第19話 決着
十分後。
領主の館の前に、マコトが到着した。
部下たちは、すでに攻撃の準備が出来ている。
てか、部下の士気がメチャクチャ高いな…………
まあ、勝ち戦だし、敵は憎い復讐相手だ。
こうなって、当然か。
そういえば、雨が大量に降ってきたから、火矢が使えないな。
そして、長い行軍をしてきたから、当然攻城兵器は持っていない。
まあ、ここの領主の館はでかいだけで、屏が高かったり、深い堀があるわけではない。
力攻めでも、普通に落とせるだろう。
ただし、多くの死者が出ることになる。
ふん、今更だな。
ここで全ての決着をつけるんだ。
大きく頷いてから、マコトが叫んだ。
「戦闘開始だ!」
直後、部下たちが叫び声を上げた。
「「おお!」」
そこで、名主であるグエンが前に進み出て叫んだ。
「放て!」
その言葉と同時に、グエンの部下たちが領主の館に矢を打ち込んだ。
よし、門の近くを守っていた、敵兵を蹴散らせた。
次は――
「突撃部隊、続け!」
こちらが大声で指示すると、コジロウの代わりに突撃部隊を率いている男が、部下を率いて領主の館の屏をよじ登った。
あれ?
なんか簡単に突破できたな。
もしかして、罠か?
いや、罠を準備する時間はなかったはずだ。
「正面門が開いたら、このまま突入するぞ!」
マコトが宣言すると、隣にいたハクビシンが大きく頷いてくれた。
よし、師であるハクビシンさんも賛成してくれたし、俺の判断は間違っていないだろう。
てか、俺はだいぶ、ハクビシンさんに依存しているな…………
そんなことを考えていると、正面門がひらいた。
他の箇所を担当している部隊に伝えるために、マコトが全力で叫んだ。
「正面門が開いた! 本隊は、このまま突入する!」
直後、裏口を担当していた、大滝の名主であるコウメイの叫び声が聞こえてきた。
「裏口も突破できました! こちらも、このまま突入します!」
順調すぎるな。
やっぱり、罠なのでは?
いや、罠でも蹴散らせばいいんだ。
「突撃するぞ!」
マコトが叫ぶと、部下たちが大声で叫び返してきた。
「「おう!」」
マコトが部下を率いて領主の館に入ると、中には殆ど人がいなかった。
敵は、まだ100人近く残っているはずなのに、どこに行ったんだ?
やはり、強力な罠があるのか?
マコトが迷っていると、裏口の方から大声が聞こえてきた。
「敵(長谷川)の領主を討ち取ったぞ!」
誤報か?
もしくは影武者か?
いや、貧村の領主に影武者なんて、存在するはずがない。
こちらの勘違いでなければ、本物の領主だろう。
てか、俺は敵を過大評価していたのかもしれないな。
ウチの村は、50名の傭兵団に襲われて半壊した。
今回、俺は120名を率いてきたのだし、簡単に勝利できたとしても不思議はなかった。
まあ、本当に決着がついたのか、確かめに行こう。
マコトが裏口に向かおうとした所で、二十分ほど前に交渉した女と出会った。
そういえば、この女はかなりいい服を着ているな。
それに、重要な交渉に立ち会ったことを考えると――
「もしかして、お前は領主の娘か?」
こちらが問い掛けると、女が殺意の篭もった表情で睨みつけてきた。
ふむ、否定しないし、俺の予想は正しそうだな。
というか、この女が村人に慕われているのなら、俺が欲していた理想の人質になるな。
「降伏すれば、命は助けるぞ?」
こちらの発言を聞いた、女が鼻で笑った。
「それは、私だけだろ!」
そうだな。
ここで大量に捕虜を手に入れても、あとの処理が大変だ。
正直なところ、敵にはできるだけ多く死んで欲しかった。
そんな不謹慎なことを考えていると、女が叫んできた。
「私、一人が生き残っても意味ないんだよ!」
剣を抜いて、女が襲い掛かってくる。
動きは速くないし、剣士としては三流だな。
俺でも十分に、勝てる相手だ。
人質として、確保するか?
いや、これだけ復讐心が強いと、問題が発生する可能性が高い。
ここで、処理しておいた方がいいだろう。
そこで、隣にいたハクビシンが前に出ようとした。それを押し止めて、マコトが剣を抜いた。
これは、俺が殺さなくてはいけない相手だ。
女が振り下ろしてきた剣をかわして、マコトが女の喉を切り裂いた。直後、女の喉から大量の血液が流れ出して、女が地面に倒れて動かなくなった。
それを確認してから、マコトが叫び声を上げた。
「敵は降伏を拒否した! 皆殺しにしろ!」
まもなく、領主の館から「「おお!」」という怒声が返ってきた。
はっはは、本当にこの世界は地獄だね!
三時間後。
領主の館の制圧が完了した。
今回の戦いで、
こちらの死者は、20。
敵の死者は、220。
敵の村の人口は、250前後。
傭兵団についていったのが、20前後。
残りの10前後は、森の中にでも逃げ込んだのだろう。
報復が怖いからできたら、殺しておきたい。
だが、ここに長く滞在するのも危険だからな…………
そうだな。
大きく頷いた後、マコトがハッキリとした口調で宣言した。
「今日、一日かけて、この村を徹底的に潰すぞ!」
その宣言通り、マコトが民家を一軒ずつ燃やしていった。
建てるときは何日もかかるのに、燃やすと数時間でなくなってしまう。
儚いな…………
いや、感傷に浸っている場合ではない。
次は、畑を潰そう。
えーと、たしか塩をばらまいておけば、畑は使えなくなるはずだ。
仕組みはわからないが、とりあえず塩をばらまいておいた。
ちなみに、林仲の村で開墾作業をやっている人間は、微妙な表情を浮かべている。
まあ、気持ちはわかるよ。
だが、ここで手を抜くと、村が再建されてしまうのだ。
「手を抜くな!」と強い口調で指示すると、部下たちが真剣な表情で作業に戻った。
その後、マコトが全ての畑を回って、塩をばらまいた。
翌日の早朝。
全ての民家と畑の破壊が終わったので、最後に領主の館に火をつけることにした。
昨日から数えると、50軒目に当たる。
どうすれば、家がよく燃えるのか解るようになってきた。
『マコトが、放火の技術を手に入れた!』
そんな下らないことを考えながら、マコトが領主の館に火をつけた。
火はあっと言う間に、燃え広がっていく。
よく燃えているな…………
これで、この世界から長谷川の村は消滅したのだ。
いや、俺が消滅させたのだ。
「……マコトさん……」
心配そうな表情で声をかけてくれたハクビシンに、マコトが小さく頷いた。
「……大丈夫……帰りましょう……俺たちの村に……」
この村には、もう用はないのだ。
「はい。マコトさんは、林仲の村のために、正しいことをしました!」
たぶん、俺が一番欲しかった言葉を、ハクビシンさんがくれた。
万感の思いを込めて、マコトが感謝の言葉を返した。
「……ありがとう……ございます……」
ハクビシンさんがいてくれて、本当に助かった。
でも、ハクビシンさん、俺は少しだけ疲れたよ。




