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第14話 マコトの結婚問題

 一週間後。

 寄り親である白龍ハクロンの本拠地である十龍シーロンの街に、マコトたちが到着した。


 娘であるエクレアの名前を出すと、白龍がすぐに面会してくれた。

 相変わらず、子煩悩だな。


 そんなことを考えていると、白龍が早足で部屋に駆け込んできた。


「エクレアちゃん、会いたかったよ!」

 そう言って、白龍が娘に抱きついた。


 これまでなら拒否していたエクレアが、黙ったまま父親に抱かれた。そして、父親の胸で、エクレアが涙を流した。


 まあ、色々と溜まっていたのだろう。


「エ、エクレアちゃん、どうしたんだ? まさか、お前が!」

 こちらを睨んできた白龍に、マコトがこれまであったことを全て説明した。




 十五分後。

 

 こちらの話を聞き終わった、白龍が表情を曇らせていた。

 まあ、敵国との国境線が崩壊したのだから、当然のリアクションだろう。


 しばしの沈黙の後、白龍が質問してきた。


「それで、マコトさんは、敵の村に報復するつもりなんですか?」


「はい!」

 こちらが力強く断言すると、白龍が唇を動かした。


「もちろん、助力はします。ですが、私の兵が主体になると、東国との戦争が再開になってしまいます……」


 まあ、白龍としては、東国との戦争は避けたくて当然だろう。


 大きく頷いた後、マコトが口をひらいた。


「白龍さんの部隊は、私たちが遠征している間、林仲の村を守ってください」

 こちらの提案を聞いた、白龍が大きく頷いてくれた。


 まあ、この辺が落とし所だろう。


 それは、そうと――


「国境線の村(青丘+大滝の村)は、どうするつもりですか?」

 こちらが尋ねると、白龍が聞き返してきた。


「どうしたら、いいと思いますか?」


 まあ、先ほど報告を受けたばかりだし、よい案が思いつかなくて当然か。

 そうだな。


 若干の沈黙の後、マコトが意見を述べた。


「青丘の村は、子供たち以外は全滅なので、立て直すのは不可能でしょう。狩りの時に泊まる民家を何軒か残して、残りは破棄するのがいいと思います」


 民家を放置しておくと、山賊の巣になる可能性があるからな。


「……廃村にするんですか?」

 白龍の問い掛けに、マコトが首を縦に動かした。


「ウチの村に余裕(余剰人口)があれば、再建も出来たでしょう。ですが、ウチの村は70人近い死者が出たので、隣村の再建は不可能です」


 青丘の村の跡地は、ウチの村の人間が定期的にチェックして、山賊がいつかないようにしよう。


 農地は薬草とか手が掛からないモノを植えて、使っていくのが正解だろう。


 マコトが再建案を語ると、白龍が同意してくれた。

 まあ、現実的な案だし、当然のリアクションだろう。


 青丘の村についての話が一段落した所で、白龍が質問してきた。

 

「マコトさん、大滝の村は、どうしたらいいと思いますか?」

 大滝の村か――


 あの村は、領主と数名の村人が死んだだけだ。

 十分、再建が可能だろう。


「領主である、サキサカさんの親族はいるんですか?」

 こちらが問い掛けると、白龍が首を横に振った。


「親族はいますが、貧村の領主になりたがる人はいません」


 赤字運営で、廃村の話も出ていたし、当然か。

 てか、貧村の領主になった、俺はバカなのかもな…………


 そんなことを考えながら、マコトが意見を述べた。


「それなら、廃村にするべきだと思います」

 隣村である青丘の村も潰れたし、大滝の村を維持していくのは難しいだろう。


 しばしの沈黙の後、白龍が苦しそうに呟いた。


「……そうですね……それが、妥当な判断だと思います……」

 そこで、言葉を区切ってから、白龍が言葉を続けてきた。


「マコトさんの村で、大滝の村人を何人か受け入れてくれませんか?」

 そうだな――


「今回の戦いに参加してくれる人間については、受け入れるつもりです」

 そうすれば、大滝の村人も一生懸命戦ってくれるはずだ。


 そんな打算的なことを考えていると、白龍が頭を下げてきた。


「お願いします」


 寄り親ってのも、大変な仕事だよな…………

 まあ、これで大滝の村についても、方針が決定したのだ。


 それにしても、東国との国境にある村が、林仲だけになってしまった(山を経由した場合)


 これで、援助金がたんまり貰える。

 やったね!


 そんな不純なことを考えていると、これまで黙っていたエクレアが前に進み出た。


「私が、マコトさんと結婚します!」

 この女は、いきなり何を言っているんだ?


 上級貴族の娘と、貧村の領主では釣り合いが取れないんだぞ。


 いや、これまでの国境に複数ある貧村の一つから、国境にある唯一の強化しなくてはいけない村になったのだ。


 娘を送り込むという選択肢も、なしではなくなった。


 そこで、白龍が叫んだ。


「貧村の領主なんかに嫁いだら、エクレアちゃんが苦労するから駄目だ!」

 まあ、親としては当然の判断なんだが、俺の前で言うのは、どうなんだ?


 こちらが目で問い掛けると、白龍が目を逸らした。

 やっぱり、悪口だったのかよ。


 マコトが白龍(寄り親)を睨んでいると、エクレアが口をひらいた。


「でも、私が嫁げば、林仲の村を大幅に援助出来ますよ!」

 

 まあ、ウチの村が潰れると、寄り親が山賊に悩まされる事になるだろうし、援助は必須だろう。


 そして、親族ならば援助しやすいのも事実だ。


 利点を説明されて、白龍が沈黙した。

 すると、気をよくした、エクレアが言葉を続けた。


「林仲の村の近くにある、鉱山はあまり儲かっていませんでしたよね?」

 エクレアが問い掛けると、白龍が渋々と頷いた。


「それを、結婚の持参金としてください。あそこが手に入れば、林仲の村の余剰人口を上手にコントロール出来るようになります」


 それは、凄く魅力的な提案だった。

 てか、エクレアはだいぶ賢くなったよな。


 マコトが感心していると、白龍が叫んできた。


「やだ! やだ! やだ! エクレアちゃんが欲しければ、俺を倒してからにしろ!」


 子供かよ!

 

 マコトが呆れていると、白龍が顔を真っ赤にして叫んだ。


「俺は、お前が気に入らない! エクレアちゃんが結婚を申し込んだのに、全然嬉しそうじゃない!」

 

 それは、正論だな。

 俺は領主としての打算だけで結婚しようとしていた。


 てか、俺もそろそろ覚悟を決めるべきだろう。



 こっちの世界に来てから半年弱。


 同じ異世界転生者がいないか聞いて回ったが、俺が調べた限りでは異世界転生者はいなかった。


 この世界に転生した人間は、俺しかいない。

 もしくは、いたとしても少数だろう。


 そういった異世界転生者の情報を求めるなら、この国の首都にある大図書館で調べるのがいいだろう。


 そこなら、転生者についての情報があるかもしれない。


 ただし、現代とは違って、図書館は誰でも使えるものではない。


 上級貴族の推薦がいる。

 エクレアの父である、白龍に頼めば推薦状は書いてくれるだろう。


 だが、図書館の使用には、莫大な使用料が取られる。


 それに、古い資料を調べるのなら、日本語で言うところの古文や漢文を使える人間を雇わなくてはいけない。


 そして、目的の書物がすぐに見つかる可能性は高くないだろう。


 その辺の金銭を用意するために、村人への援助金を削って捻出するのは、心情的に無理だった。


 そういった諸々を考えて計算すると、俺が元の世界に戻れる確率は1%ぐらいだろう。


 諦めるのが、現実的だと思う…………



 唯一の肉親である、母親にもう会えないのかと思うと、流石に泣きそうだった。


 母さん、ごめん。

 できたら、俺のことは忘れて、幸せになってくれ。


 俺は、こっちの世界で幸せになるから。


 マコトが母親について思いを馳せていると、目の前で白龍とエクレアが激しい口論をしていた。


 俺が黙っていたせいだ。


 エクレアは、大貴族に嫁ぐことができるのに、貧村の領主である俺の所に嫁ごうとしている。


 打算ではなく、情で行動している。

 バカな女だと思う。


 だから、俺はそんな彼女に応えたいと思った。


「エクレアさん!」

 こちらが強い口調で呼び掛けると、エクレアが視線を向けてくれた。


 そんな彼女を真っ直ぐに見つめて、マコトが強い口調で言った。


「俺の村は貧乏だし、国境の最前線にあるから危険だ!

 幸せにするとは、約束できない。


 でも、命を掛けて守ると約束する。

 だから、俺と結婚してください」


 しばしの沈黙の後、エクレアが微笑んだ。


「はい!」

 こうして、マコトはこの世界で生きていくことを決意した。

主人公が永住を決意したし、ここで第二部が終わってもいいよな

まあ、もう少しだけ続きます

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