第3話 上級貴族の当主、代行になりました!
一週間後。
寄り親の本拠地である十龍の街に、マコトたちが到着した。
街について驚いたのが、病人の隔離や手洗い等が徹底されていることだ。
俺のうろ覚えの医療知識と一致しているし、聖女様というのはちゃんと仕事をしているみたいだ。
マコトが感心していると、寄り親である白龍の使者が早足でやってきた。
「マコト様、白龍様が急いでお会いしたいそうです」
まあ、後事について相談したいのだろうし、当然だろう。
「わかりました、すぐに行きます」
そこで、新しい使者が部屋に入ってきた。
「マコト様、白狼様の妻である、メープル様が新しい当主である、白鳳様に、挨拶しにきて欲しいとのことです」
うわ、いきなり忠誠を誓えと要求してきたよ…………
俺としては、世話になった白龍が決めたことなら従うつもりだった。
だが、今回の呼び出しは、母親であるメープルの先走りだろう。
無視するべきだな。
いや、無視したら恨まれるし、ちゃんと説明するか。
マコトが丁寧に先約の存在を伝えると、メープルの使者が声を荒げて叫んだ。
「あなたは、白鳳様の当主、就任を認めないんですね!」
ここで、徹底的に対立してどうするんだよ…………
マコトが困惑していると、妻であるエクレアが部屋に入ってきた。
「そこまでにしなさい! 現当主である、白龍様の命令が最優先です!」
エクレアを睨みつけた後、メープルの使者が捨て台詞『このことは、メープル様に報告させて貰います』を残して、去って行った。
うわ、あんなのと協調していかなくてはいけないのかよ…………
マコトが憂鬱な表情を浮かべていると、エクレアが微笑んでくれた。
「マコトさん、お久しぶりです」
おお、元気そうでよかったよ。
「久しぶり、白龍の状態はどうだ?」
こちらが尋ねると、エクレアが表情を曇らせた。
「……父が待っています。こちらへ……」
いい状態ではないみたいだな……
「……わかった……」と答えた、マコトが黙ったまま妻の後に続いた。
五分後。
白龍の寝室に、マコトたちが到着した。
前回、会ったときに比べると、白龍の髪の毛には、白いものがかなり混じっているな。
それに、動作もかなりゆっくりになっていた。
だいぶ衰えたな…………
そんなことを考えていると、白龍がこちらの姿を確認した。
直後、白龍が叫んできた。
「マコトさん、十龍の領主になってください!」
いきなりだな……
若干の沈黙の後、マコトが口をひらいた。
「……私が当主になったら、部下が従ってくれませんよ……」
東国との国境に接している領主とかは、指示に従ってくれるだろう。
だが、他はこちらの命令にどれだけ従ってくれるか…………
下手をすると、毒殺。
いや、最悪の場合は、内乱コースもありえる。
マコトが表情で伝えると、白龍が強い口調で主張してきた。
「ですが、国境の最前線の領主を、六才の人間にやらせるなんて自殺行為もいいところです!」
最もな意見である。
だから、マコトが妥協案を出すことにした。
「白狼様の嫡男である、白鳳様を新しい当主に。そして、彼が成人するまでは、私が当主代行になりましょう」
しばしの沈黙の後、白龍が口をひらいた。
「……マコトさんは、全権を握りたくはないんですか?」
そりゃあ、全権を握ったほうが色々と楽だろう。
だが、内乱の可能性があるからな…………
「これが、一番穏便な解決方法だと思います!」
マコトが強い口調で発言すると、白龍が大きく頷いた。
「……わかりました。マコトさん、あとのことは、よろしくお願いします……」
こうして、俺は十龍(上級貴族)の当主、代行になった。
三十分後。
新しい当主になる白鳳の母親であるメープルに、マコトが白龍の決定を伝えた。
向こうも十分に納得できる内容だと思っていたが、話を聞き終えると、白龍の四男(ライコウ・十五才)が怒って部屋を出て行った。
いや、お前は十五才で上級貴族の当主代行をやれると思っていたのかよ。
マコトが困惑していると、メープルが口をひらいた。
「わかりました。当主である白龍様の顔を立てて、白鳳さんが成人するまで、あなたを当主代行として認めます」
うわ、かなり恩着せがましいな…………
まあ、妥協が成立したのだ。
よしとしておこう。
マコトがホッとした表情を浮かべていると、メープルの傍に控えていた女性が口をひらいた。
「メープル様、マコト様との絆を深めるために、白鳳様と、マコト様の一人娘との婚約を発表するべきでは?」
『ふざけるな!
俺のカワイイ娘を政略の道具として、使うんじゃねえよ!
ウチの娘が欲しいなら、俺よりも強くて賢くて、誠実で大金持ちなイケメンの男を連れて来い!』
そう叫びたかった。
だが、領主代行としては、メープルとの協調を確かなものにするために、この提案を断ることができなかった。
ごめん、イヨ。
白鳳は、お前の婿に相応しい男に鍛えあげるから許してくれ。
そんなことを考えていると、メープルが首を横に振った。
「白鳳さんには、すでに婚約者の候補がいます」
ええ、婚約者ならともかく、婚約者の候補がいるから断るって…………
俺は、相当したに見られているのか?
もしくは、この女はかなりの政治オンチなんじゃないかな?
マコトが目で問い掛けると、メープルの隣にいた女性も困惑していた。
お前も驚いているのかよ!
そこで、メープルの隣にいた女性が口をひらいた。
「メープル様、考え直してください」
首を横に振って、メープルが答えた。
「いえ、お父様の紹介なので、無下にはできません!」
現在の状況で、俺の懐柔よりも、実家(上級貴族の付き合い)を優先するのか……
どうやら、メープルはかなりの政治オンチみたいだ。
俺はどれだけ苦労させられるのだろうか…………




