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第3話 お姫様(エクレア)の帰還問題

 二分後。

 二人が執務室に到着すると、白龍が口をひらいた。


「まず、私はマコトさんが、林仲の村の領主になることを支持します」

 いきなり何だ?

 

 マコトが困惑していると、白龍が言葉を続けてきた。


「前領主であるシンさんの遠縁の娘が、この林仲の村の相続権を主張しています」

 まあ、正当性から言えば、あっちが相続した方がいいのだろう。


 だが――


「私は国境の領主は、優秀な武人がなるべきだと考えています」

 前の領主であるシンさんの読みは、当たっていたみたいだ。


 大きく頷いた後、白龍が更に言葉を続けてきた。


「だから、今回の旅にも、彼女たちを同行させませんでした」

 おお、これはだいぶ、こちら寄りの行動をしてくれたんだな。


「ありがとうございます」

 こちらが頭を下げると、白龍が身を乗り出してきた。


「だから、エクレアちゃんに帰宅を促してくれ!」

 こいつは、真面目な話が出来ないのか?

 

 いや、目がマジだな…………

 

 若干の沈黙の後、マコトが言葉を発した。


「……手紙にも書きましたが、エクレアさんは帰宅するべきだと思います……」

 正直なところ、責任が取れないからな。


 こちらの発言を聞いた、白龍が微笑んだ。


 こっちの話は、これでよしと。


 次は、この村の発展。

 いや、村人を食べさせていくために、必要な資金(食料)を援助して貰おう。


 マコトが調べた、林仲の村の情報(収穫量など)を説明した。


 全てを聞き終わった後、白龍が口をひらいた。


「マコトさんは、この辺の村の成り立ちは知っていますか?」


 えーと、

 それって、確か――


「近くの鉱山から、金が出ていた話ですか?」

 大きく頷いた後、白龍が言葉を発した。


「二十年ほど前から金が出なくなり、この辺りの村は衰退していきました」

 炭鉱の街みたいだな…………


 こちらが黙っていると、白龍が言葉を続けた。


「この近くにある、いくつかの集落から廃村の相談を受けています」

 マジで、末期状態じゃないかよ。


 マコトが沈痛な表情を浮かべていると、白龍が口をひらいた。


「ですが、林仲の村は、東国との国境に接しているので、潰れて貰ったら困ります!」


 それって、盾ってことだよね?

 まあ、援助してくれるのなら、何でもいいか。


 その後の話し合いで、例年通りの援助(食料50人分)を受け取ることができた。


 ちなみに、娘の帰還を手助けしてくれたら、もっと援助すると言ってきた。

 どれだけ娘が、大好きなんだよ!




 三十分後。

 ヤマトが休んでいると、エクレアが執務室に駆け込んできた。


「マコトさんからも、私がここで修行するべきだと、お父様に言ってください!」

 いや、俺も帰って欲しいんだけど…………


 そんなことを考えながら、マコトが口をひらいた。


「エクレアさんに、怪我をさせたら責任が取れないので、私も帰って欲しいです」

 そこで、エクレアが声を荒げた。


「責任なら、私が取ります!」

 まあ、そう言いたくなる気持ちはわかるよ。


 でも――


「エクレアさんは、私と一緒に、この村の地図を作りましたよね?」

 こちらが問い掛けると、エクレアが小さく頷いた。


 たぶん、俺がこれから話す内容に、気づいたのだろう。


「この村は、寄り親の援助がなければ、食べていけません。だから、私が寄り親に逆らうのは無理です」


 しばしの沈黙の後、エクレアが質問してきた。


「……マコトさんは、もう私が必要ないんですか?」

 なんか、別れ話みたいになってきたな…………


 首を横に振って、マコトが答えた。


「そんなことありません。字の読み書きを、教えて貰って凄く助かっています」

 これは、本心からの言葉だった。


「……でしたら……」

 食い下がるな。

 

 そんなに、ここが気に入ったのか? 

 いや、中途半端な状態で、放り投げ出したくないだけだろう。


 大きく頷いてから、マコトが強い口調で言った。


「だから、残り二日間。しっかりと、文字の読み書きを教えてください」

 こちらが頭を下げると、エクレアが渋々と頷いてくれた。


「……わかりました……その代わりに、厳しく指導しますから!」


 やっぱり、他の人に指導するのは、楽しいみたいだな。

 エクレアの声が、かなり弾んでいた。


 こうして、俺は厳しい教師を手に入れたのだ。




 そして、その日の夕方。

 夕食時に、寄り親である白龍が強烈に訴えてきた。


「マコトさん、久しぶりに会ったのに、エクレアちゃんが全然構ってくれないんだ!」


 そりゃあ、この親なら敬遠したくもなるよ。

 だが、それを口にするわけにもいかないからな………


「……すみません。エクレアさんは、私の読み書きの練習に付き合って貰っているので……」


 こちらの発言を聞いた、白龍が微笑んだ。


「そうか、娘が役に立っているのなら、何よりだ」

 お、また真面目モードに移行か?


 マコトが警戒していると、白龍が強い口調で言った。


「密室で、エクレアちゃんに手を出したら、殺すからな!」

 警戒した、俺がバカだったよ…………




 そして、二日後の早朝。

 寄り親である白龍とエクレアが、林仲の村を出発しようとしていた。

 

 見送りに来てくれた村人に対して、エクレアが言葉を掛けている。

 そして、エクレアが面倒を見ていた、孤児になった女の子が寂しそうに呟いた。


「……お姉ちゃん、行っちゃうの?」

 そこで、ヒミコが女の子を抱きしめた。


「お父さんが迎えに来てくれたんだから、引き留めちゃ駄目でしょ」

 ヒミコの言葉を聞いた、女の子が寂しそうに微笑んだ。


「……そっか……お父さんが来てくれたんなら、仕方がないね……」

 マコトが目配せして、ヒミコに女の子を連れて行かせた。


 これ以上、引き留めるのは勘弁してくれ。


 そこで、父親である白龍に向き直って、エクレアが訴えた。


「お父様。私は、この村に残りたいです。お父様が教えてくれた、貴族の義務(弱者救済)を果たしたいんです!」


「……いや、それは……」

 娘の発言に戸惑っている白龍に、エクレアが更に畳みかけた。


「お父様が言っていた、貴族の義務(弱者救済)とは嘘だったんですか?」


 いや、本音と建前。

 もしくは、大義名分って、ことだと思うよ。


 そんなことを考えていると、白龍の側近が耳打ちした。


「……無理に連れて帰ったら、お嬢様の成長を妨げるかと……」

 いや、そっちでいい修業先を見つけろよ。


 しばしの沈黙の後、白龍が口をひらいた。


「……わかった、好きにしていいよ。ただし、護衛はつけるから!」

 そこで、エクレアが白龍に抱きついた。


「お父様、ありがとうございます」

 うわ、白龍が目茶苦茶デレデレしているよ。

 

 こっちの迷惑も考えて欲しいものだ。

 まあ、エクレアが残ってくれることで、色々と助かることもあるし、いいか。

 

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