表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/73

第2話 現在の状況を確認しよう

 なんだ、この状況?

 意味がわからん。


 女の子に近づいて、マコトが無言で喉の辺りを調べた。

 傷痕とかはないな。


 となると、


 女の子を睨みつけて、マコトが強い口調で言った。


「もしドッキリなら、相当タチが悪いと思いますよ!」


「○×」と悲鳴を上げて、女の子が逃げていった。


 失礼な奴だな。

 いや、逆の立場だったら、絶対に逃げ出していただろう。


 とりあえず、追いかけるか?

 いや、いま追いかけると、山賊と鉢合わせになるから止めておこう。


 てか、何で俺は時間が巻き戻っている前提で、行動しようとしているんだ?

 時間が巻き戻るなんて、ありえないことだ!


 そこで、村の方から戦闘音が聞こえてきた。


「…………たまたまだと思う…………」

 だが、


「……君子危うきに近寄らず……」

 そう呟いてから、マコトが戦闘音から遠ざかっていった。


 

 さて、ここで問題。

 土地勘のない人間が適当に森の中を進んだら、どうなる?


 正解は、遭難するでした。

 みんなも訳の解らないところに、放置されたら気をつけるんだよ。




 あれから、三日間。

 俺は森の中を彷徨さまよっていた。


 初日は何とかなるだろうと、楽観視していたが、三日目にもなると、絶望的な気持ちの方が強くなってきた。


 体力的にもそろそろ限界だし、またあの赤い果実を食べよう。

 この赤い果実は、森の中で食べられる唯一の果物なのだ。


 食べると、少しばかりお腹の調子が悪くなるが、死ぬことはないだろう。

 たぶん。


 マコトが、赤い果実を口に運んだ。


 この果実は、本当に美味しいな。

 もう一つ。

 

 マコトが、赤い果実を更に食べた。


 毒に対して、耐性もできたはずだ。

 もう一つぐらいは、大丈夫だろう。

 

 マコトが、更に赤い果実に手を伸ばした。


 この果実は、本当に美味しいな。

 三つも、四つも大して変わらないはずだ。


 それから、マコトが更に三つの赤い果実を口にした。




 そして、一時間後。

 お腹が痛すぎて、一歩も動けなくなっていた。


 冷静になって考えてみると、毒を大量に食べたんだから当然だな。

 でも、他に食べられる物がなかったんだよ!

 

 地面に崩れ落ちた、マコトが上空を見上げながら呟いた。


「……俺は、また死ぬのかな?」


 そして、死んだら、また十字架の木の所に戻るのかな?


「もし戻るんなら、今度はちゃんと自宅に戻してくれよ!」

 そんなことを考えていると、前方から人の声が聞こえてきた。


 マコトが慌てて前方を確認すると、隊商らしき集団がいた。

 

 やったー、これで助かった。


 そう思った瞬間、俺は意識を失った。



 結論から言えば、俺は助かった。

 ただし、その代償として、俺は鉱山に売り飛ばされたのだ。


 




 あれから、三ヶ月後。

 

 俺は、鉱山で働いていた。

 鉱山での待遇は、そんなに悪くなかった。


 俺が奴隷(労働者)として働くのは、半年のみだし、衣食住も完備されている。労働は確かに大変だが、必要な情報を得られたので悪くはなかった。


 この三ヶ月で、得られた情報は以下の通りだ。


 一つ、ここは現代日本ではない(これを認めるのに、かなり時間が掛かった)

 どうやら、俺は異世界に飛ばされたようだ。


 二つ、この世界の文明レベルは、中世前後(火薬とかがないので、鎌倉~室町時代ぐらいだと予想している)


 三つ、この世界にいる人種は、日本+東アジア系の人間が多い


 四つ、この世界には魔法とかの特殊能力は、存在していない。

 ただし、俺がこの状況に陥っているので、存在しているような気もする。


 その他、国の名前や都市の名前、簡単な歴史など生きていくのに必要な情報は全て聞き出した。


 そして、


「マコト、風呂に行こうぜ!」

 同じ部屋に住んでいるヤンの提案に、マコトが答えた。


「ああ、行こう」


 この三ヶ月で、俺はこの国の言葉を拙いながらも喋れるようになった。

 言葉が解らないと、冗談抜きで死ぬからな……


 自分の命が掛かっていると、人間は頑張るものだ。


「そういえば、聞いたか?」

 自慢気に語ってくるのが少しウザイが、情報は欲しかった。


「何があったんだ?」

 こちらが問い掛けると、ヤンが嬉しそうに唇を動かした。


「東国との戦争が終結するらしいぞ!」

 こちらが押しているのは聞いていたが、その情報は初耳だった。


「確かな情報なのか?」

 マコトが確認すると、ヤンが大きく頷いた。


「ああ、戦争が終わったせいで、この鉱山の生産拡大話も流れるみたいだ」

 そういえば、ここ数日労働時間が減っていたな……


 かなり信憑性がある話だと、マコトは思った。



 

 そして、五日後。

 東国との和平が、正式に成立した。


 それに伴って、鉱山の生産縮小が発表されて、労働者の多くが解雇されることになった。


 当初の予定よりも三ヶ月早く、自由になったことを喜ぶよりも、明日からどうやって生活していくかが問題だ。


 てか、もう三ヶ月働いて、言葉を完璧にマスターしたかったな……

 ちなみに、部屋に滞在していい期間は、あと一週間。


 中世辺り(人権無視)の時代なのに、かなり余裕があるのは、昔暴動があった影響らしい。


 俺の日常生活がそこそこ快適だった事も含め、暴動を起こしてくれた人には感謝しておこう。


 そんなことを考えていると、友人のヤンが声を掛けてくれた。


「マコト。よかったら、一緒に首都に行って、荷物の積み卸しの仕事をしないか? 紹介してやるぞ」


 正直なところ、かなり助かる申し出だった。


「悪いが、頼めるか?」

 こちらが頭を下げると、ヤンが笑顔を浮かべた。


「おう、任せておけ!」

 本当に、いい奴だな。




 さてと、当面の生活についての問題も解決したし、今後の方針について考えていこう。


 大前提として、俺は元の世界に戻りたい。


 問題は、帰る方法が解らないことだ。

 この国一番の賢者とかに話を聞けば、帰る方法が解るのかな?  


 てか、この国一番の賢者の名前が解らない……

 とりあえず、色々と情報を集めていこう。


 次に時間が巻き戻っている謎について、解明したい。


 いや、時間が巻き戻っているのは、まだ確定していないか。

 でも、死んで確かめるわけにも、いかないからな…………


 とりあえず、ある程度金が貯まったら、十字架の木があった場所に行ってみよう。何か解るかもしれない。


 方針としては、こんな所かな。

 まあ、前向きに頑張っていこう!


 


 そして、三日後。

 マコトたちが、鉱山を出発した。


 そして、その日の夜。

 マコトたちが、山賊に襲われた。


 この世界の治安は、最悪だな…………

 てか、この山賊。


 俺が最初に訪れた村を襲った、山賊と一緒だな。

 あのセンスのない、カラフルなアフロ頭のリーダがいるよ。


 そこで、友人のヤンが叫んだ。


「相棒、バラバラに逃げるぞ!」


 まあ、山賊に降伏しても楽しくない人生が待っていそうだし、正しい判断だろう。


「了解」

 そして、二人が走り出した。


 こちらの動きに素早く反応した、山賊が矢を放ってくる。その矢が、マコトの右腕に命中した。

 

 目茶苦茶痛かった!

 だが、ここで立ち止まったら、殺されてしまうのだ。


 マコトが後ろを振り返らずに、全力で森を駆け抜けた。




 十五分後。

 開けた場所に到着した、マコトが右腕に突き刺さった矢を調べることにした。


 普通の矢だな。

 てか、全然痛くないし、放っておいても大丈夫じゃないか?


 いや、毒があるかもしれないし、ちゃんと処理しておこう。

 

 右腕に突き刺さっている矢を、マコトが強引に引き抜いた。


 目茶苦茶痛かった!

 てか、適当に引き抜いたけど、血管とかは大丈夫かな? 


 マコトが確認すると、想定していたよりも血は出ていなかった。


 まあ、大丈夫そうだな。

 次に行こう!


 次は――


 マコトが傷口に口をつけて、毒を吸い出して、すぐに吐き出した。

 これで、毒がなければ、かなりマヌケだよな…………


 そんなことを考えながら、井戸から水を汲み上げて傷口を消毒した。


 てか、井戸があるって事は、ここは村なのかな?


 マコトが辺りを見回すと、近くには死体が大量に転がっていた。


 山賊にでも襲われたのかな? 

 というか、この景色見覚えがあるな……



 わかった。

 この世界に飛ばされた、俺が最初に訪れた村だ!

 

 てか、この村は、山賊に滅ぼされてしまったのか…………


 マコトが呆然と立ちつくしていると、マコトの右足に矢が突き刺さった。


 はっ?

 何が起こったんだ?


 マコトが顔を上げると、槍を構えた山賊が突っ込んでくる。

 

 くそ、逃げ切れていなかったのか!

 敵の攻撃を避けようとしたが、タイミング的に厳しい。


 マコトの胸に、山賊の槍が突き刺さった。


 偶然かもしれないが、前回死んだときと同じ場所を攻撃されたな。

 嫌な、偶然だった。


 それにしても、何度経験しても死ぬのは、嫌なものだ。


 



 

 そして、俺は森の中で、再び目を覚ました。


 えーと、

 十字架の木が目の前にあるし、同じ場所で間違いないだろう。


 そして、マコトが自分の体を確認した。


 やはり、全て無傷だった。

 これで、時間が巻き戻っていることも確定でいいだろう。


 てか、本当になんなの、この状況!

 意味がわからん!


 十字架の木に向かって、マコトが叫んだ。


「神様とかがいるなら、説明してください!」

 それからしばらく待ったが、返事はこなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ