第19話 決戦
一週間後。
十龍の街の前に、マコトたちが到着した。
この一週間の行軍は、こちらが予想していたよりも順調だった。
通過した村は全て食料や宿を提供してくれたし、こちらの軍に村人を参加させなかった村は殆どなかった。
まあ、意味不明な理由での派閥の変更や、ハクビシンさんが俺を支持してくれたことが大きかったんだと思う。
こちらの兵は、1500。
籠城している敵の数は、1000。
俺を支持してくれている領主が多いので、時間を掛ければもっと兵は集まるだろう。
だが、東国との戦いでピンチになっている、ハクビシンさんに援軍を出さなくてはいけないのだ。
だから、短期決戦を狙うべきだ。
いや、先ほど出した降伏勧告を、向こうが受け入れてくれるのが一番いいだろう。
俺が出した降伏の条件は、
俺の当主就任
白鳳の当主解任
メープルの追放
そして、白鳳と、俺の娘であるイヨの婚約の維持だ。
これならば、白鳳の将来の当主復帰も可能になり、向こうも受け入れやすいはずだ。
これで、決着がついてくれないかな?
そんな呑気なことを考えていると、部下がテントの中に駆け込んできた。
「マコト様、大変です! 先ほど、送った使者が殺されました!」
嘘だろ?
そう思ったが、部下が使者の首を運んできた。
俺の部下の中では、数少ない内政要員だったのに…………
てか、白鳳やメープルのことをバカだと思っていたが、まさか使者を殺すほどバカだったとは――
これで、もう交渉することが出来なくなったのだ。
大きく頷いた後、マコトが強い口調で命令を発した。
「幹部(領主)たちに集まれと、伝えてくれ。これから、最後の軍議をひらく!」
そばにいた部下が、大きく頷いた。
「わかりました」
そして、部下がテントから出て行った。
十分後。
部下の幹部(領主)たちが集まってきた。
こちらが送った使者が殺されたと知って、領主たちが怒っているな。
まあ、気持ちは理解できるよ。
大きく頷いた後、マコトが強い口調で言った。
「先ほど、こちらが送った使者が殺された。やつらとは、もう交渉しない!」
そこで、いったん言葉を区切ってから、マコトが強い口調で宣言した。
「真正面から攻めるぞ!」
こちらが断言すると、領主の一人が恐る恐る意見を述べてきた。
「マコト様、力攻めするには、こちらの兵力が足りないと思います」
まあ、普通に城攻めするなら、敵の二倍か三倍の兵力が必要になる。
領主の意見は正しいだろう。
だが、今回は特殊なのだ。
「今回、力攻めを選んだ理由は、三つある。
一つ目は、敵の士気が低いこと」
上司があれだけ意味不明な行動をしていれば、敵の士気が上がらないのは当然だろう。
「二つ目は、敵は城を守るのに、十分な兵力を持っていないこと」
十龍の城を守るには、最低でも二千の兵が必要だ。
千では監視塔とかが空になっているので、籠城側があまり有利にならないのだ。
「そして、三つ目は敵が籠城している城の構造を、俺たちが熟知しているからだ」
そりゃあ、少し前まで城を守っていたのだから、知っていて当然だろう。
「以上の理由から、俺は正面から力攻めするのが、最上の策だと思う」
ついでにいえば、短期決戦で片をつけて、ハクビシンさんの援軍に行きたいのだ。
そんなことを考えていると、領主たちが不服そうな表情を浮かべていた。
まあ、力攻めすると、部下が多く死ぬからな。
領主としては、当然のリアクションだろう。
大きく頷いた後、マコトが強い口調で言った。
「わかった。俺が直属の兵を率いて、先陣を切る!」
こちらの発言を聞いた、領主たちが声を揃えた。
「「お待ちください! マコト様は総大将なので、後方で待機していてください!」」
まあ、正論である。
俺が死んだら負けだから、そう言いたくなる気持ちはわかるよ。
だが、そうすると――
「誰が先陣を切るんだ?」
こちらが問い掛けると、領主たちは誰も立候補しなかった。
それから、十五分ほど話し合った。
その結果、先陣を押し付けられたのは、一番若い領主だった。
敵のことを無能だとバカにしていたが、こちらも大して変わらないのかもしれないな…………
三十分後。
準備が整ったので、マコトが突撃の命令を発しようとした。
そこで、十龍の城門の上から、先代の当主である白龍の四男、ライコウが現れて叫んだ。
「父上の恩を忘れ! 幼君を追放という邪悪な企みに参加して、諸君らは恥ずかしくないのか!」
ああ、いたんだ。
それが、俺の正直な感想だった。
てか、言いたい放題言っているが、ここまで状況がこじれた責任の何割かは、お前が無能だったせいだからな。
マコトが睨みつけると、ライコウが叫んできた。
「マコト! 貴様は、父上の恩を忘れたのか!」
忘れてねえよ。
だから、やりたくもない、上級貴族の当主代行なんて、面倒な仕事をやってきたんだ。
もう、こいつと話していても、いいことなんてないだろう。
味方に向き直ってから、マコトが強い口調で語りかけた。
「もはや理由など、どうでもいい!
勝てば栄光を!
負ければ、全てを失う!
それだけだ!」
十龍の城壁を睨みつけて、マコトが叫んだ。
「全軍、突撃!」
直後、味方が雄叫びを上げた。
「「「おお!」」」
こうして、最後の戦いが始まったのだ。




