表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/73

第7話 決戦前夜

 三日後。

 マコトが無事に、自国の砦に戻ってくることができた。


 砦に立て籠もっていた敵兵二千が追撃してくれば、返り討ちにするつもりだった。


 だが、砦に立て籠もっていた敵兵の将は、慎重な性格だったみたいだ。

 話が合いそうだし、ぜひスカウトしたいな。


 まあ、本当に降伏してきたとしても、重職につけるのは早くても数年後になるだろう。


 そんな先のことよりも、いまが大事なのだ。


 そんなことを考えていると、山東地方の領主であるハンゾウと、脳筋領主のアカツキが報告にやってきた。


 えーと、ハンゾウに任せていた仕事は、問題ないようだ。

 頼んでおいた城壁の修理も、ソツなくこなしている。


 流石、上級貴族の当主だ。

 この要領のよさは、見習いたいものだ。

 

 そして、脳筋領主であるアカツキの方に頼んでおいた、周辺の領主の避難は、六割ほどが完了していた。

 

 目標は八割ぐらいだったから、失敗といえば失敗だ。

 だが、初めての仕事なら、こんなものだろう。


 てか、俺がやっていても、八割を達成できたか解らないからな…………

 少ない時間で、よくやってくれたと思う。


 マコトが労いの言葉をかけると、脳筋領主のアカツキが嬉しそうな表情を浮かべた。


 やっぱり、褒めるのは大切だよね。


 そんなことを考えていると、山東地方の領主であるハンゾウが質問してきた。


「マコトさん、ハクビシンさんはどうしたんですか?」

 それを、俺に聞くのか…………


 いや、これから大規模な戦闘になるんだし、自軍のことを把握したいと思うのは当然だろう。


 てか、聞いてこない方が問題だな。


 大きく息を吐き出した後、マコトがこれまでにあったことを語った。




 五分後。

 こちらの説明を聞いた、幹部二人が暗い表情を浮かべていた。


 まあ、幹部の一人が行方不明になったんだから、当然の反応だろう。

 だから、マコトが士気を上げるために微笑んだ。


「大丈夫。あのハクビシンさんが、お酒を残して死ぬなんてありえません!」

 こちらが力強い口調で断言すると、幹部二人が笑みを浮かべてくれた。


 おお、ハクビシンさんのお酒好きは、すっかり浸透しているんだな。


 それにしても、自分でも信じていないことを、他の人間に語るのは本当に辛いんだな…………


 てか、山東地方の領主である、ハンゾウの目が笑っていなかった。


 ああ、こちらの本心を把握しているのだろう。

 本当に、抜け目がない人間だ。




 そして、二日後。

 敵の援軍一万が、砦の前に到着した。


 おや?


 砦に立て籠もっていた兵、二千がいるはずなのに、目の前には一万しかいないな。


 砦にある程度(千ぐらい?)残したとしても、敵兵の数が少なすぎる。


 たぶん、ハクビシンさんが、敵を減らしてくれたのだろう。

 本当にハクビシンさんには、感謝の言葉しか出てこない。


 そして、敵軍には攻城兵器が全くなかった。


 砦を攻めることが確定しているのに、攻城兵器を用意してないのは変だ。

 これも、ハクビシンさんがやってくれたんだと思う。


 さらに敵軍の様子を探っていると、敵軍は明朝に総攻撃を仕掛けてくるようだ。

 普通なら、攻城兵器が用意されるのを待つのに――


 敵は食料が不足しているのかな?

 それ以外に、敵が短期決戦を望む理由が思いつかない。


 食料の不足か。

 たぶん、これもハクビシンさんがやってくれたのだろう。


 こちらの兵は、5500

  敵の兵は、10000


 地の利はこちらにあるし、何とか勝負できるラインに持ち込むことが出来た。

 てか、俺はどれだけハクビシンさんに借りが出来たのかな?


 師匠ハクビシンさん

 生きて戻ってきて、俺に借りを返させてください!



 

 そして、決戦前日の夜。

 幹部を集めて、マコトが作戦会議を開くことにした。


 メンバーは、三人。


 十龍の当主である、マコト。

 十龍の西部地方の代表者として、アカツキ。

 山東地方の領主である、ハンゾウ。


 以上の三名だ。


 まあ、人数が少ないと思うが、無理に増やしても意味がないからな。


 大きく頷いた後、マコトが配置についての説明を始めた。


 まず、一番激戦が予想される正面門(東門)は、俺が担当することにした。

 一番重要なところは、一番実戦経験が裕福な人間が担当するべきだろう。


 てか、こちらの世界にきてから、五年でベテランになるって、どれだけ過酷な人生を歩んできたんだか…………


 まあ、本題に戻ろう。


 えーと、脳筋領主であるアカツキには、二番目に大変な北門を任せることにした。


 アカツキに任せるのは、不安なんだけど、他に人材がいないからな。

 まあ、成長してくれることを期待しよう。


 そして、山東地方の領主であるハンゾウには、一番楽な南門を任せることにした。


 まあ、危険な場所への配置を拒否していたし、妥当な配置案だろう。


 基本的な説明が終わったので、マコトが細かい指示を出そうと思った。

 そこで、山東地方の領主であるハンゾウが意見を述べてきた。


「マコトさん! 私は南門を担当したくありません!」

 いまさら、苦情かよ。


 マコトが目で理由を尋ねると、ハンゾウが言葉を続けてきた。


「南門を担当したら、私の部下が大勢死にます!」


 まあ、ハンゾウは始めから、そう言っていたからな。

 それに、逆の立場だったら、俺も同じことを言っていただろう。 


 だが、ハクビシンさんが作ってくれた、勝利への細い道を、ここで駄目にする訳にはいかないのだ。


「配置転換の要請は、却下します! 明日の決戦に、ハンゾウさんほどの人間を遊ばせておく余裕はないんです!」


 こちらが強い口調で宣言すると、ハンゾウが睨みつけてきた。


「それだったら、私は帰らせて貰います!」

 すでに一万の兵に包囲されているのに、どうやって帰るつもりなんだよ。

 

 てか、ハンゾウは俺に大きな貸しを作りたいのだろう。

 そのために、駄々をこねているんだと思う。


 上級貴族の当主としては、正しい行動だろう。

 だが、こんな時にでも駆引きをしてくる、ハンゾウに俺はムカついていたのだ。


「帰りたいなら、帰れ! 

 だが、いま帰ってたら、俺はお前のことを一生、許さないからな!」


 それからしばらく、マコトとハンゾウが睨み合っていた。


 ちなみに、脳筋領主のアカツキが、右住左住している。

 少し可哀想だと思うが、我慢してくれ。


 ここが勝負どころなんだ。


 しばしの沈黙の後、ハンゾウが大きな溜息を吐いた。


「……わかりました。私も全力で戦います! その代わりに、この借りは高いですよ!」


 そうだな。

 文字通り、ハンゾウは命がけで戦ってくれるのだ。


 大きく頷いた後、マコトが強い口調で言った。


「この借りを返すために、私はあなたのために命を掛けます!」

 こうして、作戦会議は終了したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ