表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/73

第15話 大滝の村の名主(コウメイ)との交渉

 エクレアとの結婚が決まった、翌日。

 白龍に呼び出された。


 出兵に関しての打ち合わせだと思っていたが、マコトが部屋に入るなり、白龍が叫んできた。


「エクレアちゃんが欲しければ、俺を倒してからにしろ!」

 いつの時代だよ!


 てか、


「何で、昨日反対しなかったんですか?」

 こちらが問い掛けると、白龍が叫んだ。


「あれ以上、反対したら、エクレアちゃんに嫌われちゃうだろ!」

 うわ、凄く情けないことを宣言しているな…………


 マコトが呆れていると、白龍が顔を真っ赤にして叫んだ。


「とにかく勝負するぞ!」

 白龍が地団駄を踏んでいる。

 

 正直なところ、無視したい。

 だが、こんなのでも寄り親であり、義理の父親になる人間なのだ。


 面倒でも付き合った方がいいだろう。


 大きく頷いた後、マコトが剣を抜いた。


「わかりました。その代わりに、死んでも文句を言わないでくださいね」

 こちらの発言を聞いた、白龍の部下たちが慌てて仲裁に入った。


 まあ、上級貴族の当主が真剣で、勝負(決闘)するなんてバカげているし、当然のリアクションだろう。




 数分後。


 白龍を止めるために、呼ばれたエクレアが部屋に入ってきた。そして、エクレア(実の娘)に、白龍が怒られている。


 この男は、どこまで残念になっていくのだろうか?


 そんなことを考えていると、俺に面会希望者がやってきた。


 相手は、領主であるサキサカが死亡して、廃村が決まった大滝の村の名主である、コウメイだ。


 どうやら、報告を聞いて急いで村からやってきたみたいだ。


「ここは私に任せて、マコトさんは面会に行ってください」

 エクレアの発言を聞いた、マコトが立ち上がった。


「お願いします」

 マコトが部屋を出ようとすると、白龍が目で助けてと訴えてきた。


 助けて恩を売るという選択肢もあるが、ここはちゃんと叱られるべきだろう。


 マコトが無言で部屋を後にした。




 五分後。

 コウメイが待っていた客間に、マコトが到着した。


 二人が簡単に挨拶した後、コウメイが祝福の言葉を投げてきた。


「白龍様の娘エクレア様との結婚、おめでとうごいます」

 耳が早いね。


 マコトが感心していると、コウメイが唇を動かした。


「これで、林仲の村の近くにある鉱山が手に入りますね! 

 さらに、廃村が決まった、青丘の村の農地も手に入る。


 その上、寄り親からの大幅な援助も期待できる。

 まさに、この世の春ですね!」


 言われてみれば、経済的にはかなり助かるよな。

 

 もっとも、国境にある唯一の村になったのだ。

 危険は倍増では、すまないだろう。


 マコトが思案していると、コウメイが真剣な表情で問い掛けてきた。


「マコト様、大滝の村の領主になりませんか?」

 それが、本題か。


 まあ、俺が援助すれば、大滝の村は存続できるかもしれない。

 だが――


「赤字だった村の領主になりたがる人間はいませんよ」

 こちらの発言を聞いた、コウメイが俺の顔を見つめてきた。


 いや、俺が領主になったのは成り行きだから。


 それに、飛び地(本拠地から離れている場所)を貰っても、目が届かないのだ。

 俺にとっては、利点よりも欠点の方が多い提案だった。

 

 そのことを理解していたのか、コウメイはすぐに新しい提案を口にした。


「だったら、大滝の村人を全て、林仲の村で受け入れてくれませんか?」


 林仲の村は70名ほど死者を出したし、数字的には受け入れることは可能だろう。


 だが、旧住民と、出稼ぎから戻ってきた人間との対立がある。

 これ以上、派閥が増えると、対処が出来なくなるだろう。


 いや、今のままだと旧住民の勢力が強すぎるし、新しい人間を入れるのもアリかもな。


 マコトが思案していると、コウメイが強い口調で宣言した。


「もし住民を受け入れてくれたら、私たちはマコト様に絶対の忠誠を誓います」

 コウメイの表情を見ると、俺の事情を完全に知っているみたいだ。


 この短い時間で、よく情報を集めたものだ。

 

 感心した表情を浮かべていた、マコトが質問を発した。


「大滝の村の跡地は、どうするつもりだ?」

 若干の沈黙の後、コウメイが口をひらいた。


「……元々、農地は少なかったので、手間がかからない薬草とかを植えて使えばいいと思います。


 あとは狩りの時に使う民家を何軒か残して、残りは潰すのがいいと思います」

 

 俺の案と同じだな。

 てか、これだけ頭が回るのなら――


「コウメイさんは、大滝の村の領主になるつもりはありませんか?」

 マコトが『口添えするぞ』と目で伝えると、コウメイが首を横に振った。


「私が領主になったら現状を維持することはできますが、村は徐々に貧しくなっていくでしょう」


 先のことを考えているんだな。 


 まあ、戦力が欲しい現在の状況では、悪い提案ではないし受け入れるべきだろう。


 いや、その前に話すべき事があるな。


「今回の戦いに勝ったら、ウチの村は傭兵の派遣業をするつもりだ」


 山の中にある貧村だと、他の業種は無理だからな。

 てか、これから報復する村と同じ事をするというのは、笑えないよな…………


 それでもいいのかとマコトが尋ねると、コウメイが微笑んだ。


「はい。我が村は、全力でマコト様の期待に応えます!」

 こうして、マコトが大滝の村を傘下に治めた。




 三日後。

 白龍の兵の準備が整った。


 兵の数は、100。

 これは、林仲の村を守る部隊だ。


 攻撃の部隊は、それぞれの村などから集めることになるだろう。


 今回は遠征だから、拒否する人間が出るのかな? 

 それとも、復讐心に燃えている人間ばかり集まるのかな?


 どっちも嫌だな…………


 そんなことを考えていると、エクレアが見送りに来てくれた。


「……マコトさん……ご武運を……」

 大きく頷いた後、マコトが答えた。


「ああ、行ってくる」

 こういった時に、気のきいた答えが返せる人間になりたかった。

 

 いや、何があっても生き残れる、強さの方が欲しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ