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第6話 ハクビシンとの戦闘訓練(実演)

 二分後。

 中庭に到着すると、ハクビシンと共にヒミコがいた。


「何で、ヒミコがいるんだ?」

 こちらが問い掛けると、ハクビシンが答えてくれた。


「怪我人が出たときのために、薬師(医者)を呼んでおきました」

 準備万端だね。


 てか、


「ヒミコって、薬師だったのか?」

 マコトが質問すると、ヒミコが小さく頷いた。


「この前の戦闘で、薬師の跡継ぎが死んでしまったので、私が見習いになりました」


 ふむ、ヒミコは名主なんだから、文字の読み書きを覚えて欲しいんだが。

 まあ、その辺の調整もしないとな。


 そんなことを考えていると、ハクビシンが声を掛けてきた。


「それでは、そろそろ始めましょう」

 中庭の中央に移動した、ハクビシンが訓練用の槍(木の棒)を構えた。


 抜き身の刀ではなくて、助かったと思いつつ、マコトが中庭の中央に移動した。

 そこで、こちらを真っ直ぐに見つめて、ハクビシンが質問してきた。


「それで、マコトさんはどんな戦闘訓練を受けたいんですか?」

 おお、問答無用で組み手とかではなくて、助かったよ。


 若干の沈黙の後、マコトが口をひらいた。


「そうですね、手っ取り早く強くなりたいです!」

 こちらの発言を聞いていた、エクレアが大きな溜め息を吐いた。


 俺に対しての評価が、下がっていそうだな…………

 でも、みんな本心では楽に強くなりたいんだよ。

 

 顔を綻ばせながら、ハクビシンが口をひらいた。


「マコトさんは素直ですね」

 少し考えてから、ハクビシンが唇を動かした。


「そうですね。短時間で、強くなる方法は二つあります」

 二つもあるんだ!


『てか、そんな簡単に教えていいの?』と目で尋ねると、ハクビシンが頷いてくれた。


「構いません。教わっても、簡単に実践できることでは、ありませんから」

 それならいいか。


 マコトが先を促すと、ハクビシンが淡々とした口調で言葉を発してきた。


「一つめは、人を殺すこと。


 始めて殺人を行った後、多くの人間が取り乱します。

 だから、人を殺し慣れていると、強くなれますよ」


 マコトが自分の経験を思い出す。

 たしか、始めて人を殺したとき、手の震えが止まらなかったな…………


 こちらの表情を眺めていた、ハクビシンが口をひらいた。


「マコトさんの場合は、殺人の経験が裕福なので駄目ですね」


 こちらの表情を見ただけでわかるなんて、ハクビシンの観察力が高いのか? 

 それとも、俺の表情がわかりやすいのか? 


 どっちかね?


 マコトが表情を引き締めていると、ハクビシンが言葉を続けてきた。


「もう一つの方法は、自分よりも強い相手と戦って、死にかけること。

 自分の限界が見えることによって、色々と見えてくることがあります」


 自分よりも、強い相手との戦闘か…………


 三回経験があるが、三回とも何で勝てたのか解らなかった。

 あの時に学んだ事なんて、戦闘は怖いということぐらいだろう。


 こちらの表情を眺めていた、ハクビシンが感心した表情を浮かべて唇を動かした。


「これも経験があるのか。

 それじゃあ、私が教えられることは、殆どありませんね。


 マコトさんは、自分が思っているよりも、強力な戦士ですよ」


 そうなのかもしれない。

 だが、ハクビシンが適当なことを言っている可能性もあるのだ。


 こちらが睨みつけると、ハクビシンが微笑んだ。


「それじゃあ、少し体を動かしてみましょう。私が本気で攻撃するので、マコトさんは避けてください」


 直後、ハクビシンが強烈に踏み込んで、訓練用の槍(木の棒)を繰り出してきた。


 いきなりかよ!


 マコトが身を仰け反らせて、ハクビシンの攻撃を何とか避けた。


 もしエクレアの助言がなくて、無警戒だったら直撃していたな……


 そこで、ハクビシンが嬉しそうに話しかけてきた。


「ほら、私の本気の一撃をかわせた。マコトさんは、間違いなく強力な戦士ですよ!」


 なんて、確かめ方だ!


 だが、今回の一撃で、ハクビシンの実力はわかった。

 こいつは俺が対戦してきた中で、間違いなく最強の戦士だ。


 だから、聞きたいことがあった。


「……ハクビシンさん、自分よりも強い相手に、勝つ方法ってありませんか?」

 こちらが問い掛けると、ハクビシンが少し困った表情を浮かべた。


「少なくとも、私は知りません」

 まあ、そんな都合のよい方法はなくて当然か。


 マコトが少しだけ落胆していると、ハクビシンが唇を動かした。


「しいて言えば、一対一で戦わないこと。


 この国で私よりも強い戦士は、十人ぐらいしかいないけど、そこそこの手練れ十人に囲まれたら、私は殺されますよ」


 最強クラスの戦士でも、そんなものか。


 やっぱり、領主としては自分のために死んでくれる、部下を作るのが一番かもしれないな…………


「さてと、問答はこれぐらいにして、もう少し体を動かそう!」


 正直、これまでの問答だけでも十分に得るものがあったが、稽古をつけてくれるのなら断る理由はなかった。


「お願いします」と、こちらが頭を下げると、ハクビシンが大きく頷いた。


「今回は、奇襲の対処方法を学ぼう。私が本気で攻撃するので、マコトさんは避けてください」


 また、このパターンか。

 まあ、体で覚えた方が早いし、これはこれでありか。

 

「わかりました」とマコトが答えると、ハクビシンがバックステップを踏んだ。


 何だ?


 マコトが戸惑っていると、練習用の槍(木の棒)が飛んできた。


 早い!


 飛んできた練習用の槍(木の棒)を、マコトがギリギリでかわすことができた。だが、ハクビシンが間合いを詰めていた。


 ハクビシンに組み付かれた、マコトが地面に倒された。


「武器というものは、飛んでくる場合もあります。今日は、ここまでにしておきましょう」


 そう言い残して、ハクビシンが中庭から去っていった。


 まもなく、ヒミコとエクレアが近づいてきた。


「大丈夫ですか?」

 心配そうな表情を浮かべていたエクレアに、マコトが強い口調で語り掛けた。


「エクレアさん、この村に残ってくれて、本当にありがとう!」

 こちらが頭を下げると、エクレアが顔を赤くして答えた。


「わ、私は孤児になった子供達が心配なだけで、べ、別にマコトさんのことは――」


 そこで、マコトが強い口調で言った。


「理由なんて、どうでもいい! こんなに凄い戦士が、この村に滞在してくれているんだ! 感謝しかないよ!」


 こちらの発言を聞いた、エクレアが怒って自室に戻っていった。


『何故だ?』と思っていると、ヒミコがあきれた表情を浮かべながら口をひらいた。


「あれじゃあ、エクレアさんが、オマケみたいじゃないですか」

 自分の言動を思い出してみる。


 確かに、失礼だったな。

 俺も、かなり興奮していたようだ。


「あとで、謝っておくよ」 


「そうしてください」と答えた、ヒミコが俺の肩に手を当てた。


「……かなり強く打ちつけられたので、このあと腫れるかもしれません……」

 まあ、手加減抜きだったからな。


「……無理をしないでください……」と、ヒミコが寂しそうに呟いた。


 それは、無理なお願いだろう。

 だが、


「ああ、努力するよ」と、マコトが答えた。

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