第7話 ハクビシンは、お酒が大好き
翌日。
ハクビシンとの約束を守るために、マコトたち(マコト+ヒミコ+ハクビシン+エクレア+従者二名)が、森にあるハチミツと果物を探しにきていた。
『お酒作り初心者のハクビシンさんには、ハチミツ酒と果実酒が簡単に作れるので、お薦めです』と、ヒミコに言われたので、現在の状況になったのだ。
ちなみに、ハクビシンは鼻歌を口ずさみながら、楽しそうに森を散策している。
そして、見つけた緑の果実を手にとって、ハクビシンが報告してきた。
「ヒミコさん、この緑の果実は美味しそうですね!」
首を横に振って、ヒミコが強い口調で答えた。
「その果実には強い毒があるので、すぐに捨ててください!」
「……すみません……」
あのハクビシンが、シュンとしている姿は、かなり面白かった。
そんなことを考えていると、ヒミコが赤い果実をもぎ取って呼び掛けてきた。
「この森で食べられる果実は、この赤い果実だけです」
いや、あれを食べて、俺は腹を壊したんだけど…………
マコトが不服そうな表情を浮かべていると、ヒミコが赤い果実をナイフで半分にした。そして、赤い果実のタネの部分を切り落とした。
「この果実は、タネの部分に毒があるので、味見をするときは切り落としてください」
その知識があれば、俺は鉱山に売り飛ばされなかっただろう。
マコトが昔を懐かしんでいると、ヒミコが赤い果実を差し出してきた。
「マコトさんも、味見してください」
嫌な思い出があったので少し躊躇した。
だが、ヒミコを信じて、マコトが赤い果実を口に運んだ。
「うん、美味しいよ」とマコトが発言すると、ほぼ同時にハクビシンが叫んできた。
「超、美味しい!」
なんで、こいつは頭の悪い女の子みたいな、リアクションをするんだ?
マコトが困惑していると、ハクビシンが満面の笑みを浮かべながら宣言した。
「この赤い果実を沢山集めれば、美味しいお酒が作れるんですね! 一杯集めます!」
やる気満々だな。
マコトが微笑ましい気持ちで眺めていると、ヒミコが強い口調で注意してきた。
「必要以上に、赤い果実を取ってはいけません!
昔、赤い果実を取りつくしてしまったせいで、エサがなくなったクマが、村に襲い掛かってきたことがありました!」
食物連鎖って、本当にあったんだな。
マコトが感心していると、ハクビシンがシュンとした様子で呟いた。
「……すみません……」
本当に、ハクビシンから威厳がなくなっていくな…………
そんなことを考えていると、ヒミコが指示を出した。
「それじゃあ、手分けして必要な果実を集めましょう。
それと、ハチの巣を見つけたら、報告してください。
あと危ないので、絶対にハチの巣には近づかないでくださいね」
「「わかりました」」と、他の面々が答えた。
三十分後。
必要な果実が集まった。
現在は、エクレアに美味しい果実の見分け方を、ヒミコが教えている所だ。
俺も習おうかと思ったが、ハクビシンがハチの巣を見つめていたので、そちらに行くことにした。
「何をしているんですか?」
こちらが問い掛けると、ハクビシンが真剣な表情で答えた。
「ここでハチを皆殺しにしたら、次からはハチミツが取れなくなってしまいます! マコトさん、私はどうしたらいいんですか?」
何を言っているんだ?
「……飛んでいるハチを皆殺しにするなんて、不可能では?」
こちらの発言を聞いた、ハクビシンが首を横に振った。
「いえ、よく修行でやっていたから、簡単ですよ。でも、今回はハチミツが!」
なんか、凄い人間がバカなことで悩んでいるな…………
そこで、ヒミコが近づいてきた。
「ハチを皆殺しにする必要はありません。美味しい所だけ貰って、逃げるんです」
そこで、ハクビシンが叫んだ。
「ヒミコさん、あなたは天才だ!」
突然の大絶賛に、ヒミコが面食らっていた。
まあ、普通の人ならそうなるよね。
「ゴホン」
わざとらしい咳払いをした後、ヒミコがハチの侵入を防ぐ頭巾を被った。
「それじゃあ、私がやるので、みなさんは離れていてください」
ヒミコが手際よくハチの巣を切り取って、持ち帰ってきた。
ちなみに、ハクビシンが尊敬の眼差しを向けている。
この人の評価基準、ちょっと変だと思う。
そこで、ヒミコが微笑んだ。
「それじゃあ、ハチの巣を回収しながら村に戻りましょう!」
一時間後。
マコトたちが、林仲の村に戻ってきた。
十五分ほど休憩を挟んでから、ヒミコが口をひらいた。
「それじゃあ、これからお酒を作っていきましょう」
「おお! 何でもやるぞ!」と叫んだのは、もちろんハクビシンであった。
なんか、こいつはドンドン残念な奴になっていくな…………
マコトが哀れみの視線を向けていると、ヒミコが唇を動かした。
「それでは、一番簡単なハチミツ酒から作っていきましょう。
まずは、取ってきたハチの巣を解体して、ハチの死骸などの異物を取り除きます。
次に、この瓶に解体したハチの巣を三分の一ほど入れて、ハチの巣の三倍ほど、水を入れてよくかき混ぜます。
そして、今の時期なら、一週間ほど放置しておけばハチミツ酒が完成しますよ。
ああ、瓶はきつく締めすぎないでください。
瓶が爆発してしまいますから」
へえ、本当に簡単に作れるんだな。
マコトが感心していると、ハクビシンが口をひらいた。
「本当に、これだけでいいんですか?」
「はい、これで、美味しいハチミツ酒が出来ます!」
ヒミコが力強く言い切ると、他の面々がハチミツ酒の作成に取り掛かった。
簡単な作業だったので、十分ほどで全員が一瓶を完成させた。そして、完成した酒瓶をウットリと眺めながら、ハクビシンが呟いた。
「早く、美味しくなってくれよ!」
こいつは、どこまで残念になっていくのだろうか?
マコトが困惑した表情を浮かべていると、ヒミコが口をひらいた。
「それでは、次は果実酒を作っていきましょう。作り方は、先ほどと同じですがハチミツと水の量を減らしてください」
ヒミコの指示に従って、全員がハチミツ酒を完成させた。
「それでは、先ほど集めてきた赤い果実を切って、お酒に漬けておいてください。これを一月ほど寝かせると、美味しい果実酒になります」
「そんなに待てません!」
ハクビシンが大声を上げて詰め寄ると、ヒミコが表情を引きつらせていた。
まあ、あれだけの戦士に詰め寄られたら、怖いよね。
こちらに助けを求めていた、ヒミコに『……ハクビシンさんは残念なだけだよ……』と目で伝えると、ヒミコが唇を動かした。
「……途中で瓶を開けてしまうと、美味しくなくなりますよ……」
しばしの沈黙の後、ハクビシンが肩を落とした。
「…………わかりました……我慢します…………」
ハクビシンに対しての尊敬の念が、凄い勢いで失われていくな…………
それから、一時間ほど掛けて、全員で集めた材料をお酒に変えた。
まあ、ハクビシンだけではなく、他のメンツ(ヒミコ+エクレア)も楽しめたみたいで、よかったよ。




