第14話 聖女様との出会い
山東地方から、西北に二週間。
この国の首都に、マコトたちが到着した。
ちなみに、首都に固有名詞はついていない。
国名もそうだが、固有名詞をつける=二流のものみたいな考え方が、この世界では一般的なのだ。
国名=聖王国
首都=首都
聖女=聖女(聖女に就任すると、これまでの名前を捨てる慣例になっている)
これが、この国の常識であった。
さて、この二週間の行軍は、思っていたよりも順調であった。
まあ、くさっても同じ派閥に所属している、上級貴族の当主代行だ。
非礼を働いて、敵にはしたくないのだろう。
そんなことを考えていると、門番の男が口をひらいた。
「確認できました、マコト様。どうぞ、お通りください」
門番の言葉に、マコトが笑顔で答えた。
「ありがとう、行くぞ」
部下たちに声をかけてから、マコトが正面門を通過して首都の中に入った。
普段はどうだが知らないが、物資を満載した荷車が大量に行き交っているな。
内乱の影響かな?
てか、人の数が多いな。
家の数から判断すると、人口は五万人前後だろう。
最大の動員力も、ウチの4~5倍ぐらいだし、大きく外れていることはないと思う。
そんなことを考えていると、マコトが王宮の入り口に到着した。
名前を告げて聖女様への面会を求めると、聖女様は反乱軍を討伐しに行ったので留守だと教えられた。
本人が出陣しているのは、かなり意外だった。
普通、こういった汚れ仕事は部下に任せるものだが。
噂通り、聖女様は行動派のようだな。
そんなことを考えていると、出迎えてくれた貴族が聖女様からの手紙を渡してきた。
手紙の内容を要約すると、『軍を率いて、そのまま合流して欲しい』と書いてあった。
個人的には、首都に留まっていたいのだが、そういった訳にもいかないだろう。
「わかりました。すぐに、聖女様を追いかけます」
こちらの発言を聞いた、貴族が嬉しそうに大きく頷いた。
「お願いします。道中の宿の手配などは、こちらでやっておきますので、マコト様はゆっくりと休んでください」
「お願いします」と答えた、マコトが客間を出た。
待遇とかは悪くないな。
まあ、寝返った人間を冷遇しすぎると、新しく寝返ってくれる人間が出なくなるからな。
こんなものだろう。
一週間後。
聖女様の軍隊に、マコトたちが無事に合流することができた。
ちなみに、川を挟んだ西側には、反聖女派の軍隊が駐留している。
敵の数は、二万前後。
こちらは、三万五千前後。
順調にいけば、こちらの勝利は間違いないだろう。
そういえば、あちらは俺のことを裏切り者だと思っているのかな?
まあ、俺も生き残りたいのだ。
悪く思わないでくれ。
そんなことを考えながら、マコトが豪華な天幕の中に入った。
ここで待つように、聖女様から指示されたのだ。
てか、身なりがいい人間が多いな。
まあ、上級貴族の当主や嫡男が多いのだし、当然か。
そこで、護衛を引き連れた女性が、天幕の中に入ってきた。
あれが、当代の聖女様か。
噂通り、十代中盤の可愛らしい女の子だった。
てか、あんな子が本当に、海千山千の上級貴族相手に政治ができるのか?
マコトが不安を抱いていると、聖女様が微笑んだ。
「十龍の領主代行、マコトさん。私の呼びかけに応じて、参戦してくれて、ありがとうございます」
こちらが反聖女派に所属しようとしたことに、触れないでくれるのは助かるな。
「はい、聖女様のために、精一杯働かせて貰います」
こちらの発言を聞いた、聖女様が微笑んだ。
「よろしく、お願いします」
とりあえず、交渉(聖女派への鞍替え)は成功した。
マコトが天幕を出て、一息吐こうと思った。
そこで、四大貴族の一人である、玄武が意見を述べてきた。
「それでは、聖女様。マコト殿には、最前線で頑張って貰いましょう」
まあ、他への示しを考えると、当然の判断だと思う。
だが、寝返ってきた人間を、冷遇しすぎるのは悪手だと思うよ。
そういった思いを込めて目配せすると、聖女様が微笑んだ。
「マコトさんは、ここに来たばかりですから、しばらくは休んで貰いましょう。それに、私には頼もしい味方が多くいますから!」
そう言って、聖女様が上級貴族の嫡男たちに微笑んだ。すると、上級貴族の嫡男たちが、先を争うように声を発した。
「「私に、先陣を任せてください!」」
へえ、上級貴族の嫡男たちを、ちゃんと掌握してるんだな。
聖女様への評価をワンランク上げた、マコトが口をひらいた。
「聖女様のお心遣いに、感謝します。御用の際は、および下さい」
そう言い残して、マコトが天幕を出た。
よし、交渉は成功だ。
聖女様も噂通り、なかなか優秀みたいだ。
それに、こちらの方が大軍だし、長い対陣にはならなくてすむだろう。
本当に、よかったよ。
 




