第11話 権力闘争
一週間後。
十龍の街に、マコトが到着した。
東国との戦争に勝利してきたので、民衆がお祭り騒ぎで出迎えてくれた。
気持ちはわかるが、俺の声望が高まりすぎると、新領主の勢力から睨まれるので、ほどほどにして欲しいな。
てか、領主である白龍が死んだばかりなのにいいのか?
いや、もう二週間も経っているのか…………
これ以上、喪に服していたら、庶民の日常生活にも支障が出てくるだろう。
日常に戻るには、いい切っ掛けなのかもしれないな。
そんなことを考えていると、マコトが領主の館に到着した。そして、自分の部屋に戻って、荷物を降ろそうとした。
そこで、新しい当主である白鳳の使者がやってきた。
「マコト様。新しい当主である白鳳様が、謁見の間でお待ちです。すぐに来てください」
すぐに来いか…………
柔和な笑みを浮かべてから、マコトが口をひらいた。
「わかりました。妻のエクレアと、娘のイヨに挨拶したら、すぐに行きます」
その言葉を聞いた、白鳳の使者が強い口調で答えた。
「お二人も謁見の間で、お待ちです。すぐに来てください」
家族の団欒も許してくれないのか…………
てか、メープルの父親が送り込んできた人間が、ウチの領地の実権を握っているという噂が流れている。
そして、この一週間、妻であるエクレアから手紙が届かなくなっていた。
俺が嫌われているのでなければ、軟禁されている可能性が高いだろう。
やれやれ、戻ってきてすぐに権力闘争なんて勘弁して欲しいな…………
まあ、事前に準備はしておいたのだ。
ちゃんと挽回しよう!
「わかりました。すぐに謁見の間に向かいます」
その言葉を聞くと、白鳳の使者が部屋を出て行った。
ふっふふ、最後まで案内しないのは失敗だよ。
そんなことを考えながら、マコトが後ろに控えていた、領主たちに目配せした。すると、領主たちが大きく頷いてくれた。
よし、準備は万端だ!
「それじゃあ、行くぞ」
そう声をかけると、領主(もしくは、領主の嫡男)と側近、合計五十名ほどが、マコトの後に続いた。
三分後。
マコトたちが謁見の間の入り口に到着すると、門番が青い顔をして呼び止めてきた。
「お、お待ちください! ここから先は、領主代行であるマコト様だけお進みください」
その言葉を無視して、マコトが門番を壁に押し付けた。
「新しく当主になった、白鳳様の命令ならば従う。だが、その命令は白鳳様の命令ではないだろ?」
マコトが睨みつけると、門番が顔を逸らした。
やっぱり、メープルの父親が送り込んできた人間が実権を握っているようだ。
本当に、面倒だな……
「お前も誰につけば、長生きできるか考えたほうがいいよ」
そう言い残して、マコトが謁見の間の扉を開けた。
中央にある、当主の席に白鳳
その隣に、母親であるメープル。
その横に、俺の妻であるエクレアと娘のイヨがいた。
ご丁寧にも、武装した兵士が後ろについているよ。
まあ、よほどのバカでなければ、俺の家族(領主一族)に手は出さないだろう。
いや、援軍にきてくれた将軍を殺せと、一方的に命令するやつだからな…………
マコトが憂鬱な表情を浮かべていると、メープルの後ろに控えていた、中年の男が前に出てきて叫んだ。
「マコト殿、『一人で来い』と命令されたのに、なぜ兵を連れている!」
何でって。
そりゃあ、お前に暗殺されないためだよ。
そう答えられたら、楽しいだろうな。
まあ、あちらとの関係が修復不能になるので、今回は無視して話を進めよう。
当主である白鳳に向かって、マコトが頭を下げた。
「白鳳様。
前当主である白龍様の死について、お悔やみを申し上げます。
これからは、私たちが新当主である白鳳様を、全力で支えていきます」
そこで、白鳳が無邪気な笑みを浮かべた。
「はい、叔父上。よろしくお願いします」
新しい当主である白鳳は善良な少年だ。
娘であるイヨの結婚相手だし、俺としても敵対したい相手ではなかった。
だが、上級貴族の当主は、善良なだけでは勤まらないのだ。
「エクレア、イヨ。こちらにきて、お前たちも臣下の礼を取れ」
マコトが指示すると、メープルの父親が寄こしてきた人間が悔しそうな表情を浮かべていた。
まあ、新当主へ臣下の礼を取るのを、やめさせるのは不可能だよね。
マコトが心の中で勝ち誇っていると、娘であるイヨが抱きついてきた。
「パパ、お帰りなさい!」
なんで、娘はこんなに明るいんだ?
妻であるエクレアに視線を向けると、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。その表情には、暗さとかは微塵も感じられなかった。
ああ、そうか。
妻であるエクレアから、手紙が届かなくなったのは一週間前。
たぶん、この二人は、ヒミコが死んだことを知らないんだ。
この二人に事実を伝えるのは、俺の仕事か。
神様は、俺に酷な仕事を押し付けてくるな…………
そんなことを考えていると、白鳳が口をひらいた。
「叔父上は戦いから戻ってきたばかりなので、部屋に戻ってゆっくりと休んでください」
俺だって、本当はそうしたいよ。
だが、いまの状況は放置できないのだ。
「ありがとう、ございます。私もそうしたいのですが、一つ確かめなければいけないことがあるので、残らせて貰います」
そこで、クイックが前に進み出て叫んだ。
「当主である白鳳様が、下がれと言っているんだ! マコト殿は、下がるべきだ!」
そんなに俺を追い出したいのかね?
クイックを睨みつけて、マコトが強い口調で言った。
「私は領主代行として、仕事を疎かにするつもりはありません。
数日前に、中央で大規模な政争が発生(反聖女派が挙兵)しました。
ウチの領地も、聖女派に所属するのか、反聖女派に所属するのか決めなくてはいけません」
そこで、クイックがわざとらしく鼻を鳴らした。
「ふん、それならすでに方針は決定している」
領主代行である、俺がいないところでな。
てか、こいつは俺を言い負かすのが目的になっているな。
本来、お前がしなくてはいけないことは――
当主である白鳳に向かって、マコトが意見を述べた。
「一週間ほど前、私のところに『援軍にきてくれた、聖女派の将軍であるメイスを暗殺しろ』という命令が届きました」
こちらの発言を聞いた、白鳳とメープルが困惑した表情を浮かべていた。
やっぱり、クイックの独断だったのか。
てか、既成事実を強引に作って、引き返せなくするやりかた。
俺は嫌いだ!
クイックを睨みつけながら、マコトが強い口調で言った。
「あなたが命令したんですか?」
こちらが問い掛けると、クイックが大きく頷いた。
「私たちは、反聖女派に所属することにしたのだ。聖女派の将軍を殺しても、問題はないだろ!」
そういった理屈か。
まあ、たしかに短期的には利益の方が多いのかもしれない。
だが、
「援軍に来てくれた人間を騙まし討ちにしたら、ウチの領地には二度と援軍がこなくなるでしょう」
長期的に考えたら、絶対に不利益のほうが多いのだ。
当主である白鳳とメープルは、俺の意見に賛成しているようだった。
よし、多少は頭が回るようで安心したよ。
「私は聖女派に所属するべきだと思います。
まず、援軍を出して貰った恩には、恩で返すべきでしょう。
次に、今回の政争、聖女派のほうが多数派です!」
俺の所に入っている情報では、聖女派7、反聖女派3らしい。
てか、勝てそうな方に所属するべきだろう。
こちらの意見を聞いた、クイックが顔を真っ赤にして反論してきた。
「ですが、私達はすでに反聖女派に所属すると、聖女や周辺の領主たちに伝えてしまいました」
ちっ、余計な仕事だけは本当に早いな。
そうだな――
「それなら、領主代行であるマコトが強引に当主を説得して、聖女派閥に鞍替えした。と手紙に書いて貰ってかまいません」
まあ、概ね事実だしね。
あと付け加えなくてはいけないことは――
「反聖女派に所属している貴族の多くは、西部に領地を所有しています。東部に所属している私達は、反聖女派に所属したら孤立して袋叩きにあうでしょう」
白鳳とメープルは、俺の意見に完全に賛成のようだった。
こいつらは、本当に流されやすいよな…………
いや、説得が成功したんだ。
喜ぶべきだろう。
マコトが顔をほころばせていると、クイックが武器に手を伸ばそうとしていた。
脳筋だと思っていたが、まさかここまでとは…………
「抜くな! 抜いたら、こちらとは断行になるぞ!」
情勢が変化した場合(反聖女派が有利になった場合)、あちらとの交渉の窓口になって欲しい。
だから、ここで決定的な決裂は避けたかった。
こちらの発言を聞いた、クイックがキョトンとした表情を浮かべていた。
うわ、こいつ理解してないよ…………
それなら――
「クイックさん、主君のもとに戻って、私の言葉を伝えてください。
『残念なことに、今回は敵対することになってしまいました。ですが、情勢が変化した場合、お互いに窓口として協力しましょう』」
仕事を与えてやったんだ。
主君のもとに戻れよ!
そういった思いを込めてマコトが睨みつけると、クイックが悔しそうな表情を浮かべた。
「……わかりました……」
そして、クイックが謁見の間を出て行った。
ふう、方針を変更することが出来てよかったよ。
「それでは、私は聖女様や周辺の領主へ、先ほど決まった方針を伝える手紙を書きます。白鳳様、よろしいですね?」
マコトが確認すると、白鳳が大きく頷いた。
「頼みます」
マコトが執務室に戻って、急いで手紙の作成に取り掛かった。
聖女様や周辺の領主への情報の伝達が遅れると、戦争になるかもしれないからな…………
三十分後。
「この手紙を、急いで届けてくれ」
マコトが完成した手紙を渡すと、部下が答えた。
「わかりました」
とりあえず、急ぎの仕事はこんなところか。
マコトが、一息つこうとした。
そこで、娘であるイヨが執務室にやってきた。
「……ねえ、パパ……ママ(ヒミコ)が、死んだって本当なの?」
どうやら、最も困難な仕事はこれからのようだった。




