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第18話 山東地方の領主との交渉

 三週間後。

 十龍シーロンの西部国境地帯に、マコトたちが到着した。


 この三週間の行軍は、概ね順調だった。


 まあ、道中の貴族にしてみれば、俺を敵にしても得はないし、こんなものだろう。


 さてと、本日は隣国である山東地方の領主、ハンゾウとの会談だ。

 直接利害が絡むので、これまでとは違い難しい交渉になるだろう。


 まず、向こうから援助の打診。

 そして、大幅な見返りの要求がきていた。


 まあ、貴族の当主としては当然の行動なんだけど、こちらの足元を見ていてムカつくな。


 だから、嫡男からの手紙(無償の援助を約束してくれた)を渡したときは、凄く楽しかった。


 さてと、そろそろハンゾウが息子からの手紙を読み終わる頃だな。

 どう行動するのかな?


 マコトが楽しそうに眺めていると、ハンゾウが手紙を破り捨てた。


 おい、おい。

 無茶するなよ!


 マコトが睨みつけると、ハンゾウが微笑んだ。


「息子からの手紙は、確かに受け取りました。

 ですが、息子との約束は、あくまで息子との約束。


 正式な交渉は、私として欲しい」


 まあ、そう言いたくなる気持ちはわかるよ。

 お前のところの嫡男は、本当に気前がいいからな。


 ニッコリと微笑んでから、マコトが口をひらいた。


「わかっています。

 正式な交渉は当主である、ハンゾウ様とするつもりです。


 ただ、多少は息子(嫡男)さんの手紙も考慮してください」


 大きく頷いた後、ハンゾウが微笑んだ。


「もちろんです。息子(嫡男)がした約束ですから、それなりに配慮させて貰います」


 どのていど配慮するのか問い質してやりたい所だが、時間に余裕があるわけではない。


 マコトが話を進めようと思った所で、ハンゾウが質問してきた。


「それで、マコトさんは、白鳳ハクホウに勝てるんですか?」


 おっと、直球の質問だな。

 まあ、援助する側としては、絶対に聞いておきたいことだろう。


 そうだな。

 この前、部下の兵士たちを説得したときは、勢いが大事だった。


 だが、今回の交渉相手であるハンゾウが聞きたいのは、勢いのある言葉ではなくて冷静な情勢分析だと思う。


 だから、自分が領主代行としてやってきたこと(十龍に住んでいる人間に、どう思われているのか)を、マコトが語ることにした。


 まず、内政については、検地を断行して失敗したのは俺のせいだろう。

 

 白鳳の母親であるメープルが邪魔しなければ、とか言い訳は出来る。

 だが、結果だけを考えると、俺の失敗だ。


 これは、大きなマイナス要素だろう。


 次に考えるべきことは、東国との戦争だ。

 かなり時間は掛かったが、勝利することが出来た。


 これは、評価するべき点だ。


 次に考えなくてはいけないことは、白鳳たちが反聖女派閥に所属したのを、聖女派閥に鞍替えさせたことだ。


 西部に所属している領主たちは、俺のおかげで山東地方との戦争を回避できた。

 だから、感謝しているはずだ。

 

 そして、最後は俺が謀反を起こした理由である、白鳳の反聖女派閥への鞍替え。


 白鳳の母親であるメープルが『親孝行するのは当然だろ!』と叫んだり、別の日には『占い師のお告げに従った』と発言しているらしい。


 てか、何で実家に送り返さないのか、不思議なレベルだった。

 たぶん、いまの十龍には、人材がいないのだろう…………


 おかげで、十龍に住んでいる人々は、俺に対してかなり同情的みたいだ。 


 十龍の西部の領主は、俺を積極的に支持

 十龍の中央付近の領主は、俺に対して同情的(消極的に支持)

 十龍の東部の領主は、俺に対して同情的(消極的に支持)


 情勢としては、こんなところだろう。


 俺が有利だと言いたいが、東部にいるハクビシンさんが白鳳を支持すれば、五分。


 いや、白鳳有利に戻ってしまうだろう。


 ちなみに、ハクビシンさんには手紙を出しておいたが、まだ返事が来ていない。


 てか、俺は欲しくない地位(上級貴族の当主の地位)を手に入れるために、師匠と戦うことになる可能性があるのか…………


 どんな罰ゲームだよ。


 マコトが情勢を語り終えると、ハンゾウが静かに口をひらいた。


「そうですね。私が雇っている密偵からの報告と一致しているので、マコトさんの分析は概ね正しいでしょう」


 海千山千の領主から正しいと言われると、安心するな。


 マコトがホッとしていると、ハンゾウが質問してきた。


「それで、ハクビシンさんは、あなたについてくれるんですか?」

 俺が知りたいよ。


 まあ、個人的には凄く仲が良かった。


 だが、先代の当主である白龍ハクロン様から、孫である白鳳様のことを頼まれていたからな……


 どう動くのかは、全く予想できなかった。


 まあ、ハクビシンさんが向こうについたとしても、東国との戦争中だから自由に動けないだろう。


 そんなに気にしなくても大丈夫だと思う。


 てか、東国と戦っている最中なのに、何で俺たちは内乱をやっているのだろうか…………


 マコトが憂鬱な表情を浮かべていると、部下が部屋に駆け込んできた。


「マコト様、十龍から使者がやってきました」


 正直なところ、もう話すことなんてない。

 だが、交渉のチャンネルを潰すのは悪手だろう。


 いや、ハンゾウが目の前にいるし、突っぱねてこちらが強気だと証明するべきか?

 

 マコトが迷っていると、部下が口をひらいた。


「使者は、マコト様とハンゾウ様、お二人に話があるようです」

 これは、俺の一存だけでは追い返せないな。


 マコトが考え込んでいると、ハンゾウが微笑んだ。


「私は会ってもいいですよ。マコトさんは、どうしますか?」

 まあ、拒否する理由もないな。


「……私も会ってもいいですよ……」


 そうマコトが答えると、部下が『それでは、ここに案内します』と言って部屋を出て行った。




 三分後。

 十龍からの使者が入ってきた。


 そして、十龍の使者が胸を張って自信満々な口調で言った。


「マコト様、喜んでください! 

 白鳳様が聖女派閥への鞍替えを宣言しました。


 だから、マコト様は武器を捨てて、謀反を止めてください。

 全て、元通りになるんです!」


 こいつは、何を言っているんだ?


 俺は、すでに謀反を宣言したんだぞ。

 いまさら元通りに戻れるはずがないだろ。


 マコトが睨みつけると、使者が微笑んだ。


「大丈夫! マコト様が謀反を起こした件なら、メープル様はもう気にしていません!」

 

 いや、そういう問題じゃないから!

 てか、こいつらは派閥の変更や謀反を軽く考えすぎていないか…………


 マコトが呆然としていると、使者が微笑みながら言葉を続けてきた。

 

「心配なら、ハンゾウ様の兵と一緒に帰国しても構いませんよ!」

 話を振られたハンゾウが、苦笑いを浮かべた。


「主力が中央に行っているので、私は国内を離れるつもりはありません!」

 そりゃあ、こんな胡散臭い話には、参加したくないだろう。


 まあ、俺を暗殺するための策ならいい。

 だが、本当に和解できると思っているのなら、お花畑もいい所だな。


 てか、使者の様子からすると、和解できると思っていそうだ…………


 敵のボスがバカなことは、本来ならば喜ぶべきことだ。

 だが、何でこんなに悲しいのだろうか?


 いや、落ち込んでいては駄目だ。


 机を強く叩いて、マコトが勢いよく立ち上がった。


「俺が謀反を起こしたのは、生きて帰国するためだ!」

 そこで、十龍の使者が微笑んだ。


「それだったら、もう私たちが争う必要はありませんね!」

 バカか、こいつは!


 相手を睨みつけながら、マコトが叫んだ。


「だが、いまは違う! お前ら(白鳳+母親のメープル)を、上司として仰ぐのが、嫌になったんだよ!」


 こちらの発言を聞いた、十龍の使者がポカーンとした表情を浮かべていた。


 まだ解らないのか。

 ハッキリと言ってやる!


「バカのお守りは、沢山だ! 出て行け!」

 マコトが叫ぶと、十龍の使者が慌てて口をひらいた。


「ですが!」

 武器に手を伸ばして、マコトが静かな口調で言った。


「交渉は決裂した。死にたくなければ、消えろ」

 こちらと目が合った瞬間、十龍の使者が悲鳴を上げて部屋から出て行った。


 やっと消えたか!


 おさまりがつかなかった、マコトが机を蹴り上げようと思った。

 そこで、山東地方の領主である、ハンゾウが口をひらいた。


「感情的になるのは、よくないですよ」


 もっともな意見である。

 てか、交渉相手の前で取り乱すとは、俺もまだまだのようだな…………


「……取り乱して、すみません……」

 こちらが頭を下げると、ハンゾウが微笑んだ。


「まあ、若いうちは感情的に行動してしまうものだ。気にしなくていい」

 そこで、ハンゾウが身を乗り出して、自慢げに語りかけてきた。


「私のように年を取れば、感情的に行動することはなくなるぞ!」


 まあ、年を取れば、落ち着いてくるのは事実だろう。

 だが、ハンゾウは先程、息子からの手紙を破り捨てたような…………


 マコトが無言で破り捨てられた手紙を眺めていると、ハンゾウがわざとらしい咳払いをした。


「ゴホン! まあ、今回の件は、マコトさんにとっては有利に働くだろう」


 話題を逸らしたな。

 まあ、本題に戻るのだから、いいか。


 えーと、ハンゾウの予想は正しいだろう。


 これだけ頻繁に派閥の変更(方針の変更)をすると、部下や交渉相手に信用されなくなるはずだ。


 だが、俺の勝利を決定的にするほどではない。


 マコトがハンゾウから援助を引き出す方法を考えていると、部下が部屋に入ってきた。


「マコト様、ハクビシン様からの手紙が届きました!」

 大きく唾を飲み込んだ後、マコトが震える声で言葉を発した。


「……使者を通してくれ……」


 くそ、大事な交渉相手の前で、また醜態を晒してしまった。

 どんな結果だとしても、感情を表に出しては駄目なのに――


 そんなことを考えていると、ハクビシンさんからの使者が部屋に入ってきた。


 顔見知りだ。

 てか、ハクビシンさんの副官じゃないか!


 それだけ、重要な使者なのだろう…………


 マコトが緊張していると、ハクビシンさんの副官がハッキリとした口調で言った。


「私たちは、マコト様を支持します!」

 その言葉を聞いた瞬間、マコトの目から涙がこぼれ落ちた。

 

 くそ、もう動揺しないと決めていたのに――


 でも、よかった。

 本当に、よかったよ!


  


 五分後。

 ハクビシンさんからの手紙を読み終えた、ハンゾウが口をひらいた。


「これで、大勢は決しましたね。私も全力で、マコトさんを援助させて貰います!」


 全力で勝ち馬に乗ろうとする姿勢は、嫌いではなかった。


 たしかに、内乱の大勢は決した。

 だが、東国が兵を増強してきたので、ハクビシンさんがピンチなのだ。


 これは内乱を短期決戦で片付けて、ハクビシンさんの援軍に行く必要があるだろう。

 

 あれ?

 なんか、難易度が上がってないか?


 いや、師匠であるハクビシンさんと戦わなくてすむのだ。

 多少の負担は、我慢しよう。 


 その後、マコトがハンゾウとの交渉を無難にまとめ上げた。


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