第1話 戦後処理
内乱が終わり、俺が十龍の領主に就任した翌日。
俺の仕事部屋(執務室)には、大量の仕事が集まっていた。
えーと、内乱に勝利した後のほうが大変だと、わかってはいたんが、まさかここまで仕事量が多いとは…………
これは、一週間はまともに寝れないだろう。
いや、一週間ですめばいいな…………
まあ、愚痴を言っていても仕方がないし、仕事に取り掛かろう。
そばにいたハクビシンさんの副官であるクロ(なんとなく、俺の副官ポジションにいる)に、マコトが語りかけた。
「それじゃあ、まずは外交関係から片付けていこう!」
本当は内乱が終わったばかりだし、内政から処理していきたい。
だが、周辺にいる領主たちは、ウチの領地を狙っているハイエナだからな。
後回しにはできないのだ。
「わかりました」と答えた、クロが昨日の内に頼んでおいた、原稿の下書きを持ってきた。
えーと、事実関係の伝達については、問題ないな。
俺の活躍が少しばかり誇張されているが、これぐらいなら許容範囲だろう。
問題なのは、個別の交渉(水の優先利用権など)だ。
過去の経緯を知らないと不味いので、外交官を呼んで話を聞くことにした。
そして、話を聞いていて解ったんだが、白鳳たちが何も決めていなかった。
てか、全く交渉すらしていなかった。
マジで無能だったんだな…………
いや、変な約束をしなかっただけ、マシか。
うん、前向きに考えていこう。
そして、マコトが外交官たちと打ち合わせをしていると、お昼になった。
あれ、おかしいな?
たった三通(十龍と国境を接している、上級貴族二+中央に一通)の手紙を書いていたら、午前中が終わってしまった。
このペースだと、二週間は仕事づけになるだろう。
てか、食事をして気分転換したら、仕事のペースを上げていこう。
そんなことを考えていると、ハクビシンさんの副官であるクロが口をひらいた。
「それでは、マコト様、商人ギルドの幹部、二名+有力な宗教関係者、二名。合計、四回の会食に行きましょう」
おや?
なんか、クロが変なことを言い出したぞ。
「なんで、四回も会食しなくちゃいけないんだよ!」
商人と宗教関係者は、話しが合わない可能性がある。
だから、二回やるのは理解できる。
だが、四回もやる理由が、全くわからなかった。
そういった思いを込めてマコトが睨みつけると、クロが真面目な口調で答えた。
「今回の内乱で、マコト様を支持した派閥の代表者と、マコト様を支持しなかった派閥の代表がそれぞれ来ています」
そりゃあ、確かに別々に対応したほうがいいだろう。
まあ、それはいい。
問題なのは――
「なんで、お昼に四回も会食しなくちゃいけないんだよ!」
こちらが苦情を発すると、クロが涼しい顔(イケメンなので、すごくムカつく)で答えた。
「それでは、マコト様を支持した人間をお昼に、マコト様を支持しなかった人間を夜の会食に回しますか?」
あんまり露骨に差別するのは、今後のことを考えると不味いだろう。
てか、俺が言いたいのは、そういうことではなくて――
「せめて、商人か宗教関係者のどちらかを、夜に回せなかったのか?」
こちらの発言を聞いた、クロが大きく頷いた。
「夜には、すでに八件の会食の予定が入っています」
サラッと、ブラック企業みたいなスケジュールを言ってきたな。
てか、
「これだけスケジュールを詰められたら、事前準備ができなくて、個別の交渉ができなくなるだろ!」
こちらが強い口調で言葉を発すると、クロが微笑んだ。
「個別で交渉する必要はありません。
今回は、マコト様が十龍の領主になったことを、有力者に認めさせること。
そして、マコト様を支持しなかった人間を、マコト様が許すことが目的ですから」
こいつは、ムチャクチャ頭がいいな。
ハクビシンさんが、副官に任命していたのも納得だ。
だが、こいつの思い通りに動くのは、面白くない。
だから、その後の会食では、自分が知っている範囲内ではあるが、個別の交渉もおこなった。
そして、個別交渉を行えなかった人間には――
俺を支持してくれた人間には、感謝の言葉と今後の優遇を約束した。
俺を支持しなかった人間には、少々の嫌味と罪の免責。そして、多少の不遇を認めさせた。
全ての会食が終わった後、クロが感心した表情を浮かべて呟いた。
「……流石ですね、私の予想以上です……」
ふっふふ、もっと褒めてくれてもいいんだよ!
「俺は、新しい当主だからな! これぐらいは、できないとね」
てか、ハクビシンさん(師匠)の副官に認められたのは、凄く嬉しかった。
よし、午後の仕事も頑張って行こう!
午後からは、十龍の内政問題に取り組んでいくことにした。
今日中に終わってくれるといいな…………
そんなことを考えていると、ハクビシンさんの副官であるクロが、昨日頼んでおいた資料を持ってきた。
「マコト様、これが昨日頼まれた、部下の領主(寄り子)たちに出す手紙の下書き案です」
えーと、事実関係を伝える文章は、午前中に書いた手紙と同じ内容だし、問題はないだろう。
問題は、個別交渉だ。
俺を支持してくれた領主には、感謝の言葉とこれからの協力をお願いすればいい。
問題は、俺を支持してくれなかった、領主への対応だ。
俺への支持を要求して、それに「イエス」と答えてくれればいい。
だが、高圧的に要求すると、向こうが反発して手紙を無視したりするだろう。
だから、俺はそれぞれの領主を説得するのに、最善の方法を考えることにした。
俺が手紙を出さなくてはいけない、部下の領主の数は、50件ほど。
絶対に、今日中に終わらないだろう…………
でも、やるしかないのだ。
そして、マコトが10件ほどの手紙を書き終えたところで、夕方になった。
あれ、おかしいな?
面倒な奴とか、重要な人間への手紙を優先したとはいえ、10件しか書けなかった。
このペースだと、部下の領主への手紙だけで五日も掛かってしまう。
何とかしないと!
そんなことを考えていると、ハクビシンさんの副官であるクロが近づいてきた。
「マコト様。次は、首都での問題について、報告を受けてください」
本当に、仕事が山積みだな…………
まあ、今回は報告を受けるだけだから、楽でいいか。
そんなことを考えていると、治安維持の仕事を頼んでいたアカツキ(西部の領主では、有力者)がやってきた。
「アカツキさん、任せていた治安維持の仕事はどうでしたか?」
こちらが尋ねると、アカツキが力強く頷いた。
「問題ありません!」
これぐらい断言してくれると、助かるな。
まあ、元々顔見知りも多いし、そんなに問題は起こらないだろう。
マコトがねぎらいの言葉を発しようとした。
そこで、ハクビシンさんの副官である、クロが質問した。
「そういえば、捕虜になった敵の兵士の扱いって、どうなりましたか?」
最後まで白鳳に従った人間は、武装解除したあとに、牢に閉じ込めておいた。
あいつらに状況を説明して(白鳳が追放を受け入れたこと)、説得しておいてくれたら、こちらとしては凄く助かるな。
まあ、そこまで望むのは、虫が良すぎるか。
そんなことを考えていると、アカツキが自信満々な口調で言った。
「あいつらは凄く無礼だったので、今日はメシを抜いておきましたよ!」
勝手な行動をするなよ。
あいつらは、俺の部下になって貰わなくちゃいけない人間なのだ。
痛めつけて、どうするんだよ。
そんな思いを込めて睨みつけると、アカツキが反論してきた。
「ですが、あいつらはマコト様のことを、謀反人呼ばわりしたんですよ!」
向こうから見たら、俺は間違いなく謀反人だろう。
だから、俺は別に怒ってはいなかった。
でも、何もしないと、俺が侮られるからな…………
若干の沈黙の後、マコトが口をひらいた。
「俺のために怒ってくれて、ありがとう」
こちらの発言を聞いた、アカツキが嬉しそうに微笑んだ。
「マコト様は、新しい十龍の当主なんですから当然ですよ!」
清々しいまでに、脳筋だな。
まあ、嫌いではないよ。
でも、アカツキに細かい仕事を任せるのは止めておこう。
マコトが考え込んでいると、ハクビシンさんの副官であるクロが、自分に任せて欲しそうな視線を向けてきた。
そういえば、治安維持の仕事をアカツキに任せるように進言したのは、クロだったな。
汚名を返上したいのか。
可愛い所もあるんだな。
大きく頷いた後、マコトが口をひらいた。
「それじゃあ、アカツキさんは引き続き、治安の維持をお願いします」
手を強く振り上げて、アカツキが大声で答えた。
「任せてください!」
本当に、脳筋だな。
まあ、暑苦しいのは面倒くさいが、上手く使いこなしていこう。
さてと、次は――
不安そうな表情を浮かべていたクロに、マコトが語りかけた。
「クロさんは、捕虜の説得をお願いしていいですか?」
こちらの発言を聞いた、クロが大きく頷いた。
「任せてください! 絶対に成功させてみせますから!」
何でも知っている軍師タイプだと思っていたが、自分の失敗をすぐに取り戻そうとする。
子供みたいな所もあるんだな。
まあ、嫌いではないよ。
「お二人とも、お願いします」とマコトが発言すると、二人が「はい」と答えて部屋を出て行った。
さてと、部下に仕事も振ったし、俺は八回連続の会食に行こう。
てか、全部食べたら、確実に太るだろうな…………
こんな感じの忙しい毎日を一週間ほど過ごして、俺は戦後処理を終わらせた。
 




