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第8話 攻城戦

 五分後。

 正面門(東門)の城壁の上に、マコトが到着した。


 えーと、敵の数は、二千といったところか。


 攻城兵器も、これまでと同じものだし、普通に対処すれば簡単に勝てる相手だ。

 ここは敵を砦内に引き入れてから反撃して、大勝利を狙おう。


 いや、俺は何を考えているんだ?

 

 そんな危険な作戦ではなく、もっと堅実な作戦を実行するべきだろう。

 いや、堅実な作戦では、敵を追い払うことしか出来ないのだ。


 俺は、徹底的な勝利が欲しかった。


 マコトが命令を発しようとした所で、敵軍から大量の矢が飛んできた。


「危ない!」と叫びながら、俺の側近が盾で矢を防いでくれた。

 何本かの矢が、俺の側近の肩に突き刺さっているな…………


 これは、やり直しがきかない実戦だ。

 そして、俺は用兵の天才ではない。


 だから、自分が最善だと思う作戦を実行するべきだろう。


 若干の沈黙の後、マコトが部下たちに大声で指示を出した。


「敵の数は多いが、新しい攻城兵器があるわけではない! 落ち着いて、いつも通りに対処すれば、勝てるぞ!」

 

 直後、部下たちから大声で返事が戻ってきた。


「「おお!」」

 

 ごめん、ヒミコ。

 本当は、すぐにでも助けに行きたい。


 でも、俺は部下を無駄死にさせるわけにはいかないんだ!




 二時間後。

 マコトが、敵を追い払うことに成功した。


 いや、敵は砦の包囲を解いていないな…………

 勝利ではあるが、大勝利とはいえないだろう。


 くそ、無理をしてでも、大勝利を狙うべきだったのか?


 マコトが自問自答していると、部下が怪我人の収容先や壊れた壁の修理についての相談にやってきた。


 この砦に着いてから、俺は部下の利害調整とか地味な仕事ばかりをしているな……


 まあ、俺が大将なんだし、敵の大将と一騎打ちとかをするよりは健全だな。


 そんなことを考えながら、マコトが地味な仕事をこなしていった。




 二時間後。

 戦闘の後処理が一段落したので、マコトが執務室で休憩を取っていた。


 そこで、部下が部屋に駆け込んできた。


「マコト様、林仲リンチュウの村から、第二報を伝える使者が到着しました」

 しばしの沈黙の後、マコトが口をひらいた。


「…………使者を、と、通してくれ……」


 くそ、情けないが声が震えている。

 でも、仕方がないんだ。


 だって、朗報である可能性は低いのだから…………


 マコトが沈痛な表情を浮かべていると、執務室に林仲リンチュウの村の名主である、ダンが入ってきた。


 ああ、全滅ではなかったんだ。


 よかった。

 本当に、よかったよ。


 マコトがホッとしていると、ダンが勢いよく頭を下げてきた。


「……すみません……私たちだけが生き残って……」

 相当、厳しい状況だったんだな…………


 色々な感情を全て飲み込んで、マコトが口をひらいた。


「……ヒミコ(責任者)の指示だったんだろ?」

 こちらが問い掛けると、ダンが小さく頷いた。


「だったら、気にしなくていい」

 そこで、マコトが微笑んだ。


「それに、俺は、お前が生き残ってくれて嬉しいよ」

 こちらの発言を聞いた、ダンが涙を流した。


 本心からの台詞だ。

 でも、無理して捻り出した言葉でもあった。


「……ダン、悪いが詳しいことを説明してくれないか?」

 こちらが頼むと、ダンが重苦しい表情を浮かべて頷いた。


「……わかりました……一週間前の夕方、東から傭兵団が攻めてきました」

 うん?


「東から、傭兵団が攻めてきたのか?」

 こちらが確認すると、ダンが小さく頷いた。


「……はい、傭兵団の名前は、赤いレッド・リヴァー

 初めて聞く名前だった。


 まあ、傭兵団なんて揉め事を起こしたりすると、簡単に改名したりするし、知らなくて当然か。


 そこで、ダンが口篭っていることに気がついた。

 何か言いにくいことがあるのかな?


「俺は事実が知りたいんだ。ダン、全て話してくれ」

 マコトが強い口調で促すと、ダンが辛そうな表情を浮かべて口をひらいた。


「……赤いレッド・リヴァーの連中は、長谷川の村の報復だと叫んでいました……」

 長谷川の村は、五年前に俺が攻め滅ぼした敵の村の名前だ。


 あの村の生き残りがいたのか!

 くそ、俺が皆殺しにできていれば…………


 いや、過去のことはどうでもいい。

 問題は、これからのことだ。


 マコトが右手を強く握り締めながら先を促すと、ダンが口をひらいた。


「……攻めてきた傭兵団は手錬てだれぞろいで、人数は百を超えていました……」


 林仲の村に残っていた、成人男性は40人前後。

 倍近く離れていると、勝負にならないだろう。


 そんなことを考えていると、ダンが説明を続けた。


「私は近くにいた家族や村人を、領主の館に避難させました。そして、領主の館に到着すると、ヒミコ様から『女子供を先に逃がして欲しい』と頼まれました」


 真面目で責任感が強いのが、ヒミコの長所であり短所だと思う。

 もっと要領がよければ――


 いや、そんな人間なら責任者にはしないか……

 

 マコトが右手を強く握り締めていると、ダンが次の言葉を発した。


「……私が知っているのは、ここまでです……」

 そうか、一番大事なところは解らないのか…………


 マコトがねぎらいの言葉を発しようとした。

 そこで、部下が執務室に駆け込んできた。


「マコト様、大変です。敵が、大規模な夜襲を仕掛けてきました!」

 こんな時に――


 若干の沈黙の後、マコトが強い口調で言葉を発した。


「……わかった。俺は正面門(東門)を指揮するから、ハクビシンさんに北門を頼むと、伝えてくれ」


「わかりました」と答えた、兵士が執務室を早足で出て行った。


「私も戦います!」と発言してくれたダンに、マコトが微笑んだ。


「一週間の強行軍のあとに、戦闘は無理だよ。ゆっくりと休んでくれ」


「ですが!」

 そこで、マコトが叫んだ。


「いいから、休んでいろ!」

 くそ、なんで俺は怒鳴っているんだよ…………


「……悪い、俺も余裕がないんだ。悪いが休んでいてくれ」

 こちらの発言を聞いた、ダンが頭を深く下げてきた。


「……すみません、わがままを言って……」

 お前が謝る必要なんてないよ。


 でも、いまの俺には余裕がないのだ。


「ああ」と言い残して、マコトが執務室を後にした。

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