表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/73

第17話 決戦

 敵の本拠地である長谷川ハセガワの村は、林仲の村から徒歩で五日ほどの距離にある。

 昔は、長谷川の村と交流があったので、道に迷うことはなかった。


 ちなみに、交流が途絶えたのは、鉱山からきんが出なくなって余裕がなくなったからだ。


 もしきんが出続けていたら…………

 いや、そんな仮定を考えても意味はないか。

 



 そして、五日後。

 マコトたちが、長谷川の村の近くに到着した。


 時刻は、夜半(多くの村人が眠っている時間帯)

 奇襲するには、最適な時間帯だろう。


 偵察からの報告を聞くと、長谷川の村は敵の襲撃を全く警戒していなかった。

 自分の村出身の傭兵団が、何をやったのか知らないのか?


 いや、俺が傭兵団なら、村の人間には自分たちの所業を黙っているだろう。

 そう考えると、村人が暢気のんきなのも必然であった。


 さてと、この平和な村を蹂躙するか。


 本当にやるのか?

 この罪のない村人を…………


 いや、すでに大量の人や物資を動かしているのだ。

 今さら、止めたなんて言うのは不可能だ。


 それに、少なくとも領主や村の幹部は、傭兵団の所業を知っていたはずだ。

 いや、罪があるかないかなんて、どうでもいい。


 俺たちの村が平和に生きるためには、この村が邪魔なだけだ。

 だから、排除する。


 それだけだ。



 集まっていた幹部に向かって、マコトが指示を出した。


「俺の部隊(林仲の村出身者)は、予定通り正面から攻める。

 コウメイ(大滝の村の名主)さんの部隊は、北から攻めてくれ。


 ヤン(鉱山の代表)さんの部隊は、南から攻めてくれ」


 こちらの発言を聞いた、二人の幹部が頷いてくれた。

 さてと、あと話しておかなければいけないことは――


「今回の作戦の目的は、長谷川の村を潰すことだ!」


 たぶん、ここの寄り親は、赤字の村を援助して存続させることはしても、一度潰れた赤字の村を、大金を投じて再建することはしないだろう。


 だから、徹底的に潰すのだ。

 

「捕虜は必要ない! 女子供も皆殺しにしろ!」

 こちらの宣言を聞いた、幹部たちが引いていた。


 まあ、普通なら捕虜を取って、売り飛ばしたりするものだ。

 だが――


「ここで情けを掛けたら、奴らは絶対に報復してくる。お前たちは、また自分たちの村を焼かれたいのか?」


 こちらが問い掛けると、林仲と大滝の村の幹部は頷いてくれた。

 まあ、痛い目に遭っているから、当然のリアクションだろう。


 だが、鉱山の代表である、ヤンは引いたままだった。

 何かエサが必要だな――


 ヤンの目を見つめながら、マコトが強い口調で語り掛けた。


「私は、ヤンさんを名主(幹部)として受け入れるつもりです!」

 元々、その予定だったんだが、あえて言葉にしてみた。


 こちらの発言を聞いた直後、ヤンが顔を綻ばせていた。

 よし、説得成功だ!

 

 さてと、幹部全員の覚悟も決まったことだし、必要なことは全て話し終わったな――


 大きく頷いた後、マコトが唇を動かした。


「作戦開始だ。それぞれ、配置についてくれ」


「「わかりました」」と答えた、幹部たちが散っていた。


 次は――

 自分が率いる部隊に向き直ってから、マコトが指示を出した。


「俺たちの部隊も前進だ!」

 その言葉に従って、部下たちが前進を開始した。


 まもなく、村が見えてきた。

 てか、偵察からの報告を聞いていたが、本当に見張りがいないんだな。


 無防備すぎるし、罠なんじゃないか?

 いや、普通の村ならこんなものか。


 そこで、部下たちが配置についたようだ。 


 もう作戦開始の時間か…………


 一度やると決めたんだ。 

 躊躇するな!


 大きく息を吸い込んでから、マコトが手を強く握りしめながら叫んだ。


「火矢を放て!」


 その命令に従って、部下たちが敵の村に火矢を放った。まもなく、家に火がつき、家の中から村人が出てきて叫んだ。


「山賊の襲撃だ! 逃げろ!」


 向こうから見たら、俺たちは山賊なんだな…………

 いや、どう見られても構わない。


「皆殺しにしろ!」


「おう!」と答えた、部下の一人が近くにいた子供の胸に槍を突き刺した。

 

 即死だ。

 絶対に助からないだろう。


 それを見ていた、母親らしき女性が半狂乱になって襲い掛かってきた。

 その姿は、弟であるカイトを失ったときの、ヒミコに酷似していた。

 

 マコトが呆然と眺めていると、隣に控えていたハクビシンが前に進み出て、女性の首をはね飛ばした。


 一切の躊躇がない。

 ああ、ハクビシンさんは覚悟が出来ていたんだな。


 それに比べて、俺は――


「マコトさん、指揮に集中してください!」

 そして、こちらを気遣ってくれたよ。


 ハクビシンさんは、本当に素晴らしい師匠だ。

 その素晴らしい師匠に、これ以上の醜態は見せられないな。


「助かりました。指揮に集中します!」

 そう言って、マコトが見晴らしのいい前方に移動しようとした。


 そこで、物陰から槍を持った、少年が襲い掛かってきた。


 少年の年齢は、俺を守るために死んでくれた、ヒミコの弟であるカイトと同じくらいだ。


 これ以上は、躊躇するな。


 その少年の槍をかわして、マコトが少年の喉を切り裂いた。少年の喉から大量の血液があふれ出して、少年が地面に倒れた。


 まだ、助かる可能性がある!

 だから! 


 少年が持っていた槍を拾って、マコトが少年の胸に突き刺した。


 これで、確実に死んだ。


「……何で……こんな……酷いことを?」

 少年が発した最後の言葉に、マコトが心の中で答えた。

 

 幾らでも恨んでくれていい。

 俺は背負うと決めたんだ。


 村人の生活。

 そして、敵の憎悪。


 そういったもの全てを――

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ