第17話 新当主、誕生
五分後。
軍議のために聖女様や上級貴族たちが集まっている建物に、マコトが到着した。
ここにくる途中、騒がしくなかった。
たぶん、まだ俺の元上司(白鳳)が、反聖女派閥に鞍替えしたことは伝わってないのだろう。
もし情報が漏れていたら因縁をつけられて、戦闘が起こっていたかもしれない。
本当に、よかったよ。
そんなことを考えていると、マコトが会議室に到着した。
すでに主要な人間が集まっているな。
まあ、俺は報告を受けていたせいで、遅くなったから当然か。
そんなことを考えていると、四大貴族の一人である玄武が口をひらいた。
「全員、集まったようなので、これより軍議を始めます」
そこで、マコトが前に進み出て強い口調で言った。
「すみません、私から重要な報告があります」
予定と違ったので、玄武が少し嫌な顔をしたが発言は許してくれた。
まあ、くさっても上級貴族の当主代行だ。
配慮はされるか。
てか、俺はもう上級貴族の当主代行ではないな…………
苦笑いを浮かべつつ、マコトが言葉を発した。
「先程、十龍の当主である、白鳳が、反聖女派に鞍替えすると、宣言しました」
こちらが発言を終えると、室内がどよめいた。
まあ、聖女派の方が優勢だからな。
派閥鞍替えの理由が、わからないのだろう。
てか、俺も教えて欲しいよ。
そんなことを考えながら、マコトが強い口調で言った。
「私はこれまで通り、聖女様に忠誠を誓うつもりです! 何なりと、ご命令ください!」
こちらの発言を聞いた、諸侯たちが沈黙した。
俺が、白鳳に対して謀反を宣言したことに気がついたのだろう。
さすが上級貴族の当主だ。
察しがいい。
いや、嫡男連中は、あんまり気がついてないみたいだ。
こいつら大丈夫かな?
マコトが心配していると、聖女様が寂しげな表情を浮かべて微笑んだ。
「……マコトさんの変わらぬ忠誠に感謝します……」
それだけか?
政治がわかっている人間なら、もっとするべきことがあるだろう。
マコトが睨みつけて発言を促すと、聖女様が発言を躊躇しているようだった。
ああ、聖女様が攻勢に出なかった理由がわかったよ。
本当に、戦争とか人が死ぬのが嫌なのだろう。
まあ、気持ちはわかるよ。
でも、もうサイは投げられてしまったのだ。
だから、君が責任を感じる必要はない。
俺に大義名分をくれ!
「聖女様!」
マコトが呼びかけて再び発言を促すと、聖女様が辛そうに言葉を発した。
「……マコトさん……あなたを十龍の領主として認めます!」
ついに、決定的な一言が発せられた。
「謹んでお受けします」
そう答えた、マコトが頭を下げた。
これで、俺はもう引き返すことが出来なくなったのだ。
まあ、引き返すつもりなんて、なかったけどね。
大きく頷いた後、マコトが強い口調で言葉を発した。
「私は、これから帰国して、白鳳と戦います。十龍の領地を、聖女様の支配下に戻してみせます」
こちらの発言を聞いた、聖女様が小さく頷いた。
「……頼みます……」
聖女様は、まだ動揺しているみたいだな。
まあ、十代中盤の女の子なんだし、当然だろう。
ここは、俺が話を進めていこう。
大きく頷いた後、マコトが口をひらいた。
「道中、並びに隣国である山東地方の領主は、協力をお願いします」
ここで言質を取っておかないと、後で何を要求されるかわからないからな。
道中の領主たちは、すぐに協力を約束してくれた。
まあ、彼らも敵対派閥の人間が東に現れると困るし、当然の判断だろう。
ここまでは、ほぼ予想通りの展開だった。
だが、隣国である山東地方の領主の嫡男が、帰国して俺を手伝いたいと申し出てきた。
これは、完全に予想外だった。
新しく当主になるかもしれない、俺に恩を売るため?
もしくは、こちらの状況に変化がないことに嫌気がした?
色々と、理由は考えられる。
だが、こいつが帰国するのは、色々と不味い。
事件の当事者である俺ならともかく、近隣の領主まで帰国すると、他の諸侯も難癖をつけて帰国しかねないのだ。
若干の沈黙の後、マコトが微笑んだ。
「援助の申し出、感謝します。ですが、あなたまで帰国してしまっては、聖女様を支える人間がいなくなってしまいます」
これが、正解だと思う。
こちらの発言を聞いた、山東地方の領主の嫡男が肩を落とした。
「……そうですか……残念です……」
こいつは、海千山千の当主と違って、ウブそうだ。
ここで、色々と話をまとめられたら、美味しいかもしれないな。
ニッコリと微笑んでから、マコトが頭を下げた。
「よかったら、当主であるハンゾウ様への紹介状(援助の口利き)を書いてくれませんか?」
こちらが駄目元で頼むと、山東地方の領主の嫡男が大きく頷いた。
「任せてください! 道中の物資や宿泊料は、全て無料にさせてもらいます!」
本当に、いい奴っぽいな。
だが、上級貴族の嫡男としては失格だよ。
さてと、ここでするべきことは全て終わった。
次に行こう!
「それでは、聖女様、失礼させて貰います」
こちらが別れの挨拶を発すると、聖女様が辛そうな表情のまま口をひらいた。
「……はい、ご武運をお祈りします……」
ご武運か…………
そうだな。
運がなければ生き残れないだろうし、運があるといいな。
「はい!」と答えた、マコトが建物から出た。
俺がこの地に連れてきた兵は、合計で1000名ほどだ。
内訳は――
俺の本拠地である林仲の村出身者+俺が支配している鉱山の労働者、合計100。
十龍の西側に所属している領主、15名(兵は、400名前後)
そして、十龍の領主の直属兵500だ。
前の二つは、俺への支持を明確に表明してくれた。
だが、十龍の領主の直属兵500は、まだ去就を明らかにしていない。
いや、正確に言うと、俺と一緒に報告を受けた幹部(百人長クラス)は、支持を表明してくれた。
だが、その下の人間の去就が不明なのだ。
領民ならば相当変な命令でない限り、領主の命令に従う。
まあ、領主に逆らうと、村で暮らしていけなくなるのだから当然だろう。
それに比べて、十龍の領主の直属兵500は、俺の命令に従はなくてはいけない理由がない。
彼らは十龍の街に家族や友人を残しているのだから、謀反に参加したくなくて当然だろう。
その彼らを説得しなくてはいけないのは、とても骨が折れる。
てか、彼らへの説得が失敗したら、俺の謀反は失敗するだろう。
やれやれ、本当に困難なミッションばかりが続くな。
だが、他に選択肢はないのだ!
そんなことを考えていると、自分たちの陣地の近くに到着した。
兵士たちが、広場に集まっている。
てか、かなり騒がしいな。
これは、すでに情報が漏れているのだろう。
まあ、一から説明するよりは楽でいいかな。
広場の前方にある台に、マコトが勢いよく飛び登った。直後、それまで騒がしかった、兵士たちが静まった。
それだけ、俺の言葉に注目しているのだろう。
ここが勝負所だ。
絶対に、こいつらの心を掴んでみせる!
大きく息を吐き出した後、マコトが強い口調で語りかけた。
「すでに聞いていると思うが、十龍の領主である白鳳が、反聖女派閥に鞍替えした!」
そこで、兵士たちがどよめいた。
事前に聞いていても、俺(総大将)から改めて聞かされるとショックだったのだろう。
マコトが唇を強くかみ締めてから、言葉を更に続けた。
「俺たちは、白鳳に見捨てられたのだ!」
そこで、兵士たちが息を飲み込んだ。
やっぱり、俺(総大将)の口からハッキリと言われると、ショックだったのだろう。
気持ちは痛いほど、わかるよ。
手を強く握り締めながら、マコトが強い口調で叫んだ。
「先程、俺は聖女様に変わらぬ忠誠を誓ってきた! これから帰国して、白鳳と戦って、奴らを追放するつもりだ!」
多くの兵士は戸惑っているようだった。
まあ、いきなり謀反を宣言したのだから、当然のリアクションだろう。
お前らの気持ちは、よくわかるよ。
でも、俺には他に選択肢がなかったのだ。
手を強く振り上げながら、マコトが叫んだ。
「俺と一緒に帰国すると、家族や友人と戦うことになるだろう! 抜けたい人間は、抜けてくれ!」
一般の兵士たちは、隊長の方に視線を向けた。
状況の変化についていけない、彼らとしては上司の動向が気になるのだろう。
よし、事前に頼んでおいてよかったよ。
まもなく、幹部たちが前に進み出て、強い口調で言葉を発した。
「「私達は、マコト様に従います!」」
幹部たちが頭を下げると、それに釣られて一般の兵士たちも頭を下げた。
よし、とりあえずの説得は成功だ!
マコトがホッとしていると、幹部の一人が前に進み出てきた質問した。
「マコト様に質問があります。勝算はあるんですか?」
直球の質問だな。
『まあ、勝算がなければ、戦わないよ』と答えて、この場をやり過ごすことも出来るだろう。
だが、この機会に、状況を詳しく説明しておくのもアリだな。
いや、ここで必要なのは、細かな説明ではない!
ここで必要なこと、それは――
拳を力強く振り上げて、マコトが叫んだ。
「勝てる!」
沈黙。
あれ?
ノーリアクションだと、辛いんだけど…………
てか、俺が内心不安なのがばれてしまったのかな?
マコトが困惑していると、部下たちが雄叫びを上げた。
「おお!」
「流石、マコト様!」
「不敗の名将、マコト様万歳!」
うわ、メチャクチャ盛り上がっているよ…………
いや、引くな。
これは、俺が求めた結果だ。
「すぐに帰国するぞ! 準備に取り掛かれ!」
こちらの発言を聞いた、部下たちが大声で答えた。
「「わかりました」」
そして、兵士たちが散っていった。
さてと、俺も出発の準備をするか。
いや、準備が必要なことなんて何もないな。
そんなことを考えていると、俺の夜伽を担当していた、マイが近づいてきた。
マイの存在を、完全に忘れていた…………
思えば、この二ヶ月間。
すごく醜態を晒したし、世話にもなった。
それなのに、挨拶もせずに別れようとしていたなんて、俺は薄情だな。
いや、それだけ余裕がなかったのだろう。
てか、俺がこの地を離れたら、マイは他の男性の相手をすることになるだろう。
それは、凄く嫌だった。
だが、いまの俺の立場(上司への謀反を計画中)で、女性を連れ帰るなんて無理だし、どうしたらいいのかな?
マコトが悩んでいると、マイが微笑んだ。
「マコト様、聖女様からの伝言です『この借りは、次に会った時に必ず返すから』とのことです」
借りって何だ?
もしかして、俺が求めた大義名分(十龍の領主の地位)を、なかなかくれなかった事かな?
結局、くれたんだから気にしなくてもいいのに。
いや、貸しにしておいた方が得か。
大きく頷いた後、マコトが嫌らしい表情を浮かべた。
「わかりました。『貸しは、必ず、必ず返してください』とお伝えください」
こちらの表情を眺めていた、マイが微笑んだ。
「わかりました。マコト様が『貸しは、必ず、必ず返してください』と言っていたと、伝えます」
女の子と冗談を言い合えるようになるなんて、俺はだいぶ回復したんだな。
マコトが感慨にふけっていると、マイが寂しそうな表情を浮かべて口をひらいた。
「……マコト様のご武運を……お祈りします……」
連れて行って欲しいとは、言わないんだな。
この後、自分がどうなるのか、わかっているはずなのに――
くそ、やっぱり放ってはおけない!
マイの肩を掴んで、マコトが強い口調で言った。
「これから内乱を起こそうと思っている人間が、言うべきでないことはわかっている。
それから、妻であるエクレアと、娘であるイヨの許可を貰わなくちゃ駄目だけど……」
俺はいま、凄く情けないことを口にしているな…………
いや、胸を張るんだ。
これが、俺なんだから。
マイの目をまっすぐに見つめて、マコトが強い口調で言葉を発した。
「今回の内乱が終わった後、十龍の街にきてくれないか?」
こちらの発言を聞いた直後、マイの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
これって――
「……あの、嫌だったら断ってくれて――」
そこで、マイが叫んだ。
「嫌じゃありません!」
そして、マイが抱きついてきた。
「すごく嬉しいです」
そう言って貰えると、俺も嬉しかった。
「ありがとう」
マコトが更に言葉を続けようとした所で、部下が近づいてきた。
「マコト様、道中の宿について、打ち合わせしたいんですけど……」
どうやら、別れを惜しんでいる時間はないようだ。
「悪い、仕事だ。落ち着いたら連絡するから、待っていてくれ」
こちらの言葉を聞いた、マイが微笑んだ。
「はい、あなたのお帰りをお待ちしています」
こうして、俺は十龍の街に帰国することになった。




