気を向上させなくては。


 大きく頷いた後、マコトが力強い口調で言った。


「大丈夫だ! 

 俺はこれまでの戦いで、一度も負けたことはない!


 今回も、必ず勝つ!」


 こちらの宣言を聞いた、部下が安堵の表情を浮かべていた。


 やっぱり、指揮官は強気な発言をして、味方の士気を上げなくちゃ駄目なんだな。


 俺も立派な脳筋になって、強気な発言が自然に出てくるようになろう。


 いや、俺は総大将なんだ。

 どれだけ大変でも状況を見極めて、冷静に対処しなくてはいけないのだ。

 

 だから、このままでいこう。




 二時間後。

 敵、味方の戦闘準備が整った。


 両軍の戦力がある程度拮抗しているし、大勝も大敗もない情勢だと思う。

 それなのに、何で戦うのかな?


 東国の王は、自分の部下が死ぬのが嫌じゃないのかな?

 いま退却を宣言してくれたら、追撃しないと約束するのに――


 まあ、東国の王にも面子があるんだし、いまさら何もせずに引き下がるのは、政治的にかなり厳しいだろう。


 いや、こんな状況だからこそ、戦闘を避けて交渉で、問題の解決を図るべきだ。


 東国の王は、若くて軍事的にも内政的にも優れているという評判だが、噂ほどではないのかもしれない。


 まあ、これは俺の願望か…………


 そんなことを考えていると、敵の大将らしき男(服装が、すごく豪華)が、部下に向かって演説していた。


 部下の士気を上げるために、東国の王も頑張っているんだな。


 そこで、そばにいた部下が、演説をして欲しそうな視線を向けてきた。

 正直に言えば、面倒なんだが、これも上級貴族の当主(総大将)の義務なのだ。


 大きく頷いた後、マコトが熱い口調で語りかけた。


「諸君、もうすぐ決戦が始まる!

 今回の戦い、状況的には、ほぼ五分だ!」


 実際のところは、こちらがやや不利だと思う。

 だが、あまり悲観的なことを語ると、味方の士気が下がるからな…………


 五分ということにしておこう。


 そんな内心は表には出さずに、マコトが強い口調で言葉を続けた。


「今回の戦いは、厳しい戦いになるだろう。

 そして、多くの人間が死ぬことになる!」


 そこで、部下の表情が曇った。

 まあ、戦死する確立が高いと言われたら、ブルーになって当然だろう。


 だから、マコトが手を振り上げて叫んだ。


「この困難な状況を覆すためには、諸君一人、一人の力が必要だ!」

 そこで、多くの部下が顔を上げた。

 

 やっぱり、必要だと言われて嬉しかったのだろう。

 人間は単純だよね。


 大きく息を吸い込んでから、マコトが言葉を続けた。


「あえて言おう。

 帰りたい人間は、帰れ!


 俺は臆病者を必要としていない!」


 本当は臆病者も必要なんだけど、ここは極論を言う場面だからな。

 突っ込まないで欲しい。


「そして、村に帰って『家族を見捨てた! 友を見捨てた、臆病者』と罵られて、残りの一生を惨めに暮らせ!」 

 

 事実なんだが、毎回脅迫するような事ばかり言っているよな…………


 そこで、部下たちが雄叫びを上げた。


「そんなのは、嫌だ!」

「俺は、戦うぞ!」

「勝利を、この手に!」


 どうやら、俺の演説は成功したようだ。

 毎度のことながら、演説能力が向上していくのは、どうなんだろうな…………


 そんなことを考えていると、敵陣からも雄叫びが聞こえてきた。


 どうやら、敵軍の演説も終わったようだ。

 いよいよ戦闘が始まるのだ。


「よし、これから敵が攻めてくる! 迎え撃つぞ!」

 こちらの宣言を聞いた、部下たちが大声で答えた。


「「おお!」」

 こうして、決戦が始まった。




 戦闘開始、一時間後。

 戦況を見つめていた、マコトが心の中で呟いた。


『予想していたよりも、敵軍はやる気がないな』


 まあ、国境を接している領主や国王以外は、勝利しても領地が増えるわけではない。


 そして、周辺の領主の多くは避難しているから、略奪もそんなに期待できない。


 やる気がなくなって、当然の状況だろう。


 北と南の門も、同じような状況みたいだし、このまま行けば、こちらの優勢勝ちになるだろう。


 うん、この状態をキープしたいな。


 そんなことを考えていると、敵軍の指揮官(東国の王)が叫んだ。


「怯むな! もうすぐ、この砦は落ちる! 俺に続け!」

 そう叫びながら、東国の王が前線に出てきた。


 おい、おい。

 たかが、国境の砦での戦いだぞ。


 国王であるお前が、命を掛ける価値なんて絶対にない。

 それなのに、前線に出てくるなんて、バカとしか思えない…………


 敵がバカなことは、本来ならば歓迎したい。

 だが、今回の場合は、敵が勢いづいていた。


 くそ、これだから脳筋を、完全にバカに出来ないのだ。


 どうする?

 俺も前線に出て、味方の士気を上げるべきか?


 いや、俺は戦闘能力が、そんなに高くないからな…………


 マコトが迷っていると、東国の王がハシゴを使って、こちらの城壁を上ろうとしていた。


 おい、おい。

 幾らなんでも、前に出すぎだろ。


 集中攻撃すれば、討ち取れるんじゃないか?


 いや、討ち取れなかったら、東国の王に恨まれてしまう(先程から一騎打ちを申し込んできている、脳筋野郎なので、名前を覚えられたくなかった)


 ここは適度に、怪我をさせるぐらいにしておこう。


 そこで、マコトが嗜虐的な笑みを浮かべた。


 そんな調整が出来るほど、俺や我が軍の兵士に余裕はない。

 いま俺がやらなくてはいけないこと――

 

 それは、全力で東国の王を殺すことだ。

 後のことなんて、知るか。


 東国の王を指差して、マコトが叫んだ。


「あれが、敵の大将だ! 狙え!」


 直後、そばにいた弓兵が、一斉に矢を放った。その矢が直撃して、東国の王がハシゴから転げ落ちた。


 やったか?


 マコトが身を乗り出して確認すると、東国の王が叫んだ。


「ひくな! ひくな! ひくな! 俺は、健在だぞ!」


 やはり討ち取れなかったか。

 遠目からでも解るぐらい、よい装備をしていたからな…………


 さてと、城門を開けて、攻勢に出るべきか?

 いや、平地での戦いになったら、人数が少ないこちらが不利になってしまう。


 攻勢に出るべきではないだろう。


 そんなことを考えていると、敵兵が東国の王を回収して自陣に戻っていった。


 俺は大勝利のチャンスを逃してしまったのだ。

 いや、用兵の天才ではない、俺ならこれで十分だ。


 大きく頷いた後、マコトが叫んだ。


「敵の大将が逃げて行ったぞ! こちらの勝利だ!」

 直後、部下が大声で答えてくれた。


「「おお!」」

 こうして、初日の戦闘が終わった。




 その日の夜。

 敵軍から、使者がやってきた。


 思っていたよりも、敵の動きが早かったな。


 もう二~三日戦ってから、停戦交渉に入ると思っていたが、東国の王が怪我をした影響があるのかな?


 そんなことを考えていると、敵軍の使者が応接室に入ってきた。


 あれ?

 使者の一人が女だな。


 籠城している側ならともかく、侵攻軍の使者が女なのは珍しい。

 人質として、こちらに預けるつもりなのかな?


 てか、あの女に見覚えがあるんだが…………

 いや、俺はあの女を実家に追放して、戻ってきたら『殺す』と宣言したんだ。


 あの女が、敵軍にいるはずがない。


 そんなことを考えていると、敵軍の使者(正使)が自己紹介を始めた。


 動揺を隠して、マコトも無難に自己紹介を行った。そして、問題の女性が前に進み出て、大きな声で言葉を発した。


「私は十龍の当主である、白鳳ハクホウの母親メープルです!」

 

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