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第2話 十龍(シーロン)の現状

『こいつは、何を言っているんだ?』と、マコトが思っていると、ハクビシンが説明を始めた。


「寄り親である、白龍ハクロン様が病気なのは知っていますよね?」


 そりゃあ、妻であるエクレアが見舞いに行っているのだ。

 知っているに決まっている。


 マコトが大きく頷くと、ハクビシンが静かに言葉を発した。


「……死病で、三ヶ月は持たないでしょう……」

 マコトが、大きく唾を飲み込んだ。


 一人で歩けなくなったと聞いていたので、長くないかもしれないと思っていたが、そこまで悪いのか…………


 だが、


「白龍さんの嫡男、白狼ハクロウ様がいるんだし、何の問題もないだろ」


 たしかに、先代(白龍)に比べると、見劣りするかもしれない。

 だが、領主として、白狼は十分及第点には達しているはずだ。


 そう目で伝えると、ハクビシンが辛そうに言葉を発してきた。


「……白狼様は、先週亡くなられました……」


「はあ?」

 何を言っているんだ、こいつは?


「冗談だろ?」

 こちらが問い掛けると、ハクビシンが静かに答えた。


「……冗談ではありません……」

 マジかよ……

 

 てか、当主と嫡男が、ほぼ同時に亡くなるなんて普通ではない。

 もしかして――


「……暗殺か?」

 マコトが小声で尋ねると、ハクビシンが首を横に振った。


「……いえ、十龍シーロン周辺で疫病が流行っていて、白狼様は疫病で亡くなりました……」

 

 まあ、暗殺でないだけマシか。

 てか、


「……十龍周辺では、疫病が流行っているのか?」

 こちらが問い掛けると、ハクビシンが辛そうに口をひらいた。


「……はい、人口の一割近くが死にました……」


 そんなに死んでいたのに、情報が入ってこないなんて。

 この村は、どんだけ田舎なんだよ。


 てか、


エクレアは、大丈夫なのか?」

 マコトが身を乗り出して尋ねると、ハクビシンが始めて笑みを見せてくれた。


「疫病については、中央から聖女様が派遣されて、色々と対策を施されたので収束に向かっています!」


 それは、よかった。


 ちなみに、この世界の宗教関係者は、医者を兼ねていることが多い。

 聖女=有能な医者だと思ってくれればいいだろう。


 そうそう、噂では聖女様になると、回復魔法を使えるらしいが、俺は見たことがなかった。


 てか、本当に回復魔法が使えるのなら、上級貴族の当主には使うはずだし、存在していないのだろう。


 さてと、話を戻そう。

 えーと、


「白狼さんには、子供がいるよな?」

 こちらが問い掛けると、ハクビシンが頷いた。


「はい、六才の男子がいます」

 国境の最前線の領主が、六才というのは勘弁して欲しいな…………


 てか、それで俺に領主代行になって欲しいと言ってきたのか。 

 というか、


「白狼さんには、弟が二人いたはずでは?」

 こちらが問い掛けると、ハクビシンが静かに答えてくれた。


「五年ほど前に、お二方は相続争いを避けるために、遠くの村(領主)に婿養子として行きました」


 へえ、そうだったんだ。

 殆ど会ったことがなかったから、忘れていたよ。

 

 軽く頷いてから、マコトが口をひらいた。


「その二人のどちらかを呼び戻せばいいのでは?」

 こちらの発言を聞いた、ハクビシンが首を横に振った。


「すでに、断られました。上級貴族の当主になれるならともかく、上級貴族の当主代行になりたがる人はいません」


 そうだな。

 凄く面倒くさそうな立場だし、俺もやりたくはない。


 そんなことを考えていると、ハクビシンが言葉を続けてきた。


「それに、お二方の場合、それぞれの領地を往復すると、一月半は掛かります!」

 まあ、白狼の嫡男が成人するまで、往復生活を送るなんて誰でも嫌だろう。


「……てか、俺もやりたくないんだけど……」

 俺がなった場合、ヨソ者の癖にとか反発が凄そうだ。


 そこで、ハクビシンが強い口調で言葉を発してきた。


「その場合、白龍様の妾の子である四男(ライコウ・15才)が、当主代行になりますがいいんですか?」


 初陣もまだの若者に、上級貴族の当主代行なんて無理だろう。

 てか、俺の場合、領地が隣接しているから逃げられないのか…………


「わかった。とりあえず、十龍に行くよ」

 こちらの発言を聞いた、ハクビシンが頭を深く下げてきた。


「ありがとうございます」 




 三十分後。

 マコトが自らの執務室に、村の幹部を集めて会議を開くことにした。


 集まっているメンバーは、


 林仲の村出身で、村長のグエン

 同じく林仲の村出身で、名主のヒミコ

 同じく林仲の村出身で、開拓地の責任者であるコジロウ


 大滝の村出身の名主、コウメイ

 青丘の村出身の名主、ダン

   鉱山出身の名主、ヤン


 以上の六人だ。


 軽く挨拶した後、マコトが現在の状況を説明した。




 十分後。

 こちらの話を聞き終えた、最年長であるコウメイが質問してきた。


「率直に言わせて貰います。


 マコト様が領主代行になるのか、ならないのかで、連れて行く兵士の数や滞在期間が変わります。


 まずは、領主代行になるつもりがあるのか教えてください」


 最もな意見だと思う。


 しばしの沈黙の後、マコトが口をひらいた。


「……林仲の村にとっては、負担が大きいと思うが、俺は引き受けようと思っている」


 俺が断ると、混乱が広がりそうだからな。

 それに、この世界で生きていくのなら、力はあった方がいいのだ。


 そんなことを考えていると、コウメイが大きく頷いた。


「わかりました。長期滞在になりそうなので、既婚者は残していくべきでしょう」

 そうだな。


 この中で結婚しているのは、ヒミコとコジロウとダンの三人。

 幹部の半分は残すつもりだったので、丁度いいな。


 マコトが編成について語ると、誰からも反対意見は出なかった。

 まあ、無難な意見だし当然だろう。


 それはいいのだが、問題は――


「みんなは、俺が十龍の領主代行になることに、反対じゃないのか?」

 俺が十龍の領主代行になったら、絶対に林仲の村が疎かになってしまうはずだ。


 こちらがそう目で伝えると、コウメイが微笑んでくれた。


「元々、この村は傭兵家業で食べていました。

 今更ですよ。


 それに、私たちはマコト様のことを信頼しています!」


 マコトが他の人間にも確認すると、全員が首を縦に動かしてくれた。


 俺は部下に恵まれたよな。

 本当に、ありがとう。

 

 大きく頷いてから、マコトが指示を出した。


「それじゃあ、明日の朝出発するから、準備してくれ!」


「「わかりました」」と答えた、部下たちが部屋を出て行った。




 翌日。


 領主の館の前で、マコトが出発の準備をしていると、娘であるイヨが近づいてきた。


「……パパ、行っちゃうの?」


 うわ、凄く行きたくなくなってきた!

 俺は娘と平和に暮らしていければ、それで十分なのだ! 


 だが、俺が行かないと、十龍は大混乱か…………


 娘の瞳を真っ直ぐに見つめながら、マコトが語りかけた。


「……すまない。俺は、爺ちゃん(白龍)を助けに行かないと、いけないんだ!」

 知り合い(爺ちゃん)がピンチだと知って、イヨが困惑した表情を浮かべた。


「……で、でも……」

 そこで、母親であるヒミコが近づいてきた。


「イヨ、パパを困らせては駄目ですよ」

 その発言を聞いた、イヨがヒミコに抱きついた。

 

 こんなにカワイイ娘に愛されているなんて、俺は世界一の幸せ者だな!


 マコトが感動に打ち震えていると、ヒミコが口をひらいた。


「イヨ、蜂蜜がたっぷり掛かっている、ホットケーキを作ったから食べなさい」

 その言葉を聞いた、イヨが顔を上げて元気よく答えた。


「はーい」

 そして、イヨが早足で食堂に向かった。


「…………」

 えーと、俺の魅力は、ホットケーキ以下だったのか…………


 マコトが絶望に打ちひしがれていると、ヒミコが微笑んだ。


「マコト様、無事に帰ってきてくださいね」

 しばしの沈黙の後、マコトがふてくされ気味に答えた。


「……ふん、どうせ俺なんかホットケーキ以下だし……」

 こちらの目を真っ直ぐに見つめながら、ヒミコが強い口調で言った。


「マコトさん、無事に戻ってきてください!」


 ああ、ヒミコは俺のことを、本当に心配していてくれているんだな。

 少しやる気が出てきたよ。


 それに、あのまま娘に泣きつかれていたら困っていたし、全然恨んでないから。

 うん、本当に全然恨んでないからね!


 そんなことを考えながら、マコトが出発の挨拶をした。


「行って来る」

 こうして、俺はこの村にとっての通常動員(60名)を率いて出発した。


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