第18話 山賊との戦い
翌日。
五十名の村人を率いて、マコトが山賊退治に出かけようとしていた。
これは、林仲の村にいる、成人男性のほぼ全てを集めた数字だ。
これで大敗したら、この村は消滅してしまうだろう。
ちなみに、攻撃部隊の指揮官は、俺だ。
まあ、戦闘能力を買われて、領主になったんだから、当然の判断だろう。
そして、居残り組の指揮官は、領主であるシンが執ることになった。
本人は、山賊退治に同行したがっていたが、体力的に無理だったのだ。
もう年だしね。
そうそう、エクレアも参加を希望したが、当然拒否した。
あれに死なれたら、シャレにならないからな…………
そんなことを考えていると、ヒミコが近づいてきた。
「マコト様、物資の用意が出来ました」
おお、仕事が速いな。
「ご苦労様」と声を掛けてから、マコトが移動しようとした。
そこで、ヒミコが心配そうな表情を浮かべて口をひらいた。
「……無事に戻ってきてくださいね……」
女の子に心配して貰えるって、凄くやる気が出てくるんだな。
「おう!」と元気よく答えたマコトが、領主であるシンの所に移動した。
「それじゃあ、行ってきます」
こちらの発言を聞いた、シンが頭を深く下げてきた。
「よろしく、お願いします」
大きく頷いてから、マコトが村人に宣言した。
「出発するぞ!」
こちらの発言を聞いた、村人たちが大声で答えた。
「「おお!」」
俺が思っていたよりも、村人の士気が高いな。
まあ、前回の戦いで親しい人(親とか兄弟)が、殺されているのだから当然か。
そして、村を出発して二時間後。
マコトたちが休憩を取っていると、林仲の村から、大量の煙が上がっていた。
炊事の煙か?
いや、煙の量が多すぎる。
このタイミングで起こった、異変なんだ。
人災を疑うべきだろう。
心配そうな表情を浮かべていた部下たちに、マコトが大声で指示を出した。
「敵に襲撃された可能性がある。急いで村に戻るぞ!」
マコトが立ち上がって村に向かうと、部下達が慌ててついてきた。
そして、一時間半後。
マコトたちが、村に戻ってくることが出来た。
てか、半数近くの民家に、火が回っているな。
事故なら村人が消火活動をしているはずなんだが、誰も消火活動をしていない。
たぶん、敵が攻めてきたのだろう。
くそ、先手を取られてしまった。
だが、今回の作戦中、村人は領主の館に避難しているので、まだ間に合うはずだ。
「急いで、領主の館に戻るぞ!」
そこで、部下の一人がフラフラとした足取りで、燃えている民家に向かった。
そいつに近づいて、マコトが叫んだ。
「領主の館に、向かうぞ!」
そこで、虚ろな目で民家を見つめていた、部下が呟いた。
「……でも、俺の家が……」
まあ、心情は理解できるよ。
だが――
「ここで、戦力を分散させたら、負けなんだよ! 来い!」
虚ろな目をしていた部下を強引に引っ張って、マコトが領主の館に向かう。
部下の中には、非難的な視線を向けてくる人間もいるが無視だ。
本当に、指揮官は地獄だよ!
そんなことを考えていると、領主の館が見えてきた。
入り口の所に、敵らしき人間が二人いるな。
武器に血が付いているし、敵で間違いないだろう。
マコトが突撃の指示を出そうとした所で、虚ろな目をしていた部下が叫びながら飛び出した。
「お前ら!」
おっと、先を越されたな――
まあ、ここは勢いが大事な場面だ。
「続け!」と叫びながら、マコトも突っ込んだ。
こちらが大軍だと解ってすぐに、山賊の二人が領主の館に逃げ込んだ。
くそ、逃がしてしまった。
これで、奇襲ではなくなってしまったな。
いや、奇襲することよりも、今は籠城している味方の士気を高めるべきだ。
大きく息を吸い込んでから、マコトが叫んだ。
「本隊が戻ってきたぞ! もう少しだけ耐えてくれ!」
まもなく、領主の館から返事が戻ってきた。
よし、まだ全滅していないな。
声が返ってきたところから、味方の位置を判断すると――
名主(小隊長)である、グエンとザップに向き直ってから、マコトが指示を出した。
「グエンとザップは、十五名ずつ率いて、左と右の離れに向かってくれ。俺は残りを率いて、本館を制圧する」
「「わかりました」」と答えて、二人の名主(小隊長)が指示された離れに向かった。
さてと、
「俺たちは、本館の救援に向かうぞ!」
こちらが声を掛けると、残っていた部下たちが頷いてくれた。
部下の士気が高いのは、助かるよな。
そんなことを考えながら廊下を進んでいると、村人の死体が転がっていた。
たしか鍛冶屋の長男のダンだ。
まだ、十歳なのに――
「……悪い……」と呟いてから、マコトが死体の横を通り過ぎた。
そして、足を止めようとした部下に向かって、マコトが叫んだ。
「生き残っている人間を優先するぞ!」
若干の沈黙の後、部下が呟いた。
「……はい……」
もし俺が篭城策を選んでいたら?
いや、いま考えるべきことではない。
いま俺がするべきことは、目の前の敵を排除することだ。
そこで、大広間の前に到着した。
入り口の所に、山賊がいる。
人数は、二人。
剣士と斧使いだ。
こちらに気がついた、剣士が襲い掛かってきた。
判断が速いな。
だが、動きは、そこそこであった。
すれ違う瞬間、マコトが剣士の喉を切り裂いた。
よし、上手く殺れた。
次に、行こう。
マコトが無言で近づくと、斧使いが懇願してきた。
「た、たのむ。助けてくれ」
ふーん、今更だねえ。
こちらに余裕があれば情報を聞き出したりするんだが、今は余裕がないのだ。
「死ね!」と叫んだ、マコトが剣を振り下ろした。
まもなく、斧使いの首が地面に転がった。
ふう、ここまでは順調だった。
だが、ここから先は、前回戦った山賊のボスと戦わなくてはいけないのだ。
あのアフロ野郎は俺よりも強いから、何か作戦が欲しいよな…………
そこで、大広間の中から、戦闘音が聞こえてきた。
どうやら、迷っている時間はないみたいだ。
「行くぞ!」と声を掛けてから、マコトが大広間に乱入した。
左前方に、山賊が六人。
山賊のボスである、アフロ野郎もいるな…………
右前方には、シンと数名の大人。
そして、その後ろに、五十名近い子供たちがいる。
こちらの存在に気がついた、子供たちがこちらに駆け寄ろうとしていた。
このままでは、味方が混乱してしまう。
「動くな! 大人を信じろ!」と叫びながら、マコトたちが山賊に襲い掛かった。
幸いなことに、子供たちはこちらの指示に従ってくれた。
助かったよ。
それにしても、アフロ野郎は目茶苦茶強いな…………
こちらは二人しか倒せていないのに、四人も殺されてしまったよ。
本当に、どうやったら勝てるのかな?
そんなことを考えていると、アフロ野郎が指示を出した。
「一旦、引くぞ!」
そして、アフロ野郎が窓を蹴破って逃げ出した。
助かった。
いや、アフロ野郎を倒さなければ、この戦闘は勝利とは言えないのだ。
ここは、無理をしてでも――
そこで、エクレアが切羽詰まった表情で抱きついてきた。
「マコトさん、シンさんが……」
マコトが確認すると、シンの胸に槍が突き刺さっていた。
これは、もう助からないだろう…………
マコトが近づくと、シンが謝罪してきた。
「……マコトさん……すみません……あなたの意見を採用して……援軍を待っていれば……こんな事には……」
そこで、マコトが首を横に振った。
「それは、結果論です。それに、山賊の本拠地、攻撃案には、私も賛成しました」
俺にも、責任の一部があるはずだ。
そこで、シンが口から、大量の血液を吐き出した。
たぶん、もう長くないのだろう。
周りにいた人間が沈痛な表情を浮かべていると、シンが懇願してきた。
「マコトさん、林仲の村のことを頼みます! あなたしか頼れる人がいないんです!」
村人の人生を背負うなんて、勘弁して欲しかった。
いや、俺は領主になると、決めたんだ。
そろそろ、覚悟を決めるべきだろう。
大きく頷いた後、マコトが力強い口調で言った。
「全力を尽くします」
その言葉を聞いた、シンが安心した表情を浮かべて目を閉じた。
こうして、林仲の領主、シンが死んだ。




