第13話 山東(サントン)地方の領主との交渉
一週間後。
西部の国境地帯に、マコトが到着した。
ウチの傘下の領主と、隣の上級貴族(聖女派)の軍隊が、川を挟んで対峙している。
これを放置していたら、戦争に発展していた可能性が高いだろう。
放置を選択しないで、本当によかったよ。
ちなみに、向こうは『聖女様のために』と声高に主張している。
だが、向こうが打診してきた停戦条件は、聖女のことなんて一言も書かれていない。
書いてあるのは、長年に渡る国境地域の利権(水の利用権など)の譲歩要求のみだ。
自分のためにしか行動しない、ザ・貴族といった感じだな…………
さてと、このまま交渉に入ると、こちらが大幅に譲歩しなくてはいけないだろう。
一戦してから、交渉に入るべきか?
いや、いま戦うと、中央(聖女様)から睨まれてしまう。
本当に、辛い立場だよな…………
そんなことを考えながら、マコトが会見の場所に到着した。
ちなみに、会見の場所は、両軍の中間地点に存在している。お互いに、全く信じていなくて笑えるよ。
マコトが天幕の中に入ると、山東地方の領主である、ハンゾウが微笑んだ。
「いまさらながら聖女派に鞍替えした、十龍の領主代行のマコト君じゃないか!
私が山東地方の領主、ハンゾウだ。
よろしく」
領主と領主代行の部分を強く発言したのは、わざとだろう。
たぶん、領主と領主代行は、対等な関係ではないと、言いたいのだろう。
ふん、知ったことか。
ニッコリと微笑んでから、マコトが口をひらいた。
「はい、同じ聖女派に所属することになった、十龍の領主代行、マコトです。以後、お見知りおきを」
同じ聖女派に所属した、の部分を強く言ったのは、向こうに対しての牽制だ。
まあ、どこまで効果があるのかは、わからないが言葉にしておかないとね。
そんなことを考えていると、ハンゾウが嫌らしい笑みを浮かべた。
「さてと、マコト君は中央に行って、聖女様に弁明しなくてはいけない。時間もあまりないだろうし、早速停戦交渉に入ってあげよう」
ハンゾウの提案に、反対する理由はない。
だが、恩着せがましいのがムカつくな。
そんな内心を表には出さずに、マコトが微笑んだ。
「それだったら、大丈夫です。そちらが出した停戦条件を、私は全て呑むつもりです」
そこで、背後に控えていた、近隣の領主(俺の部下)たちが睨みつけてきた。
まあ、時間がなくて事前に説明できなかったし、当然のリアクションだろう。
だが、ここは任せて欲しい。
そこで、ハンゾウが探るような視線を向けてきた。
「へえー、それは嬉しい提案ですね」
別に、お前を喜ばせるための発言ではないよ。
ハンゾウを睨みつけて、マコトが強い口調で言った。
「その代わりに、合意文章は三通作らせて貰います。
一通は、私が。
もう一通は、ハンゾウ様が。
最後の一通は、聖女様に提出させて貰います」
そこで、ハンゾウの顔から笑みが消えた。
聖女様に停戦交渉の同意書が渡ったら、ハンゾウが混乱を利用して不当な利益を得ようとしていることがばれてしまう。
中央にいる、ハンゾウの嫡男は居心地が悪くなるだろう。
さて、ハンゾウは実利と評判、どちらを選ぶのかな?
てか、政治が出来る聖女様なら、こちらに恩を売るために、現実的なところまで条件を引き下げてくれるだろう。
だから、どちらに転んでも、こちらには大きな損はないはずだ。
そんなことを考えていると、ハンゾウが嫌らしい笑みを浮かべた。
「はっはは、マコト君は交渉が上手いな。
気に入ったよ。
先ほどの条件は、取り下げさせて貰う。
新しい条件として、国境の川の優先使用権を、三年ほどでどうかな?」
おお、現実的な落とし所を提案してきたな。
「私には異存ありません」
こちらが大きく頷くと、ハンゾウが手を差し出してきた。
「決まりだな」
交渉が上手くいってよかったよ。
いや、ハンゾウの顔は笑っているのだが、目の奥が全く笑っていなかった。
まあ、腹が立っていても、無茶はしないだろう。
たぶん。
マコトが手を握ると、ハンゾウが強く握り返してきた。
うわ、メチャクチャ痛いよ。
てか、子供かよ!
これから聖女様に会うまで、こんな面倒くさい交渉を続けなくてはいけないのか。
憂鬱だな…………




