第10話 青丘(セイキュウ)の村
一日目の行軍は、何も問題は発生しなかった。
問題が発生したのは、目的地に到着する直前。
目的地である青丘の村から、大量の煙が上がっていた。
これは、この前の山賊との戦いと、同じパターンか?
動揺している部下たちに向かって、マコトが強い口調で言葉を発した。
「とにかく、急ぐぞ!」
そして、マコトたちが、青丘の村に急いで向かった。
二時間後。
マコトたちが、青丘の村の入り口に到着した。
民家がかなり壊されているが、村人の死体は転がっていなかった。
たぶん、領主の館に村人が避難しているのだろう。
よし、まだ間に合いそうだな。
「領主の館に行くぞ! ダン、案内してくれ!」
こちらの呼び掛けに対して、青丘の村の名主であるダンが呆然と立ちつくしていた。
そんな彼の肩を揺さぶって、マコトが強い口調で言った。
「しっかりしろ! まだ生き残っている人間がいるんだぞ!」
その言葉を聞いた、ダンが辛そうな表情を浮かべながら口をひらいた。
「……そうですね……急ぎましょう……」
ダンの後に続いて、マコトたちが領主の館に向かった。
五分後。
領主の館の前に、マコトたちが到着した。
てか、領主の館の周りには、村人の死体が大量に転がっているな…………
山賊らしき死体は、殆どないので一方的な戦いだったのだろう。
というか、戦闘音が全く聞こえてこない。
ここでの戦闘は、終わってしまったのか?
くそ、早く状況を確認しないと。
まずは――
部下である名主のコジロウに向かって、マコトが指示を出した。
「俺が20名を率いて、正面から領主の館に突入する。コジロウは15名を率いて、裏口に回れ。俺が合図したら、突入だ!」
「わかりました」と答えた、コジロウが部下を率いて、領主の館の裏口に回った。
こっちは、これでよしと。
次は――
もう一人の名主であるグエンに向き直ってから、マコトが指示を出した。
「グエンは5名を率いて、敵がこの村に侵入してきた経路。それと、敵の逃走経路を調べてくれ」
若干の沈黙の後、グエンが問い掛けてきた。
「……私は領主の館に突入しなくていいんですか?」
もっともな疑問である。
小さく頷いた後、マコトが小声で理由を説明した。
「戦闘音が聞こえてこないから、ここでの戦闘は終わっている可能性が高い。グエンは、次の戦いのための情報収集を頼む」
「わかりました」と答えた、グエンが部下を率いて偵察に向かった。
さてと、部下への指示も出し終わったし、これからは戦闘の時間だ。
そこで、剣の師匠であるハクビシンの『生き残ることを優先しろ、前に出るな』という助言を思い出した。
俺だって、前には出たくはない。
だが、この状況を見てしまっては――
大きく頷いた後、マコトが心の中で呟いた。
『よし、行こう!』
マコトが突撃の命令を発しようとした所で、部下であるグエンが早足で戻ってきた。
「マコト様、大変です。西から、10名ほどの集団がやってきます」
敵が戻ってきたのか?
いや、方角を考えると(西には、味方の村がある)、味方である可能性の方が高いだろう。
武器をしまおうとした、マコトが慌てて止めた。
いや、敵である前提で、行動するべきだな――
近くにいた部下に向かって、マコトが指示を出した。
「コジロウに『敵かもしれない集団を発見したから、領主の館への突入を中止して、こちらに合流しろ』と伝えてくれ」
「わかりました」と答えた、部下の一人がコジロウの部隊に走っていった。
次は――
そばに控えていた名主であるグエンに、マコトが指示を出した。
「俺は正面から、敵を迎え撃つ。
グエンの部隊は左前方にある民家に移動して、弓で援護してくれ。
そうだ、味方かもしれないから、俺が合図するまでは絶対に攻撃するなよ」
「わかりました」と答えて、グエンが指示された場所に向かった。
さてと、俺は西方から現れた集団が、敵かどうか見極めるとしよう。
おっと、破壊された民家を見て驚いているな。
少なくとも、青丘の村を襲った山賊ではなさそうだ。
そこで、マコトが顔見知りを発見した。
あいつとは、寄り親である白龍の屋敷で会ったことがある。
顔を綻ばせながら、マコトが近くにいた部下に指示を出した。
「西方から現れた部隊は、味方だ。絶対に攻撃するなと、小隊長(名主)の二人に伝えろ」
とりあえず、援軍と合流してから、村の状況を調べよう。
今後のことを考えるのは、その後でいいだろう。




