表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/73

第19話 山賊との決戦

 大雨が降ってきた。

 そのおかげで、民家に燃え広がっていた火が消えてくれた。


 幸運だったと、喜ぶべきか?


 それとも、大雨のせいで山賊が近くの民家に留まっていて、不幸だと嘆くべきか?


 どっちかね?


 そんなことを考えていると、部下が報告にやってきた。

 情報をまとめると、以下の通りになる。

 

  村人の死者は、30名(重傷者も同じ程度いる)

 戦闘員の死者は、10名。

 現在戦えるのは、35名ほどだった。


 山賊の死者は、10名。

 目撃者の情報から判断すると、残りは10~15名だ。


 強襲して、倒せない数字ではない。

 だが、これ以上死者を出すと、村が消滅してしまうのだ。


 山賊が逃げてくれるのを、待つべきか?


 いや、ここで山賊を逃がして戦力を補充されたら、同じ事の繰り返しになってしまう。


 ここで、決着をつけよう。


 マコトが決意を固めていると、エクレアが近づいてきた。


「……すみません……私がお父様の護衛を受け入れていたら……こんな事には……」


 そこで、マコトが首を横に振った。


「それは、結果論だよ。


 さっきも少し話したけれど、エクレアさんは、シンさんが提案した、山賊の本拠地、攻撃案は間違っていたと思う?」


 こちらが問い掛けると、エクレアが強い口調で答えた。


「間違っていたとは思えません! あの時は、あれがベストの選択でした!」

 小さく頷いてから、マコトが答えた。


「そういうことだよ」


 マコトが話を打ち切ろうとした所で、エクレアが沈痛な表情を浮かべて口をひらいた。


「マコトさん、逃げましょう! あんなに強い山賊と、無理して戦う必要はありません!」


 逃げるか。

 俺一人ならば、最善の策だろう。


 だが――


「……逃げる場合、足手まといになる怪我人は、全て殺さなくてはいけなくなるけど、それでいいの?」


 こちらが問い掛けると、エクレアがキョトンとした表情を浮かべた。

 やっぱり、何も考えていなかったか…………


「ついでに言えば、食料とかも十分にないし、生きて街に辿り着けるのは半数ぐらいだろう」


 そう逃げ出した先に、楽園なんてないんだ!


「……それじゃあ、どうすれば……」

 絶望的な表情を浮かべていたエクレアに、マコトが強い口調で語り掛けた。


「戦って、勝つんだよ!」

 それしかないのだ。


 エクレアが、こちらに羨望の眼差しを向けてきた。

 しかし、すぐにエクレアの表情が曇った。


 たぶん、何も出来ない自分を恥じているのだろう。

 だったら――


「エクレアさん、怪我人の世話をお願いしていいかな?」

 こちらが頼むと、エクレアが大きく頷いた。


「はい、すぐにやります」

 そう言い残して、エクレアが怪我人の所に行った。


 元気だね。

 さてと、俺は必要な交渉をするか。


 エクレアについて行こうとした従者を呼び止めて、マコトが頭を下げた。


「もし俺が負けた場合、村人が十龍シーロンの街に逃げ込むと思います。その時は、彼らを世話してあげてください」


 相手が返事をくれるまで、マコトが頭を下げ続けると「……自分に出来る範囲なら……」と約束してくれた。


「ありがとうございます」

 これで、俺がやれることは全てやった。


 さあ、あとは山賊との決着をつけに行こう。


 戦闘員が待っている部屋に行く途中で、ヒミコと目が合った。

 ヒミコが無言で大きく頷いてくれた。


 どういった意味かは解らないが、俺の事を信頼しくれていることは解った。

 できたら、その信頼には応えたかった。


 そんなことを考えていると、ヒミコの弟であるカイトが槍を持って近づいてきた。


「マコト様、僕も行きます」

 えーと、突っ込み所が多いな…………

 

 まずは――

 

「……左肩から血が出ている、水で消毒してこい……」

 自分の左肩を確認してから、カイトが傷口を押さえつけた。


「止まりました」


 えらく、力業だな…………

 てか、そもそもだ。


「怪我人を連れて行くつもりはないぞ」

 こちらの発言を聞いた、カイトが質問してきた。


「でも、人手は必要でしょ?」

 そりゃあ、欲しいけど……


「……これ以上、若い人間が死んだら、この村が終わってしまう……」

 大きく頷いた後、カイトが強い口調で言った。


「ここで負けたら、この村に未来なんてありません」


 ここが勝負所だって、カイトも解っているのか。

 これは、断りにくいな………… 


 マコトが迷っていると、カイトが上目遣いで懇願してきた。


「僕に、マコトさんを守らせてください」

 年下のカワイイ男の子に、言われる台詞ではないよな…………


 そんなことを考えていると、戦闘員が待機している部屋の前に到着した。直後、カイトが扉を開けて、入室を促してきた。

 

 くそ、死んでも責任は取らないからな!

 

 マコトが軽く睨みつけてから、戦闘員が待っている部屋に入室した。


 部屋の中にいる、人間が緊張しているな。

 まあ、この状況で出される指示なんて、一つしかないし当然か。


 集まっていた戦闘員に向かって、マコトがハッキリとした口調で宣言した。


「山賊が立て篭もっている民家に、攻撃を仕掛けるぞ!」

 戦闘員の多くは、黙ったまま頷いてくれた。


 まあ、親しい人が更に殺されたのだから、当然だろう。

 だが、一部の人間は、青い顔をしていた。


 まあ、この後の戦闘は、激戦が予想されるし当然だろう。


「だから、攻撃に参加したくない人間は、攻撃に参加しなくてもいい」

 覚悟がない人間に来られても、迷惑なのだ。


 若干の沈黙の後、村人の一人が叫んだ。


「俺は、嫁さんの仇を取るんだ!」

 その言葉を切っ掛けにして、村人たちが次々に参戦を表明した。


 まあ、ここで逃げると残りの一生、臆病者呼ばわりされるし当然か。


 全員の意志が確認できた所で、マコトが口をひらいた。


「それじゃあ、作戦を説明する」


 作戦といっても、部隊を三つに分けて、敵が籠城している民家を包囲する。

 そして、同じタイミングで民家に突入して攻撃する、というシンプルなものだ。


 難しいのは、攻撃のタイミングを合わせること。

 それと、いつ攻撃を始めるかぐらいだ。


 俺は雨が止むのを待たずに、攻撃するつもりだ。

 

 利点は、奇襲が出来ること。

 欠点は、弓矢が使えないこと。


 まあ、一長一短だろう。

 いや、長期戦になると子供を抱えている、こちらが不利になるのだ。


 反対意見が出なかったので、マコトが具体的な指示を出していった。そして、全ての指示を出し終わったところで、マコトが拳を突き上げた。


「それじゃあ、作戦開始だ。移動してくれ」

 その発言を聞いた、部下たちが移動を開始した。


 マコトも部隊を率いて、山賊が立て篭もっている民家の正面入り口に向かう。


『民家にカミナリでも落ちて、山賊が全滅してくれないかな?』などと考えていると、マコトが持ち場に到着した。


 まあ、奇跡なんかを期待しないで、自分の力で勝利を掴み取ろう。


『突撃』とジェスチャーで部下に伝えてから、マコトが扉を蹴破って、民家に乱入した。


 民家の中では、山賊が服を脱いで乾かしていた。

 そして、殆どの山賊が、武器を床や地面に置いていたのだ。


 よし、チャンスだ。

 

 棒立ちだった山賊の首を、マコトがはね飛ばした。そして、武器を拾おうとしていた山賊を、マコトが斬り捨てた。


 ほぼ同時に乱入してきた味方も、同程度の戦果を上げている。

 奇襲は、大成功だ!


 勝利を確信しかけていると、山賊のボスであるアフロ野郎が出てきた。


 状況を確認してすぐに、アフロ野郎が剣を抜いた。そして、こちらの名主(小隊長)であるザップを、アフロ野郎が斬り殺したのだ。


 戦況が一変した。


 これまでの楽勝ムードが、こちらの不利になってしまったのだ。そして、アフロ野郎が、俺を狙ってきた。


 くそ、こちらの弱点が解ってやがる!


「ひるむな! 敵は少数だ! 取り囲んでしまえば、勝てるぞ!」

 こちらの発言を聞いた、部下たちが戦闘を再開した。


 よし、俺がアフロ野郎の攻撃を耐えられれば、勝機はあるはずだ。

 

 一撃目の突きは、かわせた。

 二撃目の振り下ろしは、剣で受け流そうと思った。


 だが、駄目だった。

 左手に力が入らなくて、剣が飛ばされてしまった。


 こりゃあ、死んだな…………


 マコトが死を覚悟した所で、ヒミコの弟であるカイトが槍を持って突っ込んできた。


 この前の籠城戦と、同じような展開だ!


「来るな!」と叫んだが、カイトは止まらなかった。


 アフロ野郎が振り下ろした剣が、カイトの首筋を切り裂いた。そして、大量の血液が、飛び散った。


 それは、一目で助からないと、確信できるものであった。

 くそ、何でカイトまで!


「ふざけるな!」と叫びながら、マコトが剣を拾った。

 そして、アフロ野郎に斬りかかった。


 こちらの攻撃が、アフロ野郎の右腕に当たった。

 だが、浅い。


 もう一撃!


 マコトが再び攻撃を放ったが、アフロ野郎の反撃(左の拳)の方が速かった。

 直撃を貰った、マコトが吹き飛ばされて壁に激突した。


 くそ、右の奥歯が壊された!


 すぐに立ち上がろうとしたが、足が言うことを聞いてくれない。


 その間に「妻の仇」と叫びながら斬りつけてきた村人を、アフロ野郎が斬り捨てた。


 何で、こいつはこんなに強いんだよ…………


 マコトが痙攣している足を、剣で斬りつけた。

 まもなく、痛みと共に、足が正常な感覚を取り戻していく。


 結局、俺が相打ち覚悟で挑むしかないのか? 

 いや、これまでとは違って、俺が死んだら本当に村が滅んでしまうのだ。

 

 他の方法を探すべきだろう。

 いや、他の方法を探している時間は、もうないのだ。

 

 マコトが立ち上がって、アフロ野郎を睨みつけた。


 あいつだって、無敵ではない。

 その証拠に、既に満身創痍ではないか!。


 あとは、俺が必殺の一撃を叩き込むだけだ。


 マコトが剣を握りしめて、アフロ野郎に向かう。


 もう何も考えるな!

 ただ敵に、最強の一撃を叩き込めばいいんだ!


 マコトが全力で振り下ろした剣が、アフロ野郎の喉を切り裂いた。まもなく、大量の血液が流れ出して、アフロ野郎が地面に倒れた。


 えーと、

 何で俺の一撃が当たったんだ?

 

 マコトが辺りを見回していると、アフロ野郎の足にカイトが抱きついていた。

 そうか、カイトがやってくれたのか――

  

「ありがとう、助かったよ」と声を掛けると、カイトが嬉しそうに微笑んでから目を閉じた。


 こうして、山賊との戦いに決着がついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ