第9話 援軍要請
林仲の村から北西に二日ほど行ったところに、青丘という村がある。
名前からも解る通り、青い丘に囲まれている村だ。
人口は、100弱。
特産品とかは、特にない。
林仲と同様に、貧しい村であった。
その村の名主であるダンが、マコトの執務室にやってきて頭を下げた。
「マコト様。なにとぞ、青丘の村に援軍を出してください!」
援軍ねえ…………
即答はせずに、マコトが村の幹部を呼ぶことにした。
十分後。
名主であるグエン。
名主補佐のヒミコ。
新しく名主になったコジロウ。
見学のエクレア+従者二名。
そして、最強戦力であるハクビシンが、マコトの執務室に集まってくれた。
相談できる相手がいるのは、助かるな。
そんなことを考えていると、青丘の村の名主である、ダンが再び現在の状況について説明してくれた。
五分後。
状況を理解した、我が村の名主であるグエンが口をひらいた。
「青丘の村は、前回の戦いで援軍を出してくれなかったので、放置しても道義的には問題ありません」
この時代の同盟は、相互的なものが基本だ。
だから、青丘の村の名主である、ダンも言い訳はせずに、唇を噛みしめて黙っているのだろう。
その様子を見ていた、グエンが言葉を続けた。
「ですが、援軍を出さなかった場合、青丘の村が潰れて、山賊の住処になってしまいます。私は、援軍を出すべきだと思います」
まあ、常識的に考えると、そうなるよね。
マコトが他の人間に視線を向けると、援軍の派遣に反対している人間は誰もいなかった。
「わかった。援軍を出そう」
そこで、青丘の村の名主である、ダンが全力で叫んできた。
「ありがとうございます!」
まあ、家族とかの命が掛かっているのだから、当然のリアクションだろう。
大きく頷いた後、マコトが唇を動かした。
「山賊の数は、20名前後らしい。できたら、敵の倍である40名は連れて行きたい」
人口200の村で、40名の動員は出し過ぎである。
林仲の村の守りを考えるならば、30名前後が適切なのだろう。
だが、今回の場合は――
「ハクビシンさん、村に残って守りを固めて貰っていいですか?」
こちらの発言を聞いた、ハクビシンが微笑んだ。
「わかりました。任せてください」
本当は、最強の戦力であるハクビシンを連れて行きたい。
だが、ハクビシンには、エクレアの護衛という任務があるのだ。
まあ、ハクビシンを残せば、守りについて心配しなくていいのは助かるな。
そんなことを考えながら、マコトが編成について考えていく。
「それで、援軍に行く面子なんだけど、コジロウの所は、15名大丈夫か?」
こちらが問い掛けると、コジロウが大きく頷いた。
「はい、問題ありません」
本当は、新婚のコジロウは連れて行きたくはない。
だが、新婚だからという理由で、部隊長(名主)の従軍を免除できるほど、この村に余裕はないのだ。
えーと、
次は――
「グエンの所は、残りの25名、大丈夫か?」
マコトが問い掛けると、名主であるグエンが大きく頷いた。
「はい、縁もゆかりもない所への遠征ではないので、問題ありません」
なんか遠回しに『縁もゆかりもない所への遠征はしない』と宣言されたような……………
まあ、布陣も決定したのだ。
前向きに行こう。
「それじゃあ、明日の早朝に出発する。それぞれ、準備に取り掛かってくれ」
こちらが呼び掛けると、部下たちが「わかりました」と答えて、執務室から出て行った。
翌日の早朝。
領主の館の前に、マコトが到着した。
集まっている村人の士気は、そこそこだな。
まあ、自分たちが襲われている訳ではないし、こんな所だろう。
元気があるのは、コジロウと奥さんのサラがいる所だけだな。
コジロウが「絶対に手柄を立てて、戻ってくる」などと叫んでいる。
それに対して、奥さんのサラが控えめな口調で助言した。
「……私は、無事に戻ってきてくれれば十分です……」
コジロウは、いいお嫁さんを貰ったよな…………
マコトが羨望の眼差しを向けていると、ヒミコが近づいてきた。
「……マコト様、無事に戻ってきてください……」
「おう!」
自分でも、ビックリするぐらいやる気が出てきた。
男って、単純な生き物なんだな。
そんなことを考えていると、心配そうな表情を浮かべていたエクレアが近づいてきた。
「マコトさん。やっぱり、ハクビシンを連れて行った方がいいと思います」
昨日の会議が終わった後、エクレアが申し出てくれたことだ。
大変に、ありがたい申し出だったが、俺は断った。
だって――
「ハクビシンさんが残ってくれるから、俺は安心して援軍に行けるんだよ!」
事実であった。
まあ、戦闘能力が高い人間を連れて行きたかったのも、事実ではある。
そんなこちらの表情を読んだのか、エクレアが説得を続けようとしていた。
それを手で制して、マコトが頭を下げた。
「エクレアさん、村のことを頼みます」
しばしの沈黙の後、エクレアが答えた。
「…………はい。マコトさんは、無事に戻ってきてください」
「おう!」と、マコトが元気よく答えた。
そして、剣の師匠であるハクビシンに、別れの挨拶をするために近づいた。
「ハクビシンさん、行ってきます。迷惑だと思いますが、村のことを頼みます」
マコトが頭を下げると、ハクビシンが微笑んだ。
「自分に出来る限りのことは、するつもりです」
十分な答えだった。
「お願いします」
『さてと、挨拶もすんだし、そろそろ出発しよう』と思った。
そこで、ハクビシンが助言してきた。
「マコトさん、領主であるあなたが死んだら、負けだということを忘れないでください」
それって、前に出るなって事かな?
俺だって、前になんか出たくはない。
でも、俺の代わりに前に出てくれる人材が、この村にはいないのだ。
やはり、ハクビシンを連れて行くべきだったのか?
いや、今さら編成を代えて、時間を浪費するのは悪手だ。
このままで行こう。
「……わかりました。帰ってきたら、一緒に酒を飲みましょう!」
こちらの発言を聞いた、ハクビシンが嬉しそうに微笑んだ。
「はい、奢りなら付き合いますよ!」
ハクビシンは、ドンドン意地汚くなっていくな…………
苦笑いを浮かべながらマコトが、領主の館の入り口に移動した。そして、集まっていた村人に向かって、高らかに宣言した。
「時間だ!
これから、青丘の村に援軍に行く!
厳しい戦いになるかもしれないが、絶対に勝つぞ!」
「「おう!」」と、集まっていた村人たちが声を張り上げた。




