第15話 大滝の村の名主(コウメイ)との交渉
エクレアとの結婚が決まった、翌日。
白龍に呼び出された。
出兵に関しての打ち合わせだと思っていたが、マコトが部屋に入るなり、白龍が叫んできた。
「エクレアちゃんが欲しければ、俺を倒してからにしろ!」
いつの時代だよ!
てか、
「何で、昨日反対しなかったんですか?」
こちらが問い掛けると、白龍が叫んだ。
「あれ以上、反対したら、エクレアちゃんに嫌われちゃうだろ!」
うわ、凄く情けないことを宣言しているな…………
マコトが呆れていると、白龍が顔を真っ赤にして叫んだ。
「とにかく勝負するぞ!」
白龍が地団駄を踏んでいる。
正直なところ、無視したい。
だが、こんなのでも寄り親であり、義理の父親になる人間なのだ。
面倒でも付き合った方がいいだろう。
大きく頷いた後、マコトが剣を抜いた。
「わかりました。その代わりに、死んでも文句を言わないでくださいね」
こちらの発言を聞いた、白龍の部下たちが慌てて仲裁に入った。
まあ、上級貴族の当主が真剣で、勝負(決闘)するなんてバカげているし、当然のリアクションだろう。
数分後。
白龍を止めるために、呼ばれたエクレアが部屋に入ってきた。そして、エクレア(実の娘)に、白龍が怒られている。
この男は、どこまで残念になっていくのだろうか?
そんなことを考えていると、俺に面会希望者がやってきた。
相手は、領主であるサキサカが死亡して、廃村が決まった大滝の村の名主である、コウメイだ。
どうやら、報告を聞いて急いで村からやってきたみたいだ。
「ここは私に任せて、マコトさんは面会に行ってください」
エクレアの発言を聞いた、マコトが立ち上がった。
「お願いします」
マコトが部屋を出ようとすると、白龍が目で助けてと訴えてきた。
助けて恩を売るという選択肢もあるが、ここはちゃんと叱られるべきだろう。
マコトが無言で部屋を後にした。
五分後。
コウメイが待っていた客間に、マコトが到着した。
二人が簡単に挨拶した後、コウメイが祝福の言葉を投げてきた。
「白龍様の娘エクレア様との結婚、おめでとうごいます」
耳が早いね。
マコトが感心していると、コウメイが唇を動かした。
「これで、林仲の村の近くにある鉱山が手に入りますね!
さらに、廃村が決まった、青丘の村の農地も手に入る。
その上、寄り親からの大幅な援助も期待できる。
まさに、この世の春ですね!」
言われてみれば、経済的にはかなり助かるよな。
もっとも、国境にある唯一の村になったのだ。
危険は倍増では、すまないだろう。
マコトが思案していると、コウメイが真剣な表情で問い掛けてきた。
「マコト様、大滝の村の領主になりませんか?」
それが、本題か。
まあ、俺が援助すれば、大滝の村は存続できるかもしれない。
だが――
「赤字だった村の領主になりたがる人間はいませんよ」
こちらの発言を聞いた、コウメイが俺の顔を見つめてきた。
いや、俺が領主になったのは成り行きだから。
それに、飛び地(本拠地から離れている場所)を貰っても、目が届かないのだ。
俺にとっては、利点よりも欠点の方が多い提案だった。
そのことを理解していたのか、コウメイはすぐに新しい提案を口にした。
「だったら、大滝の村人を全て、林仲の村で受け入れてくれませんか?」
林仲の村は70名ほど死者を出したし、数字的には受け入れることは可能だろう。
だが、旧住民と、出稼ぎから戻ってきた人間との対立がある。
これ以上、派閥が増えると、対処が出来なくなるだろう。
いや、今のままだと旧住民の勢力が強すぎるし、新しい人間を入れるのもアリかもな。
マコトが思案していると、コウメイが強い口調で宣言した。
「もし住民を受け入れてくれたら、私たちはマコト様に絶対の忠誠を誓います」
コウメイの表情を見ると、俺の事情を完全に知っているみたいだ。
この短い時間で、よく情報を集めたものだ。
感心した表情を浮かべていた、マコトが質問を発した。
「大滝の村の跡地は、どうするつもりだ?」
若干の沈黙の後、コウメイが口をひらいた。
「……元々、農地は少なかったので、手間がかからない薬草とかを植えて使えばいいと思います。
あとは狩りの時に使う民家を何軒か残して、残りは潰すのがいいと思います」
俺の案と同じだな。
てか、これだけ頭が回るのなら――
「コウメイさんは、大滝の村の領主になるつもりはありませんか?」
マコトが『口添えするぞ』と目で伝えると、コウメイが首を横に振った。
「私が領主になったら現状を維持することはできますが、村は徐々に貧しくなっていくでしょう」
先のことを考えているんだな。
まあ、戦力が欲しい現在の状況では、悪い提案ではないし受け入れるべきだろう。
いや、その前に話すべき事があるな。
「今回の戦いに勝ったら、ウチの村は傭兵の派遣業をするつもりだ」
山の中にある貧村だと、他の業種は無理だからな。
てか、これから報復する村と同じ事をするというのは、笑えないよな…………
それでもいいのかとマコトが尋ねると、コウメイが微笑んだ。
「はい。我が村は、全力でマコト様の期待に応えます!」
こうして、マコトが大滝の村を傘下に治めた。
三日後。
白龍の兵の準備が整った。
兵の数は、100。
これは、林仲の村を守る部隊だ。
攻撃の部隊は、それぞれの村などから集めることになるだろう。
今回は遠征だから、拒否する人間が出るのかな?
それとも、復讐心に燃えている人間ばかり集まるのかな?
どっちも嫌だな…………
そんなことを考えていると、エクレアが見送りに来てくれた。
「……マコトさん……ご武運を……」
大きく頷いた後、マコトが答えた。
「ああ、行ってくる」
こういった時に、気のきいた答えが返せる人間になりたかった。
いや、何があっても生き残れる、強さの方が欲しかった。




