第2話 家族との再会
一週間後。
最低限必要な、戦後処理が終わった。
そう思っていたら、今度は俺が出した手紙の返事が届き始めた。
あれ、おかしいな?
もしかして、仕事って永遠に終わらないんじゃないのかな?
そんなバカなことを考えていると、ハクビシンさんの副官であるクロが執務室に入ってきた。
「マコト様、ハクビシン様からの手紙が届きました」
クロが差し出した手紙を受け取って、マコトが手紙の内容を確認することにした。
えーと、敵の数が、二千に増えたのか…………
ハクビシンさんの手元にある兵力は、千ほどだし、かなり厳しい戦いを強いられているのだろう。
本当は、今すぐにでも駆けつけたい。
だが、内乱が終わったばかりで、首都を離れるのは自殺行為だからな……
この一週間で、俺がしたことと言えば、東部の領主にハクビシンさんの所に援軍に行くように指示したこと。
それと、ハクビシンさんが籠城している砦に、物資を運び入れるように指示したことぐらいだ。
本当に、ハクビシンさんには、苦労をかけている。
いや、そろそろ兵を率いて、援軍に行くべきだろう。
間違いが起こってからでは、遅いのだ。
だが、俺が首都を離れる前に、絶対にやらなくてはいけないことがある。
それは、前の当主である白鳳と、その母親であるメープルの追放だ。
前の権力者が十龍の街に残っていると、何が起こるかわからないからな…………
俺は一日でも早く、二人には出て行って欲しかった。
だが、メープルが現状を理解できていないのか、駄々をこねて中々出発しないのだ。
てか、暗殺される可能性とか考えてないのかな?
たぶん、考えてないのだろう。
バカって、恐ろしいな…………
そして、二日ほど前に、ハクビシンさんの副官であるクロが、この難儀な仕事に立候補した。
まあ、捕虜の説得も成功させたし、仕事を任せた俺の判断は間違っていなかったと思う。
だが、常識人であったクロは、ヒステリックに騒ぎ立てるメープルに手を焼いて、仕事が全く進まなかった。
ふっふふ、イケメンなのに情けないな!
ちなみに、俺もヒステリックな女性は苦手だ。
てか、得意な人間っているのかな?
そんなアホなことを考えながら、マコトが執務室で報告を聞き終えた。そこで、部下の一人である、脳筋領主アカツキが前に進み出た。
「マコト様! クロさんが、メープルの扱いに手こずっているのなら、私が代わりにやりましょうか?」
正直に言えば、アカツキに任せるのはかなり不安だ。
だが、クロが仕事に失敗しているのは事実だったので、アカツキに仕事を任せてみることにした。
てか、いい加減、この問題を解決したい。
だから、アカツキが少しぐらい強引な手段を取ることを期待していた。
ちなみに、クロが凄い表情で睨んでいる。
仕事を取り上げたことを怒っているのかな?
いや、君は仕事に失敗したでしょう。
俺に怒らないでよ。
そして、三時間後。
俺の執務室に入ってきた、アカツキが満面の笑みを浮かべて報告してきた。
「マコト様、喜んでください! メープルが実家に出発しました!」
そいつは、朗報だ。
「ご苦労様です。アカツキさんは、どうやって説得したんですか?」
後学のためにマコトが尋ねると、アカツキが大きく頷いた。
「メープルが『枕が変わると眠れなくなる』と、ほざいていたので枕を燃やしてやりました!」
なに、そのトンチ。
解決方法が、脳筋過ぎる(てか、予想以上に酷かった)
アカツキには、絶対に重要(繊細)な仕事は任せないでおこう。
でも、今回の仕事を片付けてくれたのは、事実である。
だから、マコトが困惑した表情を浮かべつつも、感謝の言葉を述べた。
「……ありがとう……でも、アカツキさん、無茶はしないでくださいね……」
そこで、アカツキが大きく頷いた。
「マコト様、見くびらないでくださいよ! 始めから、メープルを殺すつもりはありませんでした!」
本当ならば、朗報だ。
マコトが大きく頷くと、アカツキが満面の笑みを浮かべた。
「やったとしても、大怪我をさせるぐらいに留めておくつもりでした!」
こいつには、絶対に重要(繊細)な仕事はやらせないと、マコトが固く決意した。
二時間後。
お昼前に始まった会議が、予定通りの時間に終わった。
一週間前なら、時間通りに終わることなんてなかった。
だが、この頃は状況もだいぶ落ち着いてきたし、問題も起こらなくなってきた。
いいことだ。
さてと、俺も休憩にするか。
やっと会食地獄が終わったので、ノンビリと食事が出来るな。
そんなことを考えていると、部下が部屋に入ってきた。
「マコト様、奥様であるエクレア様と、娘のイヨ様がいらっしゃいました」
家族と無事に再会できたのは、凄く嬉しい。
だが、今回の場合は、それよりも気になることがあった。
それは――
「……なあ、俺の家族は、誰と一緒にここにきたんだ?」
マコトが震える声で尋ねると、部下が戸惑ったような表情を浮かべた。
「……林仲の村の村長たちと、一緒に来たと聞いています……」
林仲の村の人間が、傭兵団(山賊)への報復よりも俺への援軍を優先してくれた。
それが、何よりも嬉しかった。
大きく頷いてから、マコトが強い口調で言った。
「すぐに、三人を俺の執務室に呼んでくれ!」
キョトンとした表情を浮かべて、部下が質問してきた。
「え? 家族だけで、お会いにならないのですか?」
こいつは、気が利かない奴だな。
いや、俺が家族大好き人間なことは有名だし、気を遣ってくれているのだろう。
だが、いまは煩わしい。
「いいから、すぐに三人を呼んでくれ!」
こちらが強い口調で指示すると、部下が「わかりました」と答えてくれた。
五分後。
「パパ、久しぶり!」
そう叫びながら、娘であるイヨが抱きついてきた。
ああ、俺は今日、死んでも悔いはない!
そんなバカなことを考えながら、マコトが娘の頭を撫でた。
「久しぶり! イヨは、大きくなったんじゃないか?」
こちらが笑顔で尋ねると、イヨが大きく頷いた。
「うん、一センチも大きくなったんだよ!」
ああ、娘の成長を見逃すなんて!
俺はどんな悪いことをしたんだ?
そんなバカなことを考えていると、妻であるエクレアが抱きついてきた。
「……私は何があっても、あなたについて行きます!」
俺は、本当に家族には恵まれたよな…………
それからしばらく、三人が黙ったまま抱き合っていた。
三分後。
俺が家族との再会を堪能していると、俺が一番会いたくて、会うのが怖かった人間。
林仲の村の村長であるグエンが、部屋にいることに気がついた。
てか、こっちを見ながら、グエンが涙ぐんでいるよ。
おや?
怒ってないのかな?
そう視線で問いかけると、グエンが顔を逸らしながら答えた。
「娘様に、感謝してください」
どういった意味なのかマコトが目で尋ねると、妻であるエクレアが答えた。
「山賊の討伐に向かおうとしていたグエンさんを、娘が『パパを助けてください!』と言って、説得したんです」
俺は一生、娘には頭が上がらないだろう。
そこで、娘であるイヨが微笑みながら報告してきた。
「パパを助けてくれた、お礼に私はグエンさんと結婚するんだ!」
こちらが殺意の篭った表情で問いかけると、グエンが苦笑いを浮かべていた。
「まあ、流れでそうなりましたが、気にしないでください」
なに、その大人な対応!
俺の娘(天使)と結婚できるかもしれないのに、何で必死にならないんだ!
俺が殺意を抱いていると、娘であるイヨが頬を膨らませた。
「えー、私はグエンさんと結婚するんだよ! 約束したんだから!」
イヨが抱きつこうとしたら、グエンがそれを避けた。
なにしてんねん!
娘が怪我したら、どうするんだよ!
グエンを睨みつけて、マコトが叫んだ。
「ウチの娘が欲しいなら、俺よりも強くて賢くて、誠実で大金持ちなイケメンになってからにしろ!」
こちらの発言を聞いていた、妻であるエクレアが呟いた。
「……そんな人、いないと思うけどな……」
いるもん!
国中を探せば、一人ぐらいは見つかるよ!
理想の婿について、マコトが熱く語ろうとした。そこで、妻であるエクレアが質問してきた。
「そういえば、マコトさんは新しい妾を迎えるそうですね」
その話か!
急いで妻のほうに向き直ってから、マコトが低姿勢で話しかけた。
「……奥様、あれは政治的に断れなかったというか……」
いや、違う。
初めはそうだったが、俺は自分の意思でマイを連れて帰りたいと思ったのだ。
だから、奥さんには正直に話そうと思った。
そこで、妻であるエクレアが微笑んだ。
「別に反対はしません。この前に会った時よりも、マコトさんは元気になっていましたから」
そうなのかな?
もしそうだとしたら、マイには感謝したい。
そんなことを考えていると、エクレアが少しだけ強い口調で意見を述べてきた。
「ただ事前に、相談はして欲しかったです!」
「はい、次からは必ず相談します」
こちらが素早く答えると、エクレアが睨みつけてきた。
「マコトさんは、妾を増やす予定があるんですか?」
くそ、失言だった。
だが、どう答えればよかったんだよ…………
「……いえ、そういった予定はないんですけど……」
マコトが次の言葉を探していると、娘であるイヨが質問してきた。
「パパ、新しい女の人ってオッパイが大きいって本当?」
どこから得た情報だよ!
てか、私の奥さんであるエクレア(胸が慎ましやか)が微笑んでいらっしゃる。
あの、その笑顔とても怖いんですけど…………
誰か助けてくれないかな?
そこで、林仲の村長である、グエンが部屋を出て行った。
あの野郎、俺を見捨てやがった。
いつか仕返ししてやるからな!
それから、一週間。
俺は家族との時間を楽しみながら、面倒くさい戦後処理を行った。
そして、戦後処理が一段落ついたので、兵を率いてハクビシンさんの所に援軍に行くことにした。
首都には、俺の妻であるエクレアと、ハクビシンさんの副官であるクロを残すことにした。
クロに兵を率いさせて、東部に送り込むという案もあった。
だが、ハクビシンさんの戦力が、俺の手元にある戦力を大幅に超えてしまう。
そうなると、内乱が終わったばかりのこの地が、不安定になるかもしれなかった。
だから、俺が兵を率いていくことにしたのだ。
そして、出発の朝。
東部への出兵の準備が出来たので、マコトが出発しようとしていた。
そこで、妻であるエクレアが近づいてきた。
「マコトさん、無事に戻ってきてくださいね」
前回(ヒミコが死んだ直後)に比べると、表情がだいぶ明るくなったな。
それだけ、時間が流れたのか…………
いかん。
暗い顔をしていては、妻であるエクレアを不安にさせるだけだ。
拳を軽く振り上げて、マコトが微笑んだ。
「敵をサクッと片付けて、帰ってくるよ!」
大きく頷いてから、エクレアが元気よく答えてくれた。
「はい、マコトさんの帰りを、お待ちしています!」
女の子は、凄いな。
たった一言で、男の子をやる気にさせるんだから。
そんなことを考えていると、娘であるイヨが近づいてきた。
「パパ、今回も無事に戻ってきてね」
大きく頷いた後、マコトが力強く答えた。
「ああ、絶対に無事に戻ってくるよ!」
そこで、早馬に乗った伝令の兵士が、俺の所に近づいてきた。
「マコト様、大変です!
東国の国王が、配下の上級貴族に大動員を掛けました。
敵の総兵力は、公称ですが二万四千(こちらの総兵力の六倍)です!」




