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第4話 大都市に到着したけれど、外国人の俺には仕事が……

 そして、一週間後。

 マコトたちが、十龍シーロンの街に到着した。


 十龍の街は、首都に次ぐ大都市らしいが、思っていたよりも人が少ないな。

 家の数から推測すると、人口は一万人ぐらいだろう。


 てか、この世界では人口が、一万もいれば大都市なのかな?


 そんなことを考えていると、領主の館の前に到着した。


 こちらが門番に話しかけようとしたら、門番が口をひらいた。


「領主様に取り次いで欲しければ、紹介料を支払え!」

 この世界の常識としては、正しいのだろう。


 だが、


「……私たちの村は山賊に滅ぼされてしまったので、差し上げられる物は何もありません……」


 ヒミコの言葉を聞いた、門番が強気に言葉を発してきた。


「だったら、帰れ!」

 言い争っている二人の間に入って、マコトが意見を述べた。


「この重要情報を領主様に報告しなかったら、首になりますよ」

 

 こちらの発言を聞いた、門番が考え込んでから上司に報告しに行った。

 自分の一存で追い返すと、マズイことになると判断したのだろう。




 三分後。

 領主との面会の許可が下りた。


 門番の上司が、重要だと判断してくれたのだろう。

 

 二人が案内された部屋に到着すると、壮年の男性が自己紹介してきた。


「私が、この地の領主、白龍ハクロンだ。詳しい話を聞かせてくれ」

 大きく頷いてから、ヒミコが今回の事件について説明していった。


 もっと感情的になるかと思っていたが、ヒミコは事実だけを淡々と語った。

 いや、ヒミコは右手を強く握りしめているな…………


 


 十分後。

 報告を聞き終えた、領主が大きく頷いた。


「大変だったんだな」

 同情の言葉をくれた領主に、ヒミコが強い口調で主張した。


「領主様、なにとぞ、村人の仇を!」

 若干の沈黙の後、領主が申し訳なさそうに唇を動かした。


「……すまないが、それはできない。我が国は現在、東国との戦争中で、動かせる部隊がないのだ」


 そういえば、戦争が終わるのは、三ヶ月後だったな。

 

 まあ、真っ当な理由で断られたのだし、ここは引くべきだろう。

 そう思っていたが、ヒミコは止まらなかった。


「高い税金を支払っているのに、仇も取ってくれないのか!」

 いかんな、感情的になっては――

 

 身を乗り出していたヒミコの肩を、マコトが掴んだ。それを、ヒミコが強引に振り払った。


 そこで、不機嫌な表情を浮かべていた、領主が言葉を発した。


「私は寄り親ではあるが、林仲リンチュウの領主ではないぞ! 


 私には、仇を取る義務はない! 

 もう帰れ!」


「呪われろ!」


 ヒミコが罵倒の言葉を発すると、そばに控えていた兵士に肩を掴まれて部屋を追い出された。


 まあ、当然の対処だろう。


 ちなみに、俺は領主に睨まれたので、自主的に部屋を出た。

 だって、殺気の篭もった目って、本当に怖いんだよ!


 そんなことを考えていると、領主の館の前に放り出された。


 ヒミコが号泣しているな。

 まあ、これで山賊を退治する方法がなくなったからな…………


 気持ちは理解できる。

 だが、


「そんな風に感情的になると、相手を怒らせるだけだよ」

 こちらの発言を聞いた、ヒミコが強い口調で言い返してきた。


「あなたにとっては、どうでもいいことかもしれません! ですが、私には村のみんなが全てなんです!」


 たしかに、俺にとっては他人事だよな。

 しかも、時間が巻き戻っているせいで、現実感が薄いのだ。


 そこで、マコトのお腹が「グゥ」と大きく鳴った。


 言い訳をさせてくれ。

 この一週間、俺はちゃんと食べていないのだ。


 元々、俺は一文無しで、この世界に放り出された。

 そして、同行していたヒミコも、村が略奪されて全財産を失ってしまったのだ。


 そういったわけで、俺たちは貧乏なのだ。


「ほら、お腹も減ってきたし、仕事を探そうよ!」

 こちらの提案を聞いた、ヒミコが嗜虐的な笑みを浮かべた。


「……仕事なら、もう決まっています……」

 何だって!


「それは、朗報だ! 早速、行こう!」

 こちらが微笑むと、ヒミコが小さく頷いた。


「…………ええ…………」




 二十分後。

 売春宿の前に、マコトたちが到着した。


「……それじゃあ、今日から私は、この店で働きます。お元気で……」


 そう言い残して、ヒミコが売春宿に入ろうとした。そのヒミコの手を掴んで、マコトが慌てて意見を述べた。

 

「いや、いや、いや。普通の所に勤めようよ!」

 こちらの発言を聞いた、ヒミコが鼻で笑った。


「紹介状もない。身元保証人もいない。貧農の娘を雇ってくれる所なんて、ありません!」


 それは、この世界の真実だった。

 俺も、友人のヤンが仕事を紹介してくれなければ、どうなっていたか…………


 だが、それでも――


「俺が荷物の積み卸しの仕事でもして、食べさせてやるよ!」

 勢いで言ってしまった。


 少し驚いた表情を浮かべた後、ヒミコが唇を動かした。


「……ここは、港町ではありませんよ……」


 マジか……

 えーと、


「それなら、他の仕事を……」

 てか、他の仕事なんて、あるのかな?

 

 そうだ、鉱山に行けば――

 いや、旅費もないし、三ヶ月後には無職になってしまう。


 マコトが悩んでいると、ヒミコが抱きついてきた。


「……さっきの台詞、少し嬉しかった……」

 女の子に抱きつかれたのは、初めてだったので、凄く緊張していた。


「……ど、どうも……」

 情けないが、声が少し震えているな…………


「……お礼に、私が食べさせてあげるね……」

 それって、ヒモなんじゃ…………


 ヒミコの目を見つめながら、マコトが強い口調で語りかけた。


「とにかく、今日中に仕事を見つけてくるから、待っていてくれ」

 若干の沈黙の後、ヒミコが唇を動かした。


「……うん、期待しないで待っている……」




 結論から、言おう。

 仕事はなかった。

 

 いや、正確に言うとあったんだが、殺しの依頼とか明らかに俺では達成できない物しかなかった。


 この世界は、本当に外人(ヨソ者)に厳しい…………


 待ち合わせ場所に到着すると、ヒミコが尋ねてきた。


「……仕事なかったでしょ?」

 こちらの表情が読まれたのかな……


「明日中に、絶対に見つけてみせるから!」

 マコトの言葉を聞いた、ヒミコが上空を見上げながら呟いた。


「……時間切れみたい……」

 空を確認すると、雨が降ってきていた。


 俺たちには食料を購入するお金も、宿に泊まるお金もなかった。

 スラムで野宿するのなら、売春宿の方がマシだろう。


「……ごめん、俺に力があれば……」

 こちらが頭を下げると、ヒミコが首を横に振った。


「……気にしなくていいよ……マコトは頑張ってくれたから……お礼に、私の初めてを上げるね……」


 一瞬、理性が吹き飛びそうになったが、この状況でHなことをする気にはなれなかった。

 

 てか、なんでヒミコの好感度が上がっているんだ?

 意味がわからん!


 ヒミコの方を確認すると、ヒミコの目が虚ろだった。

 

 ああ、病んでいたのね。

 納得だわ。

 

 どうやって断るか考えていると、ヒミコが抱きついてきた。


「……嘘でもいいから、好きと言ってください……」

 俺が断ったら、ヒミコは新しい依存先を見つけるのかな?

 

 いや、それは言い訳だ!


 単に、生活費が欲しい。

 そして、ヒミコの色香に、俺が負けただけだ。


 こうして、俺は童貞を喪失して、ヒモになったのだ。


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