第16話 作戦会議
一週間後。
マコトたちが、林仲の村に到着した。
そして、その日の夜。
マコトが自らの執務室に、関係者を集めて作戦会議を開くことにした。
メンバーは、
林仲の村を守ってくれる予定の白龍の嫡男、白狼+副官。
そして、最強の戦士であるハクビシン。
林仲の村からは、
名主のグエン。
名主補佐のヒミコ。
新しく名主になったコジロウ(本調子ではないが、歩けるようにはなっていた)
そして、新しく支配下に入ることになった、大滝の村の名主であるコウメイ。
同じく支配下に入ることになった、鉱山から25名の兵を連れてきた、ヤン(昔の知り合いだったので、驚いた)がいた。
軽く挨拶した後、マコトが作戦を説明しようとした。そこで、白龍の嫡男が前に進み出てきて、強烈に主張した。
「私に先陣を任せてください!」
こいつは、白龍(父親)との打ち合わせを聞いていなかったのか?
マコトが睨みつけると、白龍の嫡男が叫んだ。
「俺だって、武勲が欲しいんだ!」
まあ、領主の嫡男が武勲を欲しがるのは当然だろう。
武勲がないと、部下から侮られるからな。
だが、今回の場合、お前が前線に出ると、東国との戦争が再開になるかもしれないのだ。
絶対に阻止しよう。
そうだな。
相手の顔を潰さない方法は――
若干の沈黙の後、マコトが神妙な表情を浮かべて頭を下げた。
「……前回の戦い……私が遠征に行っている間に、この村が襲われました……
……白龍の嫡男さんに、お願いする仕事(林仲の防御)は大変だと思いますが、よろしくお願いします……」
仕事の重要性は伝えた。
これで駄目なら、こいつはかなり駄目な奴だろう。
白龍の嫡男が部屋の中を見回した。
そして、周りの冷たい視線に気づいた、白龍の嫡男が頭を下げてきた。
「自分勝手なことを言って、すみませんでした。自分の仕事を全力で、勤めさせて貰います!」
よし、説得成功だ。
てか、未来の上司(寄り親)が無能でなくて、よかったよ。
そんなことを考えながら、マコトが作戦を説明することにした。
「林仲の村は予定通り、白龍の嫡男さんの部隊に守って貰います」
100名近い精鋭が残ってくれるのだから、林仲の村は安全だろう。
問題があるのは、遠征軍の方だ。
林仲の村からは、ほぼ全ての成人男性70人。
大滝の村からは、こちらもほぼ全ての成人男性25人。
そして、鉱山からは、25人。
合計120名の部隊を率いて、俺は敵の村を襲撃しに行くのだ。
敵の村の人口は、300前後。
いや、山賊を50人ほど殺したから、残りは250ぐらいだろう。
250の内で、戦力になる成人男性は60~70前後。
こちらは敵の倍近い人数がいるし、奇襲さえ上手くいけば十分に勝てる相手だろう。
いや、敵地に乗り込むのだし、五分ぐらいと見るべきか。
マコトが編成について説明すると、集まっていた人間から反対意見は出なかった。
まあ、事前に説明していた案と同じだし当然だろう。
だが、ここから先は、完全にアドリブになるのだ!
最強の戦士であるハクビシンに向き直ってから、マコトが頭を下げた。
「ハクビシンさん、今回の遠征に参加してください。そして、私を守ってください」
すごく情けない台詞だと思う。
だが、あの強力な山賊のボスと戦って勝つには、ハクビシンの力が絶対に必要なのだ。
若干の沈黙の後、ハクビシンが微笑んだ。
「剣の師として、全力を尽くさせて貰います。ただし、勝った後に、美味しいお酒を奢ってくださいね」
相変わらず、ハクビシンはお酒が好きなんだな。
顔を綻ばせながら、マコトが大きく頷いた。
「はい、とっておきの酒を奢ります!」
こうして、作戦会議が終了したのだ。
三十分後。
マコトが寝室に、ヒミコを呼び出した。
エクレアと結婚したことを、ヒミコに報告するためだ。
まあ、エクレアはまだ幼い(生理が来ているか、微妙な年齢)し、これまで通り妾でいてくれ。
そう伝えるつもりだった。
てか、俺もだいぶ、こっちの世界の常識に染まったな。
そこで、寝室に入ってきた、ヒミコが微笑んだ。
「マコト様、結婚おめでとうございます。エクレア様は素晴らしい女性なので、大切にしてください」
エクレアが、いい女なことは知っているよ。
てか、祝福の言葉を本心から言ってくれた、ヒミコも十分にいい女だと思うよ。
そんなことを考えていると、ヒミコがいつもと同じ口調で言った。
「私が邪魔になったら、遠くに売り飛ばしてくださいね」
何を言っているんだ、この女は?
「嫉妬深い正妻なら、そういった展開もあるだろう。だが、エクレアはそんな女か?」
こちらが睨みつけると、ヒミコが頭を下げてきた。
「……すみません……」
小さく頷いた後、マコトが口をひらいた。
「エクレアからの伝言だ。『ヒミコさん、一緒にマコトさんを支えてください』」
俺は、奥さんに恵まれたよな。
マコトが自分の幸運を噛み締めていると、エクレアが困惑した表情を浮かべていた。
まあ、正妻と妾の仲が悪いケースは少なくないからな。
そんなことを考えていると、エクレアが小声で主張してきた。
「……でも、妾なんて存在していては……」
ああ、面倒くさいな!
ヒミコの肩を掴んで、マコトが全力で叫んだ。
「俺は、お前のことをもっと抱きたいんだ! だから、俺のそばにいろ!」
こちらの発言を聞いた、ヒミコが顔を真っ赤にしていた。
これだけストレートに求められたら、照れもするだろう。
てか、少し前に同じような会話をしたな。
あの時は、確か――
「お前が、俺のことを嫌いなら諦めるが……」
マコトが寂しそうに呟くと、ヒミコがすぐに首を横に振ってくれた。
「嫌いではありません」
『それじゃあ、好きか?』と、前は怖くて聞けなかった。
だが、今回は!
「それじゃあ、好きなんだな?」
マコトが問い掛けると、ヒミコが顔を真っ赤にして頷いてくれた。
うわ、メチャクチャ可愛い!
「それじゃあ、エッチするぞ!」
こちらが照れ隠しに大声で叫ぶと、ヒミコが微笑んだ。
「……はい……」
こうして、俺はヒミコの大きなオッパイを堪能することが出来たのだ。
翌日の早朝。
マコトが広場に到着すると、遠征に同行する予定の兵が集まっていた。
林仲の村人と大滝の村人は、明らかに士気が高いな。
まあ、家族や友人を殺された人間も多いし当然だろう。
それに比べると、鉱山からやってきた兵の士気が低いな。
定住先の斡旋というエサを与えたが、林仲の村が貧しくて、やる気を失った可能性があるな…………
行軍中に話し合って、この村は豊かになると説得して、彼らの士気を上げる必要があるな。
マコトが思案していると、名主であるグエンが目配せしてきた。
さてと、出発の時間になったし、挨拶をするか――
村人に向き直る前に、マコトが空を見上げた。
これまでとは違って、今回の遠征は行かないという選択肢もあったはずだ。
いや、これ以上奪われる側でいるのは、もう耐えられない!
だから、俺は手を汚すことになっても、奪う側に回るんだ!
集まっていた村人に向き直ってから、マコトがこれまでの経緯(因縁)を語っていく。
話を聞いていた村人の多くが、涙を流したり、拳を強く握りしめていた。
まあ、色々とあったからな――
そんな彼らに向かって、マコトが本音をぶちまけた。
「今回の遠征、行かないという選択肢もあった!
だが、これ以上奪われる側ではいたくなかったから、俺は遠征をすることにしたんだ!
不満がある人間は、ついてこなくてもいい!
俺は手を汚すことになっても、奪う側に回るんだ!」
大きく息を吸い込んでから、マコトが叫んだ。
「出発するぞ!」
直後、熱狂的な歓声が上がった。
「「おう!」」
結局、脱落者は出なかった。
まあ、あの雰囲気で行かないと宣言すると、村八分にされるし当然か。
てか、俺は演説が上手くなってしまったな…………
こんな能力が上がるよりも、村を豊かに出来る能力の方が欲しかったよ。
 




