第11話 決断の時
青丘の村から、西に二日ほど行ったところに、大滝という村がある。
名前からも解る通り、大きな滝の近くにある村だ。
人口は、100弱。
特産品とかは、特にない。
林仲の村と同様に、貧しい村だ。
その村の領主である、サキサカが兵を引き連れて援軍に来ていた。
数ヶ月前に、寄り親の所で共闘しているので、俺とは顔見知りである。
軽く挨拶した後、すぐに情報を交換した。
だが、お互いに青丘の村に到着したばかりだったので、有益な情報を交換することはできなかった。
まあ、過去のことはいい。
問題は、これからのことだ。
「私は、これから領主の館に突入して、内部を調べるつもりです。サキサカさんは、どうするつもりですか?」
こちらが問い掛けると、大滝の領主であるサキサカが口をひらいた。
「私は、周辺を警戒します」
『激戦が起こる可能性がある、領主の館への突入には参加しないのか?』
そう目で問い掛けると、大滝の領主であるサキサカが唇を動かした。
「私の部隊が参加すると、マコトさんの部隊と同士討ちになってしまいます」
初対面の人間も多いだろうし、その通りだな。
どうも、領主たちに面倒な仕事を押しつけられたから、疑り深くなっていたみたいだ。
反省したい。
大きく頷いた後、マコトが口をひらいた。
「わかりました。周辺の警戒を、お願いします」
「任せてください!」と答えた、大滝の領主である、サキサカが部下に指示を出した。
凄くホッとした表情を浮かべていたが、気がつかないフリをしてあげよう。
それが優しさだと思う。
さてと、本題に戻ろう。
部下である小隊長(名主)の二人に向かって、マコトが語り掛けた。
「作戦は、先程と同じだ! コジロウ!」
マコトが促すと、小隊長(名主)であるコジロウが部下を率いて、領主の館の裏口に向かった。
マコトが次の指示を出すよりも早く、もう一人の小隊長(名主)である、グエンが提案してきた。
「私の部隊も突入しますね」
そうだな…………
「頼む」
さてと、部下への指示も出し終わったし、これからは戦闘の時間だ。
いや、色々と話し合って時間を使ってしまったのに、領主の館からは音が全く聞こえてこなかった。
たぶん、中に生存者はいないのだろう。
いや、悪い方に考えすぎだ。
前向きに行こう。
そんなことを考えていると、部下であるコジロウが配置についたようだ。
よし、行こう。
「突撃!」と叫びながら、マコトが正面の扉を蹴り破った。
うわ、簡単に蹴破れたな。
自宅に戻ったら、門の強度を調べてみよう。
そんなことを考えながら、マコトが領主の館に侵入した。
予想通り、村人の死体が大量に転がっていた。
解っていたことなんだが、かなりキツイな…………
それから、一時間ほど掛けて、マコトが領主の館を調べて回った。
一時間後。
部下からの報告を纏めると、以下の通りになる。
発見された、村人の死体は全部で73体。
全員にトドメが刺されてあったので、生存者は0。
人口が100前後の村で、この数字は全滅と表現してもいいレベルだ。
ちなみに、領主と名主も殺されていたので、この村は再建されずに、放棄される可能性が高いだろう。
いや、遥か先の未来のことよりも、これからのことだ。
子供の死体が、殆どなかった。
たぶん、奴隷として売り飛ばすために、山賊が連れて行ったのだろう。
子供を大量に連れている部隊だ。
今から追いかければ、十分に追いつけるだろう。
問題があるとすれば、俺たちが山賊に勝てるかどうかだ。
正直、村を一つ潰した山賊だ。
こちらが敗北する可能性は、少なくないだろう。
売り飛ばされた子供たちを、奴隷商人から買い戻すのが、最善の手段なのかもしれない。
いや、それだと山賊が調子になってしまうな。
ここは――
「私は追撃して、子供たちを連れ戻すべきだと思います」
こちらの意見を聞いた、大滝の領主であるサキサカが苦しそうな表情を浮かべた。
「……今回の敵は非常に強力なので、追撃するべきではないと思います……」
領主のくせに、日和ったのか?
「今回、山賊を見逃したら、次に襲われるのは、あなたの村かもしれませんよ!」
こちらが攻撃を促すと、大滝の領主であるサキサカが辛そうに呟いた。
「……大滝の村は廃村にするつもりなので、大丈夫です……」
なんだと!
いや、元々赤字運営で、廃村の話は出ていたか。
その上、青丘の村が潰れて、国境の最前線にされたら、逃げ出したくもなるだろう。
マコトが沈黙して考え込んでいると、大滝の領主であるサキサカが意見を述べてきた。
「……もし奴隷商人から、青丘の村人を買い戻すのならば、私がお金を全て支払ってもいいです……」
貧乏なのに、全額出すのか。
サキサカも、子供たちのことを気に掛けているようだな…………
さてと、全ての情報は出揃った。
後は、俺の決断だけだ。
正直なところ、どちらを選んでも地獄なのかもしれない。
だが、それでも選ばなくてはいけないのだ。
大きく頷いた後、マコトが強い口調で呼びかけた。
「連れ去られた、子供たちを救出しに行くぞ!」
その宣言を聞いた、近隣の領主や部下たちの反応は、あまりよくはなかった。
それだけ成功率が低いと、考えられているのだろう。
ちなみに、青丘の村の名主である、ダンは号泣しながら感謝の言葉を述べている。
まあ、気持ちは解るけど、少しは落ち着けよ。
大きく頷いてから、マコトが言葉を発した。
「今回の作戦の目的は、山賊の殲滅ではない。子供たちの救出だ!」
強烈な一撃さえ与えられれば、山賊が子供たちを捨てて逃げ出す可能性は、かなり高いだろう。
そのことに気がついたのか、近隣の領主や部下たちから反対意見は出てこなかった。
よし、説得成功だ。
「それじゃあ、グエン。山賊が、どちらの方角に逃げて行ったか教えてくれ」
マコトが発言を促すと、調査に行っていたグエンが口をひらいた。
「足跡などから判断すると、山賊は東に向かっています」
やはり、この山賊も東国出身だったのか…………
ウチの村を含めると、山賊に襲われたのは、これで三回目。
そろそろ、抜本的な解決策を考えなくてはいけないな…………
マコトが沈黙して考え込んでいると、部下たちが不安そうな視線を向けてきた。
おっと、今は目の前の戦いに集中しよう。
えーと、山賊がこの村を離れたのは、三時間前ぐらいだ(建物の燃え残り方から判断)
いまが夕方頃だから、敵は多分ここから十キロほど東に行ったところにある、水場で野営するはずだ。
今から向かえば、ちょうど夜襲になっていいな。
マコトが考えた作戦を伝えると、部下から反対の意見は出なかった。
まあ、妥当な作戦だし、当然だろう。
「それじゃあ、食事を取った後に、出発する。二人は、準備してくれ」
こちらが呼び掛けると、名主(小隊長)の二人が建物から出て行った。
そこで、大滝の領主であるサキサカが厳しい表情を浮かべながら口をひらいた。
「マコトさんが決意したのなら、私たちも行きます!」
やっぱり、サキサカも領主なんだな。
「よろしく、お願いします」
こうして、作戦が決定した。




