第9話 攻城戦(夜戦)
五分後。
正面門(東門)の城壁の上に、マコトが到着した。
 
夜中なので、敵の正確な人数はわからないが、かがり火の数や音などから判断すると、前回の攻勢と同程度の規模(2000前後)のようだ。
新しい攻城兵器とかもなさそうだし、何で敵は再び攻勢に出てきたのだろうか?
マコトが疑問を抱いていると、敵軍から大量の矢が飛んできた。
「危険です! 下がってください!」と叫んだ側近が、盾で俺を庇ってくれた。
何本かの矢が、側近の体に突き刺さった。
危険なのはわかっている。
だが――
「ありがとう、助かったよ」と発言した、マコトが前に進み出た。
前に出ないと、全体を把握するのが難しいのだ。
そして、敵を睨みつけながら、マコトが叫んだ。
「敵の数は、前回の戦いと同じぐらいだ!
前回の戦いに勝利した、俺たちならば十分に勝てる!
落ち着いて、対処しろ!」
直後、部下たちから大声で返事が戻ってきた。
「「おお!」」
そして、マコトが前回の戦いと同様に、堅実な用兵で敵に対処していった。
一時間後。
敵の攻勢が弱まってきた。
前回の戦いと同じならば、そろそろ敵が引き上げる頃だろう。
そんなことを考えていると、伝令の兵士が全力で近づいてきた。
「マコト様、大変です! 正面門の西側の一部に、敵が侵入してきました!」
なんだと!
「何で突破されてから報告するんだよ!」
マコトが強い口調で問い掛けると、部下が緊張した様子で答えた。
「……すみません、部隊長のタケル様が、敵の矢を食らって死んでしまったんです……」
そういえば、あそこの部隊の副長が、前回の戦いで戦死しているな……
隊長と副長がいなくなって、しかも暗闇の中での戦闘だ。
そりゃあ、こちらへの報告が遅くなるのも必然だな。
大きく頷いてから、マコトが強い口調で言った。
「わかった。『侵入してきた敵兵は、俺が部隊を率いて対処する』と、他の部隊長たちに伝えてくれ」
「わかりました」と答えた、伝令の兵士が早足で去っていった。
さてと、次にするべきことは――
側近たちに向き直ってから、マコトが語りかけた。
「そういった訳で、これから戦闘だ。ああ、半数は武器を弓矢から、槍に代えてくれ。これからするのは、白兵戦だ」
そこで、林仲の村の名主である、コウメイが口をひらいた。
「マコト様は、ここで全体の指揮を執ってください。援軍には、私が行きます!」
まあ、総大将が前線に出るのは、よい状況ではないだろう。
だが、手元にある兵力は、五十前後。
これを二手に分けるのは、愚策だろう。
それに、
 
「敵の人数がわからないんだ! 全力を尽くすべきだろう!」
こちらが強い口調で言葉を発すると、コウメイが小さく頷いた。
「……そうですね……」
よし、説得成功だ!
「それじゃあ、行くぞ!」
そう発言してから、マコトが敵が侵入してきた場所に向かった。
道中ですれ違う部下に、励ましの言葉をかけるのは、絶対に忘れてはいけない大事な仕事だ。
これをおこたると、大幅に士気が下がるからね。
五分後。
敵に突破された城壁の近くに、マコトたちが到着した。
えーと、敵の数は40前後か。
思っていたよりも少ないな。
これなら、俺達だけでも十分に対処できるだろう。
「弓隊、放て!」
マコトが指示すると、弓隊のメンバーが前に進み出て一斉に矢を放った。その矢を食らった、敵が混乱している。
「よし、敵が怯んでいるぞ! 槍隊、突撃だ!」
こちらが指示すると、「「おお!」」と叫びながら、コウメイが先頭に立って敵に突撃していった。
よし、敵がさらに混乱した。
これで、勝利が確定しただろう。
そう思っていたところで、敵の部隊長らしき男が叫んできた。
「怯むな! ここを死守できれば、我が軍の勝利だ! 耐えてくれ!」
いや、俺が討ち取られでもしない限り、今回の戦いはこちらの勝ちだろう。
そういった意味では、俺が前線に出たのは失敗かもしれないな。
そんなことを考えていると、敵の部隊長らしき男が叫んできた。
「そこの男、大将なら俺との一騎打ちに応じろ!」
なんで、敵に一発逆転のチャンスを与えなくてはいけないんだ?
てか、総大将が一騎打ちに応じるのは、味方に対しての裏切りだと思う。
だから、敵の部隊長を睨みつけて、マコトが強烈に叫んだ。
「断る! 槍隊、突撃しろ!」
「「おお!」」と叫びながら、槍隊が、敵の部隊長に襲い掛かった。
すると、敵の部隊長が叫んだ。
「卑怯だぞ!」
知るか!
相手の言葉を無視して、マコトが弓を使って矢を放った。その矢が、敵の部隊長の胸に命中した。
自分の胸に突き刺さった矢を見つめながら、敵の部隊長が大げさな身振りを交えながら叫んだ。
「勇敢なる味方よ!
一騎打ちを断るような卑怯者の手にかかって、俺は死んでしまった。
だが、悲しむ必要はない!
ただ俺の死を乗り越えて、前に進んでくれ!」
そう言い残して、敵の部隊長が満足げな表情を浮かべて倒れた。
自分に酔っているタイプの指揮官だな。
精神的には疲れたが、敵としては凄く助かる相手だ。
一番手強いのは、何が何でも生き残って、味方を指揮し続けるタイプだと思う。
まあ、いい。
いまはやるべき仕事をしよう。
敵の部隊長の死体に近づいて、マコトが首を切り落とした。そして、敵に向かって、マコトが全力で叫んだ。
「砦に乗り込んできた、敵将を討ち取ったぞ! 敵を追い払え!」
直後、味方から大音量で返事がきた。
「「おお!」」
まもなく、敵が引き上げていった。
一時間後。
砦を囲んでいた敵兵が、完全に見えなくなった。
食料とかテントなどの物資が大量に残されているので、こちらの大勝利といってもいいだろう。
ハクビシンさんに追撃を任せたし、これで敵はしばらく攻めてこれないはずだ。
マコトが執務室に戻って、次の行動への準備に取り掛かろうとした。
そこで、林仲の村の名主である、ダンが真っ青な顔で近づいてきた。
「……マコト様……ヒミコ様が戦死しました……」
 




