第5話 作戦会議
一週間後。
東部の国境地帯に、マコトたちが到着した。
大きな問題もなく、無事に到着できて本当によかったよ。
てか、師匠であるハクビシンさんと、久しぶりに再会できるのだ。
すごく嬉しい。
てか、話したいことが一杯あった。
だが、再会した直後。
ハクビシンさんが、片膝をついて頭を下げてきた。
「十龍の当主であるマコト様に、ハクビシンは忠誠を誓います」
ああ、ハクビシンさんは、政治的なことを優先してくれたのか。
ありがたい。
大きく頷いた後、マコトが強い口調で言った。
「十龍の当主として、あなたの期待を裏切らないようにするつもりだ!」
これで、政治的な儀式は終了だ。
まあ、これをやっておかないと、俺が新しい当主になったことを認められない人間が出てくるからな。
さてと、次は今後の方針について話し合うか。
「それじゃあ、会議室に移動して、打ち合わせをしよう」
こちらの発言を聞いた、幹部たちが大きく頷いてくれた。
三分後。
会議室に、我が軍の幹部が揃った。
メンバーは、
十龍の当主である、マコト。
東部領主のまとめ役として、ハクビシン。
西部領主の代表として、アカツキ。
そして、山東地方の領主である、ハンゾウ。
以上の四名だ。
俺を含めて十龍の人間は、経験が浅い。
だから、海千山千のハンゾウに、主導権を取られないように注意したいな。
そんなことを考えていると、ハクビシンさんが最新の情報について語ってくれた。
「こちらの援軍が到着する二日ほど前に、この砦を取り囲んでいた敵兵二千が、自国の砦に逃げ込みました」
まあ、6000対2000だからな。
そりゃあ、逃げ出すだろう。
「そして、敵の援軍おおよそ一万は、あと十日ほどでここに到着します」
敵の援軍の数は、予想通りだったな。
予想外だったのは、敵の動きがこちらの予想よりもだいぶ鈍いことだ。
「もしかして、敵の士気は低いのか?」
こちらが尋ねると、ハクビシンが微笑んだ。
「こちらの内乱が終わったと知って、近隣以外の領主はやる気を失っているみたいです」
おお、素晴らしい情報だ。
てか、やる気がないなら、こちらへの侵攻を辞めてくれないかな?
お金だったら、多少は支払うよ。
まあ、東国の王にも面子があるんだし、そう都合よくはいかないか。
さてと、情報も出揃ったし、基本的な方針を話しておくか。
大きく頷いた後、マコトが強い口調で語りかけた。
「敵の援軍が到着すると、こちらの2倍の兵力になる。だから、基本的には、籠城策を取るつもりだ」
こちらの発言を聞いた、ハクビシンが意見を述べてきた。
「敵の援軍が到着してからは、その方針でいいと思います。ですが、敵の援軍が到着するまでの十日間、このまま籠城しているんですか?」
正直に言えば、ここまで敵軍の動きが鈍いとは思っていなかった。
だから、方策なんて何も考えてなかったのだ。
えーと、今の内に敵の領地に逃げ込んだ、二千の兵を討ち取るか?
討ち取れれば、この後の展開がかなり楽になるぞ!
いや、敵は砦に逃げ込んだのだ。
こちらは攻城戦の用意が出来ていないし、砦を攻め落とすのは難しいだろう。
というか、攻めている途中に、敵の援軍が到着して挟撃されるなんて、最悪の状況は避けたかった。
だが、何もせずに、ここで時間を潰すのは下策だし…………
マコトが考え込んでいると、ハクビシンが意見を述べた。
「今回の敵は大軍なので、私たちが勝つためには、焦土戦術を取るしかないと思います!」
焦土戦術とは、敵の行軍ルートにある村を破壊して、敵の補給路にダメージを与える戦術のことだ。
非常に効果的な戦術なんだが、俺は実行できなかった。
理由は、二つある。
一つは、時間がなかったから。
もう一つは、配下の領主が離反するのが怖かったからだ。
そう目で伝えると、ハクビシンが大きく頷いた。
「国境付近の領主には、すでに避難要請を出しました」
要請か……
まあ、命令にすると離反される可能性があるから、その辺が落とし所だろう。
「周辺の領主は、どれぐらい避難しているんだ?」
こちらが尋ねると、ハクビシンが厳しい表情で答えた。
「女子供を親戚の所に預けている領主は、半数ほどです」
残りの半数は、敵の大軍がやってきたら寝返るつもりかもな…………
やれやれ、どうやら厳しい決断をしなくてはいけないようだな。
しばしの沈黙の後、マコトが強い口調で言った。
「わかった。周辺の領主には『住民全てを連れて、この砦に避難しろ』と伝えてくれ。なお、拒否した場合は、討伐対象だ!」
こちらの宣言を聞いていた、西部領主の代表であるアカツキが渋い表情を浮かべていた。
まあ、領主としては、いい気分がしなくて当然だろう。
だから、マコトが懐柔策も出すことにした。
「なお、俺の命令に従って受けた損害については、俺が全て補填するつもりだ!」
ああ、またお金が消えていく。
でも、これぐらいしないと、部下の領主が離反してしまうからな。
てか、上級貴族の当主になってから、部下に気を遣ってばかりのような気がする…………
いつか、好き勝手に行動してやるからな。
そんなことを考えていると、ハクビシンさんが意見を述べてきた。
「この城の周辺については、それでいいと思います。私は敵地に侵入して、街道沿いの村を破壊します」
それは、とても有効な作戦だと思う。
だが、
「その作戦は、危険すぎるだろ!」
よくて、五割。
いや、二割の確率で、生き残れればいい方だろう。
こちらの意見を聞いた、ハクビシンが静かに微笑んだ。
「正直、私もよい策だとは思いません。ですが、不利な状況を覆すには、これぐらい危険な策を実行するしかないんです!」
正直なところ、強く反論したかった。
だが、他にいい案が思いつかなかったので、ハクビシンさんの意見が採用されることになった。
当主なのに、俺は無力だな…………
てか、ハクビシンさんの表情が、いつもに比べて硬いな。
まあ、それだけ厳しい戦いだということだろう。
そんなことを考えていると、仕事の割り当てが完了した。
城の守備は、山東地方の領主であるハンゾウが担当することになった。
まあ、一番安全で楽な仕事だし、妥当だろう。
周辺住民への避難誘導は、西部領主の代表者である、アカツキが担当することになった。
まあ、同じ領主だし、上手くやってくれるだろう。
たぶん。
そして、砦に逃げ込んだ敵兵二千の押さえは、当主である俺が担当することになった。
まあ、四千の兵を率いることが出来るんだし、そんなに難しい仕事ではないだろう。
あえて難しいところを上げるとすれば、退却のタイミングを間違えると全滅することになるだろう。
上手くやりたいな。
最後に、敵地に侵入して、敵の補給路を破壊するという危険な仕事を、ハクビシンさんが担当することになった。
本当に、生きて帰ってきて欲しかった。
作戦が正式に決まったので、会議室から幹部たちが出て行った。
けっこうな強行軍だったから、休憩するのだろう。
俺も話が終わったら、休むつもりだ。
会議室から人がいなくなった所で、ハクビシンさんが頭を下げてきた。
「マコトさん、上級貴族の当主代行の座を押し付けて、すみませんでした!」
いまさら、何でそんな昔の話を――
いや、俺が上級貴族の当主代行になってから、まだ半年も経っていなかった。
そんなに昔ではないんだな…………
本当に激動だった。
てか、よく生き残れたものだ。
マコトが自分の幸福を噛み締めていると、ハクビシンが言葉を続けてきた。
「上級貴族の当主代行になったせいで、マコトさんは大変な目にばかり遭いました!」
まあ、そうなんだが。
俺が十龍の当主代行にならなかったら、もっと混乱していたような気もする。
だから、マコトが微笑んだ。
「たら・れば、を言ったらキリがないので、この話はここまでにしておきましょう」
小さく頷いた後、ハクビシンが決意を込めるようにして言った。
「わかりました。
この借りは、戦場で返させて貰います。
今回の戦い、私が勝利に導いて見せます!」
たとえ、戦死しようとも――
ハクビシンさんの目が、そう語っていた。
だから、マコトが叫んだ。
「ハクビシンさん! 死んじゃ駄目だ!」
「ですが、死ぬ覚悟がなければ、今回の作戦は成功させられ――」
ハクビシンの肩を掴んで、マコトが熱く語りかけた。
「ウチの領地は、人材不足なんだ! ハクビシンさんが死んだら、誰に部隊の指揮を任せればいいんだ!」
こちらの切実な思いを聞いた、ハクビシンが戸惑った表情を浮かべた。
「……えーと、新しい人材を育てれば、いいんじゃないかな?」
ふざけるな!
「使えるようになるのは、何年後だ!」
ハクビシンさん級の人材になるのは、早くても十年後とかだぞ。
そんなに待てるか。
抗議の意味を込めて睨みつけると、ハクビシンが苦笑いを浮かべた。
「色々と覚悟していたのに、台無しです」
俺も、そう思うよ。
だから、マコトが笑いかけた。
「ハクビシンさんに真面目な表情は似合いません! いつもみたいに、お酒の心配をしていてください」
『俺のことを何だと思っているんだ!』といった感じの表情を浮かべていたが、口に出しては抗議してこなかった。
やっぱり、お酒は好きなんだな。
若干の沈黙の後、ハクビシンが大きな溜息をついた。
「そうですね。戻ってきたら、たくさんお酒を飲みましょう」
よし、いつものハクビシンさんに戻ってくれた。
「ええ、私は上級貴族の当主になったから、いい酒がたくさん手に入りますよ!」
こちらの発言を聞いた、ハクビシンが最高の笑顔を浮かべた。




