第4話 山東地方の領主との交渉
東国が大攻勢を仕掛けてくる、という情報が入ってきてから一週間。
俺は首都に残って、部下の領主たちへの援軍要請の手紙を書いていた。
彼らに一人でも多くの兵を出してもらうために、脅したりなだめすかしたりして、とても大変だった。
てか、上級貴族の当主になってからも、貧村の領主だった頃とやっていること(派閥の利害調整)に、そんなに変化がないような気がする…………
一発逆転を狙って、一騎打ちとかを申し込んでくる人間の気持ちが解ってきた。
だって、細かい交渉って面倒なんだよ。
まあ、俺は一騎打ちが出来るほど強くはない。
だから、地道に頑張っていくしかないのだ。
さてと、これで主要な人間への根回しは終わった。
あとは、山東地方の領主から協力を得られれば、五千の兵を動員することが出来る。
これだけあれば、地の利もあるし、そこそこは戦えるはずだ。
だが、山東地方の領主の協力が得られなければ、こちらは三千強の兵しか動員できない。
この兵力では、勝負にならないだろう。
その場合は、降伏でもしようかな?
そんなことを考えていると、山東地方に交渉に行っていた、クロの部下が執務室に駆け込んできた。
「マコト様、喜んでください! クロ様が、山東地方の協力を取り付けました!」
そいつは、朗報だ。
マコトが顔を綻ばせながら、話の続きを促した。
「山東地方の領主である、ハンゾウ様が二千の兵を率いて援軍として来てくれます!」
当主本人が、二千(ほぼ全力動員)で来てくれるって、ほぼ最高の待遇じゃないか!
だが、あの打算的な人間が出してきた、条件を聞くのが怖いな…………
マコトが憂鬱な表情を浮かべていると、部下が笑顔で報告を続けてきた。
「山東地方の領主であるハンゾウ様は、マコト様と直接会って、細かい条件を決めたいそうです!」
おや?
細かい条件を決める前に出兵するとは、打算的なハンゾウらしくないな。
いや、自分が援軍を出さないと、俺が敵に寝返ると判断したのかもしれない。
てか、その判断は、そんなに間違ってないからな…………
とにかく、これで西部の国境については問題が解決したのだ。
近くにいた西部領主の代表者であるアカツキに、マコトが強い口調で言った。
「アカツキさん、兵を率いて東部(ハクビシンさんの所)に行ってくれ」
大きく頷いた後、アカツキが大声で答えた。
「任せてください!」
これで、敵の増援が来るまでは持ってくれるだろう。
一週間後。
山東地方の領主であるハンゾウが二千の兵を率いて、十龍の街にやってきた。
こちらが援軍要請してから一週間で来るって、ほぼ最速だな。
まあ、少し前まではウチの領地で内乱をやっていたし、いつでも動けるように準備していたのだろう。
てか、領主の直属兵が半数ほどで、残りの半数は傭兵だな。
忠誠心とかやる気を考えると、領民のほうがいいんだが、機動力があるのは傭兵団の強みだな。
というか、打算的なハンゾウが雇った、大量の傭兵。
給料は、俺が支払うことになりそうだな…………
ウチの領地は、今年に入ってから四回目の戦いだし戦費が持つかな?
まあ、金庫が空になっても、勝てばいいのだ。
負けたら、全て失ってしまうからな――
そんなことを考えていると、山東地方の領主であるハンゾウがやってきた。
「ハンゾウ様、援軍に来てくれて感謝します」
こちらが頭を下げると、ハンゾウが強い口調で言った。
「そういった挨拶はいいので、本題に入りましょう」
こちらとしても、その方が助かるので執務室に案内した。二人が部屋に入った直後、ハンゾウが強い口調で言葉を発した。
「ウチの兵士の滞在費と、私が雇った傭兵団への支払いは、マコトさんがやってください!」
口調は丁寧だが、こちらの意見は聞かずに決定事項みたいに話すんだな…………
まあ、俺が拒否したら、ハンゾウは帰ってしまうし支払うんだけどね。
マコトが心の中で血の涙を流していると、ハンゾウが強い口調で言葉を続けた。
「私は自分の兵を失いたくありません!」
そりゃあ、俺だって部下には死んで欲しくないよ。
だが、戦争になったら、人なんて死んでいくものだ。
そう目で伝えると、ハンゾウが大きく頷いた。
「そうですね。
戦争になれば、人は死にます。
だから、私は危険な場所への配置を拒否します!」
清々しいまでに、クズである。
だが、逆の立場だったら、俺も同じ要求をしていただろう。
だから、ハンゾウの要求を拒否できなかった。
「……わかりました、ハンゾウ様の直属の兵は、危険な場所に配置しません」
その代わりに、傭兵は使い潰すからな。
そんな思いを込めて睨みつけると、ハンゾウが微笑んだ。
「よろしく、お願いします!」
こうして、ハンゾウとの交渉が終わった。
自軍の犠牲を気にせずに、一生懸命戦ってくれる援軍って、どこかにいないかな?
いや、自分がやらないことを、人に求めるのは間違っているか。
そして、翌日。
全ての準備が整ったので、マコトが東部に出兵することにした。
そこで、妻であるエクレアが近づいてきた。
「……マコトさん、行ってらっしゃい……」
前回に比べると、表情がだいぶ暗くなったな。
まあ、今回の敵は大軍だし、厳しい戦いになるのだから当然だろう。
よし、夫として、妻の表情を明るくしてやろう。
大きく頷いてから、マコトが微笑んだ。
「ハッキリ言おう!
大勝するのは無理だ!
でも、ちゃんと勝利して戻ってくるから、待っていてくれ!」
こちらの発言を聞いた、エクレアが顔を綻ばせた。
「はい、マコトさんの帰りを、お待ちしています!」
よし、奥さんが笑ってくれた。
俺の対人スキルも、捨てたものではないな。
そんなことを考えていると、娘であるイヨが近づいてきた。
おお、娘も挨拶してくれるんだな。
マコトが顔を綻ばせていると、イヨが林仲の村の村長であるグエンに話しかけた。
「グエンさん、行ってらっしゃい。絶対に、無事に戻ってきてくださいね」
少し驚いた表情を浮かべた後、グエンが微笑んだ。
「はい、無事に戻ってきます」
そして、二人が見つめ合っていた。
「ゴホン! ゴホン!」
わざとらしい咳払いをしてマコトが自己主張すると、娘であるイヨが気づいた。
「ああ、パパも行ってらっしゃい」
俺は、娘にちゃんと挨拶された。
だから、全然悔しくないからね!
本当だよ!
そんなアホなことを考えていると、妻であるエクレアが口をひらいた。
「マコトさん、そろそろ時間です。出発の挨拶を!」
くそ、後でグエンとは話し合うからな。
広場に集まっていた部下の所に移動して、マコトが強い口調で語りかけた。
「諸君、十龍の領主であるマコトだ! まずは、私の呼びかけに応じてくれたことに、感謝する」
そして、部下たちを睨みつけて、マコトが叫んだ。
「今年に入ってから、四度目の動員!
ウンザリしている人間も多いだろう!
だが、一番ウンザリしているのは、俺だ!」
こちらの発言を聞いていた、部下たちが戸惑っていた。
まあ、本来は味方の士気を上げるためにする演説だからな。
戸惑うのは当然だろう。
大きく頷いてから、マコトが強い口調で語りかけた。
「だが、これまでの戦いとは違い、今回の敵は外国勢力だ!」
今年一回目の戦いも外国勢力だったが、そこは突っ込まないで欲しい。
「負けた場合、領地を奪われ!
愛する民が蹂躙されるのだ!
諸君は、我慢できるのか!?」
こちらが問いかけると、多くの兵士が声を揃えた。
「「「できない!」」」
そうだろう。
それが、人情というものだ!
「それならば、俺に力を貸してくれ! 必ずや、勝利をもぎ取ってみせる!」
ちなみに、方策なんて何もない。
だが、俺は当主として、強気な発言をしなくてはいけないのだ。
本当に、上級貴族の当主はブラックだよな…………
そんなことを考えていると、部下たちが雄叫びを上げた。
「「「おお!」」」
俺の演説能力が、また向上してしまった。
こんな能力が上がらなくてもいいような、楽な敵と戦いたいな。
そんなことを考えながら、マコトが叫んだ。
「よし、出発だ!」
こうして、マコトが東部へ向かった。




