第16話 決断の時
聖女様が夜這いにやってきてから、一ヶ月が過ぎた。
この一ヶ月間も、全く動きがなかった。
いや、こちらの陣営の諸侯が、かなり焦れている。
まあ、もう二ヶ月間も無為な時間を過ごしているのだから、当然の反応だろう。
四大貴族の一人である玄武から、今日の軍議で攻勢に出ることを進言するから、協力して欲しいと頼まれた。
俺も早く帰りたかったので、玄武に協力するつもりだ。
まあ、兵力差は倍近くあるんだし、普通に戦えば勝てるだろう。
てか、聖女様は何で攻勢に出ないのだろうか?
そんなことを考えていると、部下が部屋に駆け込んできた。
「マコト様、大変です! 十龍の当主である白鳳様が、反聖女派閥に鞍替えすると、宣言しました!」
うわ、妙な動きをしている情報は入っていた。
だが、本当に反聖女派に鞍替えするとは…………
百歩。
いや、千歩譲って、派閥の変更は許そう。
だが、当主代行である俺に対して、一言の相談もなく決めるなんて、俺は相当舐められているのかな?
てか、現在の状況は、敵軍のど真ん中に取り残されているようなものだ。
ここから無事に帰るのは、かなり難しいだろうな…………
そばで話を聞いていた部下(寄り子の領主)たちが、意味深な目配せをしてきた。
そうだな。
ここで判断を間違えると、死ぬことになるだろう。
俺が生き残るために取れる選択肢は、そんなに多くはない。
まず、当主である白鳳に従って、反聖女派として行動する場合。
すぐに兵をまとめて、西に対陣している反聖女派の軍隊に合流するべきだろう。
今すぐに実行すれば、大して損害を出さなくてすむはずだ。
いや、待て。
向こう(反聖女派)が、受け入れてくれるとは限らない。
それに、反聖女派の軍隊に合流したら、帰国することが難しくなるだろう。
それなら、兵をまとめて、すぐに帰国するのはどうだ?
いや、道中にいる諸侯が、俺たちを無事に通してくれる可能性は0に近い。
俺が反聖女派として行動すると、死ぬか帰国できなくなる…………
本当に、酷い状況だと思う。
まあ、愚痴を言っていても仕方がないのだ。
次は、聖女派として行動する場合について考えてみよう。
聖女様に状況を説明して、帰国の許可を貰う。そして、白鳳を説得して、聖女派に戻る。
よい案に思えるが、『説得に失敗したら、どうするんだ?』と言われたら、凄く困ることになるだろう。
それに、この案を採用したら、俺が政治的に死んでしまうのだ。
相談もなく派閥を鞍替えさせられて、これだけの苦境に立たされた。
それなのに、何もしないと俺は領主として舐められてしまう。
評判が落ちることぐらい我慢しろと思うだろうが、評判が落ちると戦争を仕掛けられたりするからな…………
放置はできないのだ。
さてと、俺が舐められないようにするためには、聖女派であると宣言して帰国。そして、白鳳を追放すればいいだろう。
もっとも、これを選択したら内乱が確定だ。
はっはは、どれを選択しても地獄だね。
そこで、そばにいた領主たちが、一斉に声をかけてきた。
「「マコト様!」」
どうやら、迷っている時間はないみたいだ。
どれを選んでも地獄なら、俺は――
大きく息を吐き出した後、マコトが周りにいた部下(寄り子の領主)たちに強い口調で語りかけた。
「俺たちは、白鳳様。いや、白鳳に見捨てられたのだ!」
こちらの発言を聞いた、部下たちが大きく頷いた。
彼らも今回の件は、かなりムカついているみたいだな。
よし、ここが勝負所だ!
「俺は聖女派として帰国して、白鳳と戦い、奴らを追放するつもりだ! 諸君は、自由に行動してくれ!」
謀反を宣言した俺には、部下(寄り子の領主)たちへの命令権はない。
だから、行動の自由を与えたのだ。
寄り子の領主たちが、目で会話している。
まあ、彼らにとっても重要な選択だから、当然の行動だろう。
マコトが席を外して、自由に相談させようと思った。
そこで、寄り子の一人が叫んだ。
「私は、マコト様に従います!」
その言葉に続いて、ほかの領主たちも俺への支持を表明した。
まあ、ここで白鳳を支持すると、無事に帰国できなくなるからな。
当然の判断だと思う。
大きく頷いた後、マコトが強い口調で言葉を発した。
「わかった、皆の命を預からせて貰う! 俺は聖女様に帰国の挨拶をしてくるから、みんなは帰国の準備を始めてくれ!」
「わかりました」と答えた、領主たちが部屋を出て行った。
今回の戦いに勝利することができれば、俺は上級貴族の当主か…………
ハッキリ言おう。
これっぽちも、やりたくはなかった。
だが、生き残るためには、他に選択肢がないのだ。




