第6話 包囲戦
三日後。
敵兵二千が立て籠もっている砦の前に、マコトが四千の兵と共に到着した。
先程から挑発しているのだが、敵は砦から打って出てきてくれないな。
まあ、こちらの方が倍近い兵がいるし、当然の判断だろう。
さてと、攻城兵器が用意できていないし、砦を攻め落とすのは困難だろう。
何かいい作戦が思いつかないかな?
たとえば、新しい攻城兵器。
投石機とかは、作れないかな?
いや、材料がないし、そもそも投石機の作り方がわからないのだ。
くそ、せっかく上級貴族の当主になったんだから、現代知識を使って、内政無双(戦場無双)がしたかった。
そこで、マコトがこれまでの失敗(関所の廃止を訴えて、フルボッコにされた)を思い出した。
「…………」
うん、やっぱり地道。
そして、堅実が一番だ。
てか、やることがなさ過ぎて、変なことを考えてしまうのが悪いのだ。
マコトが自分に言い訳していると、部下が報告にやってきた。
えーと、自軍の砦を守ってくれている、山東地方の領主であるハンゾウの所は問題ないみたいだ。
まあ、楽な仕事を割り当てたのだし、問題がなくて当然だろう。
周辺の領主への避難誘導を指揮している、脳筋領主のアカツキはだいぶ苦戦しているようだ。
俺が大軍を率いて、直接お願いすれば、配下の領主は快く(?)避難してくれただろう。
もう少し、アカツキに兵を割り当てるべきだったのかもな…………
えーと、アカツキが『もっと強引に、住民を避難させるべきですか?』と質問してきていた。
個人的には強引に避難させたいが、あまり強引にやりすぎると、配下の領主が大幅に離反してしまうからな…………
これ以上は、無理だろう。
今回、協力してくれなかった領主は、俺が勝った後には冷遇してやるからな。
楽しみに待っていろよ。
そんなことを考えていると、一番危険な任務(敵地の村を破壊する)をしてくれている、ハクビシンさんからの報告が入ってきた。
えーと、ハクビシンさんは、もう二つ目の村を滅ぼしたのか…………
俺が林仲の村の領主(貧村の領主)だった頃に経験した、修羅場をハクビシンさんはやっているのだ。
本当に、苦労をかけている。
『これから、敵地の奥に侵攻するので、連絡が取れなくなります。予定通り一週間経ったら、私からの連絡がなくても退却してください』と、ハクビシンさんからの手紙には書かれてあった。
自分がやらなくてはいけないことは、わかっているつもりだ。
だが、その時になったら、俺は師匠であるハクビシンさんを見捨てることが出来るのかな?
てか、師匠。
無事に戻ってきてください。
俺に、師匠を見捨てさせないでください!
それから、一週間。
ほとんど動きがなかった。
そして、敵の援軍が到着する時刻(退却命令を発しなくてはいけない時期)になってしまった。
東の街道を見つめて、マコトが呟いた。
「ハクビシンさん(師匠)、早く戻ってきてください!」
ここで合流できなかったら、もう二度と会うことは出来ないのだ。
マコトが信じてもいない神に祈っていると、街道から早馬がやってきた。
あれは、ハクビシンさんの部下だ。
よかった。
間に合ってくれたんだ。
マコトが顔を綻ばせて待っていると、早馬に乗った使者が大声で報告してきた。
「マコト様。敵の援軍(一万)の先行部隊(千)が、この先の街に到着しました!」
予想通りの時期だな。
いや、本体が到着する予定だったのに、先行部隊しか到着していないのだ。
予想よりも、敵の動きは鈍いみたいだ。
たぶん、ハクビシンさんが色々とやってくれたのだ。
本当に素晴らしい。
マコトが笑顔で先を促すと、使者が辛そうな表情を浮かべて口をひらいた。
「……三日ほど前に、ハクビシン様は敵の部隊に包囲されました……もう合流するのは不可能なので、マコト様は急いで退却してください!」
くそ、師匠は何をやっているんだよ。
深追いはしないと、約束したのに。
今すぐにでも、ハクビシンさんの元に駆けつけたい。
だが、そうすると戦線が崩壊してしまうのだ。
俺は上級貴族の当主として、やらなくてはいけないことがある。
でも、師匠シンドイよ…………
「……マコト様……」
林仲の村の村長であるグエンが、青ざめた顔で話しかけてきた。
凄い表情だな。
余裕がないのが、一目でわかるよ。
おかげで、少し落ち着くことができた。
しばしの沈黙の後、マコトが左手を強く握り締めた。
「……友軍との合流は、出来なくなった! 予定通り、砦まで退却するぞ!」
こちらの発言を聞いた、幹部達がホッとした表情を浮かべた。
まあ、俺がハクビシンさんの救出を提案しなくて安心したのだろう。
気持ちは解るよ。
でも、俺は――
いや、俺は上級貴族の当主として、正しい決断をしたのだ。
なのに、何でこんなに苦しいのかな…………
マコトが黙ったまま考え込んでいると、早馬に乗った使者が口をひらいた。
「……これは、報告するべきか迷ったんですけど、言います! 今回の敵軍に、傭兵団『赤い川』がいます」
傭兵団『赤い川』は、俺の故郷である林仲の村を襲った傭兵団だ。
俺にとっては、妻の一人であるヒミコの仇だ。
当然、復讐はしたい。
だが、
「……誰も死なずに生きて帰れるなら、俺は復讐を諦めてもいいよ……」
こちらの呟きを聞いた、林仲の村の村長であるグエンが言葉を発しようとした。
だが、俺の表情を見て、グエンが言葉を発するのを止めてしまった。
復讐心に取り付かれていた人間が発言を止めるなんて、俺はどんな表情をしていたのかな?
まあ、知りたくはなかった。




