表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/73

第15話 聖女様が寝室に忍び込んできた!

 この地にやってきてから、一ヶ月が過ぎた。

 この一ヶ月間、ほとんど動きがなかった。


 いや、聖女様による、反聖女派の切り崩し成功(ただし、中小貴族)とか、細かい状況に変化はある。


 だが、聖女様は倍近い兵力差があるのに、攻勢に出ようとはしなかった。


 戦闘の指揮に、自信がないのかな?

 それとも、人が死ぬのが嫌なのか?


 理由は、色々と考えられる。

 だが、そろそろ何とかして欲しいな。


 そんなことを考えていると、本拠地である十龍シーロンの街から、凶報を伝える使者がやってきた。


 まず、東国との国境を任せていた、ハクビシンさんから敵が中規模な部隊(千人前後)で、再侵攻してきたと報告が入っている。


 ハクビシンさんは、『自分たちで何とかするから任せてくれ』と言っているが、今すぐにでも駆けつけたかった。


 第二の報告は、ウチの村を襲った傭兵団に報復を考えている、村長のグエンの動向についてだ。


 生き残った村人たちが、報復に賛成しているので、兵力が整いそうだと報告書には書かれてある。


 くそ、恐れていた事態が…………


 マコトが報告書を強く握り締めていると、続きが書かれてあった。


 俺の妻であるエクレアと、娘のイヨが直接出向いて、説得するから任せて欲しいだと!


 くそ、俺が直接行って、説得したいのに…………


 そして、第三の報告では、十龍シーロンの新しい当主である白鳳ハクホウと、その母親であるメープルについての動向が書かれてあった。


 俺がいなくなった後、メープルの父親の部下がやってきて、再び反聖女派閥に鞍替えさせようとしているらしい。


 いくらなんでも、そんなに簡単に派閥の鞍替えなんてしないだろう。

 そう思っていたが、かなりグラついているみたいだ。


 自重を求める手紙を出しておいたが、どこまで効果があるのやら…………


 正直なところ、今すぐにでも帰りたい。

 てか、何で俺はこんな所で、無駄な時間を過ごしているんだ?


 いや、俺は上級貴族の当主代行として、正しい行動をしてきたはずだ。

 なのに、何でこんな状態になったのだろうか?


 マコトが自問自答していると、部屋の扉が「コン、コン」とノックされた。


 今日も、夜伽の女がやってきたのか…………


 正直なところ、妻であるヒミコが死んだばかりだから、そういったことをする気分にはなれなかった。


 そう伝えたんだが、『女を失った悲しみは、女で癒すべきだ!』という理論を、俺の担当者が主張してきた。


 ありがた迷惑である。


 てか、しつこいので、ぶん殴ってやろうかと思った。


 だが、『次はもっといい女を連れてきますから!』と言い残して、毎回部屋を出て行ってしまうのだ。


 なんかもう断るのが面倒になってきたので、受け入れることにした。


 はっはは、上級貴族の当主代行は、最高の仕事だよ。

 美女とエッチし放題だからね!


 そんなことを考えながら扉を開けると、女の子が入ってきた。


 おっと、これまでの子とは、違うんだな。

 美女というよりも、可愛らしい女の子だった。


 まあ、俺が女の子を雑に扱ったから、交代したのだろう。

 同じ相手だと情が移ってしまうし、これでいいんだと思う。


 女の子の手を掴んで、マコトがベッドに押し倒そうとした。

 だが、それよりも早く、女の子が手をしならせてビンタしてきた。


「パチン!」という音が、室内に響いた。

 予想外の展開にマコトが目を丸くしていると、女の子が睨みつけてきた。


「さて、問題です! 私は、なぜ怒っているのでしょうか!?」


 何だ、この女は?

 お前が怒っている理由なんて、知るか。


 力でねじ伏せようと思った所で、女の子に見覚えがあることに気がついた。


 もしかして、この女の子って、聖女様じゃないか?

 いや、聖女様が夜中に、男の部屋にくるはずがない。


 他人の空似だ。


 そんなことを考えていると、女の子が口を尖らせて強い口調で言った。


「ブー、時間切れ!」

 そして、女の子が腰をひねって、再びビンタしてきた。


 二度も食らうかよ!


 マコトがバックステップを踏んで避けると、女の子が強烈に睨みつけてきた。


「攻撃を避けるなんて、マコトは卑怯な男だな!」

 

 勝手なことを言う女だ。

 てか、俺の名前を知っていて、攻撃してきたのか。


 もしかして、本物の聖女様なのでは?


 いや、本物なら上級貴族の当主(俺は代行だけど)を、敵に回すような行動はしないはずだ。


「殴られれば痛いんだから、攻撃を避けるのは当然だろ。それで、あなたは誰なんだ?」


 マコトが強い口調で問い掛けると、女の子が驚いた表情を浮かべて口をひらいた。


「私は、当代の聖女です!」


 うわ、本物だった。

 どうやって穏便にすまそうかな…………


 いや、こちらに非はないのだ。

 ここは、強気でいこう。


「それで、聖女様はなんでいきなり殴りかかってきたんですか?」

 こちらが睨みつけると、聖女様が睨み返してきた。


「あなたは、これまで……夜伽をしてくれた人の名前を覚えていますか?」

 情がわくのが嫌だったので、女の子を雑に扱っていたからな…………


 マコトが沈黙していると、再び聖女様がビンタしてきた。


「パチン!」という音が、部屋に鳴り響いた。

 今度は、甘んじて受けることにした。


「……なぜ、避けなかったんですか?」

 そりゃあ、殴られて当然の行動をしていたからな。


 マコトが沈痛な表情を浮かべていると、聖女様が口をひらいた。


「今度からは、女の子の名前を覚えてください。そして、優しくしてあげてください」


 そうだな。

 八つ当たりしたって、いい事なんてないのだ。


「わかりました」とマコトが答えると、聖女様が満足気な表情を浮かべて部屋を出て行こうとした。


 いや、ちょっと待てよ。

 少しぐらいは説明してくれても、罰は当たらないと思うよ。


「聖女様は、あの女性と知り合いなんですか?」

 こちらが尋ねると、聖女様が微笑んだ。


「マイは、幼馴染! 事故に遭わなければ、私の代わりに聖女様になっていた逸材なんだから!」


 なんで、そんな奴が俺の夜伽を担当しているんだ?

 そういえば、担当者が飛び切りの人材を用意すると言っていたな…………


 頑張りすぎだよ。


 そこで、部屋の扉がノックされた。


「それじゃあ、私は行くから。またね」

 そう言い残して、聖女様が窓から出て行ってしまった。


 嵐のような人だな。

 てか、せっかく会えたんだから、なぜ攻勢に出ないのか聞きたかった。


 そんなことを考えていると、再び扉がノックされた。


 おっと、待たせるわけにはいかないな。


「どうぞ」

 こちらが許可すると、オッパイの大きな黒髪の女性が部屋に入ってきた。


「こんにちは、マコト様。

 今日もお相手をさせて貰います。


 いつものように、ヒミコと呼んで下さい」


 うわ、俺はこの子をどんな風に扱っていたのだろうか?

 聞くのが凄く怖いよ…………


 マイの目を見つめながら、マコトが口をひらいた。


「……ごめん、マイさん……もう亡くなったヒミコの代わりはしなくていいよ……」

 こちらの発言を聞いた、マイが笑顔を浮かべた。


「私の名前、覚えてくれたんですね!」

 

 いや、そんなに喜ばないで。

 自分がどんな行動をしてきたのか、見せ付けられるようで辛いよ…………


「……あの嫌だったら、俺の相手をしなくていいから……」

 そこで、マイが微笑んだ。


「本当に、嫌だったら断っています」

 彼女がどういった立場なのかわからないが、断れるものなのかな?


 マコトが不安そうな表情を浮かべていると、マイが抱きついてきた。


「女の子を失った痛みは、女の子で癒してください」

 それは、俺に女の子を手配してくれている男の言葉だった。


 言わされているのかな?

 いや、そうだとしても、これ以上女の子に恥をかかせてはいけない。


「ありがとう」

 そう言って、マコトがマイを抱きしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ