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第20話 決着

 開戦から、十五分後。

 我が軍の勝利が、ほぼ確定した。


 てか、敵が弱過ぎる。


 白鳳ハクホウや、その母親であるメープルに人望がないことは予想できていた。

 だが、軽く戦っただけで、敵の兵士の殆どが降伏してきたのだ。


 これじゃあ、乱戦中に白鳳、もしくはメープルが流れ矢に当たって死亡、なんて展開にはならないだろう。


 てか、一人ぐらいは死んでくれないと、責任を押し付ける相手がいなくて困るんだけどな…………


 そんな不謹慎なことを考えていると、部下が早足で報告にやってきた。


「マコト様、白龍ハクロン様の四男、ライコウ様を討ち取りました」


 おお、責任を押しつける相手が出来た。

 ラッキー!


 いや、身内が死んだのに、この感想は酷いな…………


 そんなことを考えていると、別の部下が報告にやってきた。


「マコト様。白鳳様とメープル様が、降伏しました」

 

 ええ、あっさりと降伏したな。

 てか、こんなに簡単に降伏するなら、俺が出した降伏勧告を受けろよ。


 マコトが腹を立てていると、報告にやってきた部下が口をひらいた。

 

「白鳳様とメープル様が、マコト様との面会を希望しています」

 いまさら、何を話すんだ?

 

 命乞いか?

 それとも、俺を罵倒してくるのかな?


 罵倒してくるのなら、俺がメープルを殺すチャンスがあるかもしれない――


 大きく頷いた後、マコトが口をひらいた。


「わかった、これから行くと伝えてくれ」

 すぐに、部下が大きく頷いた。


「わかりました」




 十五分後。

 マコトたちが、謁見の間に到着した。


 武装した兵士に、白鳳とメープルが取り囲まれているな。

 てか、白鳳が俺のことを、メチャクチャ睨んでいるよ。


 いや、恨まれるようなことはしたけれど、自業自得だろ。


 そんなことを考えていると、メープルがいきなり土下座してきた。


「今回の事件の責任は、全て私にあります! なにとぞ、息子の白鳳は、お許しください!」


 そこで、白鳳が叫んだ。


「母上、何を言っているんですか! 

 今回の事件は、私の力不足から発生しました! 


 母上は、何も悪くありません!」


 そして、白鳳とメープルが抱き合って、盛大に涙を流しあった。


 いや、なんか感動的な話にしようとしているけれど、俺たちは凄く酷い目に遭わされたんだけど…………


 それからしばらく待ったが、二人はまだ泣き続けていた。


 もしかして、俺が『許す』と言うのを待っているのかな?

 てか、こんな茶番で、誰が心変わりするんだよ。


「ゴホン」

 わざとらしい咳払いをした後、マコトが強い口調で言った。


「それでは、白鳳とメープルに、今回の事件の処分を言い渡す」

 そこで、白鳳が立ち上がって叫んだ。


叔父上マコト、あなたはお爺様(白龍)の頼みを無視して、当主の座を簒奪する、最低の人間だ!」


 何を言っているんだ、こいつは?

 無能なお前たちを支えるために、俺はムチャクチャ頑張ってきたぞ。


 マコトが睨みつけると、白鳳が睨み返してきた。


 それは、自分が悪いと微塵も感じていない人間の目だった。


 もしかして、白鳳は何でこんな状況になったのか、説明されていないのでは?

 てか、たぶんそうだ。


 よし、せっかくだから全てぶちまけてやろう。


 その後、マコトがこれまであった出来事を、客観的に、そして詳しく語った。


 白鳳は初めのうちは、俺の言葉を信じようとはしなかった。


 だが、俺の部下の領主(顔見知り)や、そば仕えていた侍女が、俺の言葉を全く否定しなかったので、ようやく信じるようになった。


 そして、全てを理解した、白鳳が顔面を蒼白にして頭を下げてきた。


「……申し訳ありませんでした、叔父上……」

 いや、いまさら謝られても困るんだけどな…………


 マコトが困惑していると、メープルが明るい口調で言葉を発してきた。


「誤解が解けて、よかったですね!

 これでもう、私たちが争う理由はなくなりました! 


 マコトさん、これからも白鳳を支えてくださいね!」


 感情に任せて、メープルを切り捨てなかったのは失敗だったな。

 

 てか、部屋にいる全員から、メープルが白い目で見られていた。

 まあ、これだけバカだと、当然の反応だろう。


 さてと、そろそろ決着をつけよう。


 大きく息を吐き出した後、マコトが白鳳を睨みつけた。そして、マコトが右手を差し出して、強い口調で言った。


「白鳳、十龍の当主の証である、ペンダントを寄こせ!」


 十龍の当主の証であるペンダントは、名前の通り、十体の龍が描かれている純金製のペンダントだ。


 純金製のアクセサリーなんて、悪趣味だと思っていた。

 だが、デザインがよいので、凄く格好がよかった。


 まあ、いまは格好のよさなんて、どうでもいい。

 権力の象徴として、俺は要求したのだ。


 そこで、メープルが叫んだ。

 

「マコトさん! あなたは、まだ白鳳ちゃんから、当主の座を――」

 そこで、マコトが叫んだ。


「メープル、次に許可なく喋ったら、殺すぞ!

 そして、白鳳、俺の要求を拒否したら殺す!」


 正直なところ、戦後処理を考えるならば、二人を生かしておいた方が得だ。

 身内を殺したという悪評は、なかなか払拭することは出来ない。


 だが、ここでの妥協は絶対にしない。


 マコトが睨みつけると、白鳳がペンダントを外して渡してきた。


「……これは、私には相応しくありませんでした。叔父上が使ってください……」

 白鳳からペンダントを受け取って、マコトが自分の首にかけた。


 正直に言えば、別に欲しくはなかった。

 だが、手に入れたからには、責任は果たすつもりだ。


 集まっていた人間に向かって、マコトが宣言した。


「本日から、俺が十龍の当主だ! 異論がある人間は、いま言ってくれ!」

 そこで、メープルが前に進み出て発言しようとした。


 こいつは、本当に学習能力がないな。


 まあいい。

 これで、全て終わりだ!


 マコトが武器に手をかけて、メープルに近づいた。そして、マコトが武器を抜くよりも早く、白鳳が母親であるメープルに抱きついた。


「母上、お願いですから黙っていてください!」

 息子の懇願を聞いた、メープルが反論した。


「で、でも、白鳳ちゃん!」

 そこで、白鳳が涙を流しながら叫んだ。


「お願いします!」

 息子の叫び声に驚いた、メープルが沈黙を選択した。


 命拾いしたな。

 さてと、途中で中断してしまったし、もう一度確認するか。


 集まっていた人間を見回してから、マコトが再び宣言した。


「もう一度、言う。俺が十龍の当主になることに、異論がある人間はいるか?」

 しばらく待ったが、誰からも反対意見は出なかった。


「よし、それでは本日から、俺が十龍の当主だ!」

 白鳳に向き直ってから、マコトが命令を発した。


「当主として、最初の命令を下す。


 白鳳、今回の事件の罰として、十龍シーロンの領地から十年間、追放する。

 追放先は、この国の首都だ!」


 白鳳を殺さないことで、保守的な部下(主に領主)の不満を高めないようにした。


 そして、追放期間を十年にしたのは、将来の当主復帰の可能性を残したからだ。


 これで、戦後処理(保守的な領主の暴発は防げる)は楽になるだろう。

 ちなみに、追放先を首都にしたのは、聖女様への人質の意味もある。


 まあ、妥協の産物ではあるが、悪い選択肢ではないと思う。


「当主様の寛大な処分に感謝します」

 そう言って、白鳳が頭を下げてきた。


 白鳳がきちんと成長するのなら、当主の座を返すこともあるかもしれない。

 まあ、それは白鳳次第か。

 

 さてと、次は――


 メープルを睨みつけて、マコトが命令を発した。


「メープル、今回の事件の罰として、十龍の領地から永久に追放する。いますぐに、実家に帰れ!」


 本当は、白鳳と同じく、十年の追放処分にするつもりだった。

 だが、俺がもう関わりたくなかったので、永久追放にすることにした。


 まあ、これぐらいは裁量の範囲だよね。


 そんなことを考えていると、メープルが反論しようとしていた。

 

 本当に、こいつはバカだな。

 息子の努力を無駄にする気か!


 メープルを睨みつけて、マコトが叫んだ。


「二人を、いますぐに連れて行け!」


「わかりました」と答えた、領主の一人が、二人を別々に連れて行った。

 おお、気が利くな。


 たしか、あの男は今回の戦いで、先陣を務めた領主だったな。

 今度、出世させてやろう。


 そんなことを考えていると、部下が報告にやってきた。


「マコト様(当主様)、降伏した兵の扱いについて、クロ様が相談したいそうです」

 

 当主か。

 俺は、本当に上級貴族の当主になってしまったんだな…………


 もう引き返せない。

 ふん、いまさら何を言っているんだか。


 覚悟なら、この地に残ると決めた日にすませたのだ。


 さてと、上級貴族の当主になったのはいいが、問題が山積みだな…………


 東からは東国が侵入しているし、西(中央)では派閥争いの真っ最中。

 そして、国内は内乱が終わったばかりで、大混乱中。


 本当に、酷い状況だと思う。


 だが、俺は逃げない。

 問題を、一つずつ解決してみせる。


 だから、ヒミコ。


 お前のかたきを取るのは、もう少しだけ待っていてくれ。

 絶対に、忘れたりはしないから――



 第三部、上級貴族当主代行編 完



 あとがき


 三部にサブタイトルをつけるとしたら、空回り編。

 もしくは、たらい回し編になると思います。


 個人や貧村の領主だった頃は、目の前の問題に全力で取り組めばよかった。


 だが、上級貴族の当主代行になってからは、同時に複数の問題に対処する必要があった。


 そのせいで、主人公は凄く苦労しました。


 まあ、アホな上司はいなくなったので、主人公は幸せになれるんじゃないかな。

 たぶん。


 それでは、引き続き第四部をお楽しみください。


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