第6話 籠城戦
一週間後。
東国との国境にある砦に、マコトたちが到着した。
元々砦に駐留していた、500
周辺の村から合流した、1000
そして、俺が率いてきた、1000
合計で、2500が俺の指揮下に入った。
ちなみに、北と南にある砦には、それぞれ500前後の兵が駐留している。
大規模な疫病もあったし、兵力としてはこんなものだろう(前回の戦いでは、4000前後だった)
敵の全軍は、4500
敵の方が大軍なので、基本的には籠城戦をやるつもりだ。
てか、敵が本気なら、兵を分散して北と南の砦も同時に攻撃するのだが、今回はここのみに部隊を配置している。
ウチの領地で疫病が流行っていると聞いて、とりあえず、ちょっかいを出してみたって感じかな?
まあ、適当に戦っていれば、そのうちに敵は引き上げていくだろう。
そんな展望を抱いていた、マコトが大規模な軍議を開催することにした。
意思統一をしておかないと、部下(領主)が勝手な行動をするかもしれないからな。
開催された軍議において、主要なメンバーが自己紹介を終えた。
そして、白龍の四男であるライコウ(妾の子供だったので、ハクの字を貰えなかった)が自信満々な口調で発言してきた。
「マコトさん、私に全軍の指揮を任せてください! 必ずや、敵を打ち破ってみせます!」
うわ、こいつバカだ…………
15才の初陣の人間に、全軍の指揮を任せる人間がいるはずないだろ!
だが、こんなのでも身内(名目上は、副将)だからな。
恥をかかせないで、上手く処理しないと。
穏やかな笑みを浮かべて、マコトが口をひらいた。
「敵のほうが大軍なので、今回は籠城するつもりです」
そこで、大げさな身振りを交えながら、ライコウが叫んだ。
「なんと、消極的な! それでは味方の士気が維持できませんよ!」
いや、一部の脳筋領主以外は、俺の案に賛成しているから!
まあ、俺も手柄が欲しくて、検地を断行して失敗したからな。
あまりこいつのことを笑えないか…………
その後、マコトが時間をかけて脳筋たちを説得して、砦内の意見を籠城にまとめた。
凄く大変だったよ。
ちなみに、翌日からは新しく指揮下に入った、領主たちと検地などに関する交渉を行うことになっている。
俺は、本当に派閥の利害調整ばかりしているよな…………
二週間後。
近隣の領主たちとの交渉が一段落ついたところで、部下が部屋に駆け込んできた。
「マコト様、大変です! ライコウ(白龍の四男)様が兵を引き連れて砦を出て、敵に突撃しました!」
勝手に打って出たのはいい。
副将(中級指揮官)なんだし、ある程度の裁量権はあって当然だ。
問題なのは、こっちに連絡なしということだ。
たぶん、手柄を独り占めしたいのだろう。
本当に、無能。
いや、子供なんだろうな。
個人的には、凄く見捨てたいんだが、名目上とはいえ副将が死ぬと、味方の士気が下がるからな…………
若干の沈黙の後、マコトが口をひらいた。
「ハクビシンさん。500ほど率いて、ライコウさんのフォローを、お願いしていいですか?」
こちらの無茶振りに対して、ハクビシンが笑顔で答えてくれた。
「任せてください!」
そして、ハクビシンが力強い足取りで部屋を出て行った。
まあ、ハクビシンさんなら、上手くやってくれるだろう。
その予想は当たった。
敵を深追いしてピンチになっていたライコウの部隊を、ハクビシンが見事に救出してくれた。
流石、師匠だ!
報告を受けたマコトが顔を綻ばせていると、勝手に打って出て敗北してきたライコウたちが部屋に入ってきた。
全員、かなりうなだれているな。
まあ、百戦して、百勝するなんて不可能だ。
だから、今後は勝手に行動しないでくれればいい。
そんなことを考えていると、ライコウが早口で敗戦の言い訳を始めた。
いわく、敵が卑怯だとか、味方の援護が遅かった。
など言いたい放題だ。
自分の非を認められないなんて、本当にこいつは子供なんだな…………
マコトが呆れていると、ライコウの言動が更にヒートアップしてきた。
いわく、総大将が消極的だから、味方の士気が下がっている。
それを回復するために、俺は出撃したのだ!
味方の士気を回復するために、俺が総大将になってやる!
自分のことを棚にあげて、よくここまで言えるよな。
まあ、ライコウの発言も、事実ではある。
たしかに、味方の士気は下がっていた。
だが、ここまで面子を潰されたら、俺も行動しないわけにはいかないのだ。
ライコウに近づいて、マコトが顔面を殴りつけた。
おお、よく吹っ飛ぶな。
吹き飛ばされたライコウに向かって、マコトが強い口調で言った。
「勝手な行動をしただけではなく、大将の批判か!
貴様がいると、味方の士気が下がる!
十龍の街に戻れ!」
こちらが厳しい処分を下すと、ライコウが殺意の篭った視線を向けてきた。
いや、いや、いや。
自業自得だから。
てか、領主代行だから、俺はかなり甘く対処しているんだけどな…………
「後悔するなよ!」
そう言い残して、ライコウたちが部屋を出て行った。
やっぱり、無理してでも当主になっておいた方がよかったかもな。
俺が当主に就任していたら、確実に殺していただろう。
一週間後。
中央(聖女派)から、援軍500がやってきた。
前回(二年前)と前々回(五年前)の戦いでは、中央から援軍はこなかった。
それなのに、なぜ今回は援軍がきたのだ?
マコトが頭の上に「?」を浮かべていると、ハクビシンが耳打ちしてきた。
「どうやら、中央の派閥争いが激しくなっているみたいです。今回の援軍は、聖女様が自分の派閥に取り込むために出したものでしょう」
うわ、援軍を送り返したくなってきたよ…………
だが、いまさら援軍を送り返すのは不可能だし、それに兵は欲しかった。
援軍にきてくれた将軍に向かって、マコトが頭を下げた。
「援軍、感謝します。聖女様に、よろしくお伝えください」
こうして、俺は不本意ながら聖女派に所属することになった。




