第3話 山東地方への援軍要請
東国の国王が、大規模な動員を発表した。
だから、俺は対策を練るために、東部への出兵を中止して執務室に戻ってきた。
現在、執務室には――
十龍の当主である、マコト。
俺の妻である、エクレア。
ハクビシンさんの副官である、クロ。
そして、西部領主の代表者として、アカツキの四人が集まっていた。
これが、現在の十龍の領地の幹部だ。
上級貴族の幹部としては、全員経験が不足しているな。
まあ、贅沢は言っていられないか。
そんなことを考えていると、東国の情報を持ってきた使者の説明が終わった。
執務室にいる人間の多くが、暗い表情を浮かべている。
まあ、かなりの凶報だし、当然の反応だろう。
そんな暗い雰囲気の中で、脳筋領主であるアカツキが気楽な口調で言葉を発した。
「何で、東国はこの時期に大規模な動員を掛けたんですかね?」
何でって、そりゃあ――
「現在、ウチの国の中央では、聖女派閥と反聖女派閥が内乱中。そして、ウチの領地(十龍)では、内乱をやっていたからな」
俺が逆の立場だったら、絶対に攻勢に出るだろう。
てか、『援助するから、こちらの国に属さないか?』なんて手紙が東国から来ていた。
その時には、すでに内乱が終わっていたから、すぐに断れた。
だが、状況が厳しかったら、向こうの援助を受け入れていたかもしれない。
てか、このタイミングで大動員の情報が入ってくるってことは、敵はまだウチの領地が内乱中だと思っているんじゃないか?
もしそうなら、こちらの情報(すでに内乱が終わった)を流すだけで、敵の動員を減らすことが出来るかもしれない。
マコトが東国との交流がある商人を呼んで、現在の十龍の情報を流すことにした。
まあ、どの程度効果があるのかは解らないが、やっておいて損はないだろう。
えーと、
次にするべきことは――
「東国の王は、どこの領主にどれだけの動員を掛けたんだ?」
マコトが尋ねると、報告にやってきた使者が地図を指差しながら説明を始めた。
おっと、ウチの領地と国境を接している領主だけではなくて、かなり遠くの領主にも動員をかけているな。
やはり、こちらが内乱中だと思っていて、大規模な攻勢を掛けてきたのだろう。
こちらの情報が伝われば、動員数は大幅に減ってくれるはずだ。
敵の公称人数は、二万四千。
この世界では、公称人数と実数の差は、二倍ぐらいはあるものだ。
だから、敵の実数は、一万二千。
そして、こちらの情報が伝われば、一~二割減ぐらいは期待できる。
かなり甘めの計算だと、敵の総数は一万前後になるだろう。
一万か…………
こちらは、全てかき集めても、四千が精一杯だ。
籠城策だけでは、厳しいだろう。
だったら、降伏してあちらにつくべきか?
いや、内乱を終えたばかりだし、俺に従う領主がどれだけいるか。
てか、本国を裏切ったら、白鳳を総大将にして、聖女様が兵を送り込んでくる可能性すらある。
ここは、戦うのが無難だろう。
「……はあ……兵力差は、2、5倍か……」
これは、勝つのが相当難しいだろう。
いや、敵を追い返せれば、こちらの勝利だと考えておくべきだな。
さてと、敵とはかなりの兵力差があるし、籠城策がメインになる。
しかし、籠城するにしても、敵との兵力差は二倍以下にしておきたいな。
そうなると、どこかに援軍を頼む必要があるだろう。
現在内乱中だから、中央は当てにならない。
そうなると、国境を接している上級貴族(勢力的には、山東地方)しか頼れる人間はいない。
あいつに頼むのはすごく嫌だが、他に方法がないからな。
仕方がない。
そして、マコトが考えた方針を、部下に伝えることにした。
五分後。
マコトが語り終えると、妻であるエクレアが微笑んだ。
「マコトさんの方針は間違ってないと思います」
他のメンバーに視線を向けると、他の人間も賛成してくれていた。
まあ、無難な方針だし、当然のリアクションだろう。
さてと、問題は誰を山東地方の領主への使者にするかだ。
そこで、ハクビシンさんの副官である、クロ。
そして、脳筋領主のアカツキが、仕事を欲しそうな視線を向けてきた。
山東地方の領主である、ハンゾウは打算的な人間だ。
だから、計算が出来るクロを送り込むべきだろう。
「クロさん、山東地方に行って、援軍を連れてきてくれませんか?」
こちらの発言を聞いた、クロが大きく頷いた。
「任せてください! 絶対に成功させて見せますから!」
そう言い残して、クロが執務室から出て行ってしまった。
いや、細かい条件とかを詰めてから行けよ!
まあ、クロなら、どこまで譲ってもいいか、解っているだろうし大丈夫だろう。
たぶん。




