第16話 現代日本に生まれた、俺には内政チートは無理でした
えーと、
まず、この村は山の中にある、貧村だ。
村人の殆どが農民で、職人は少数。
だから、農業関係以外の知識は、すぐには役に立たないだろう。
俺が知っている農業関係の知識は――
米がチート作物だと聞いたことがある。
てか、この世界に来てから、米を見たことがないな。
もしかして、この世界には、米が存在していないってオチか?
たぶん、一番知識があるシンに質問すると、東国には米という作物が存在していると答えてくれた。
こちらが熱弁をふるって輸入を進言すると、シンが疑問を投げかけてきた。
「水は、どうするんですか?」
こちらが頭の上に『?』を浮かべていると、シンが言葉を続けてきた。
「米という作物は、たしか水を大量に使うみたいですよ」
山の中にあるこの村は、水が不足している。
ここは、米を育てるには適していないみたいだった。
それなら、もう一つのチート食物である、ジャガイモはどうだ。
「この地方には、ジャガイモという作物はありますか?」
若干の沈黙の後、シンが唇を動かした。
「たしか、北の方で育てているところがありますよ」
よし、勝った。
心の中で大きく頷いてから、マコトが知っているジャガイモの知識を語った。
しばしの沈黙の後、シンが質問してきた。
「そんなに凄い作物ならば、どうしてもっと普及していないんですか?」
『俺が知りたいよ』と答えそうになったが、連作障害(同じものを作り続けると、作物が病気になる)という言葉を思い出した。
たしか、連作障害を回避するには、輪作(色々な食物を順番に植えていく)をすればいいはずだ。
問題は、何を植えればいいのか、全く解らないことだ。
マコトが沈黙して考え込んでいると、シンが優しく声を掛けてくれた。
「マコトさん、村のことを考えてくれるのは助かりますが、焦らないでください」
俺は焦っていたのかな?
まあ、女の子が売春宿に売り飛ばされる環境だからな。
多少は焦るよ。
マコトが沈黙していると、シンが微笑んだ。
「マコトさんは領主になったばかりですから、一つ一つ覚えていきましょう」
俺は、よい師に恵まれたようだな。
まあ、生半可な知識で急激な改革を行うと、毛沢東の大躍進(人口が5%減)になってしまう。
ここは時間を掛けて、ゆっくりと生産を拡大していくべきだな。
「わかりました」と答えた、マコトが自室に戻った。
まあ、農業関係は諦めよう。
だが、自分が知っている現代知識の中で、役に立つものが絶対にあるはずだ。
探してみよう!
まず、国語。
日本人がいないので、ほぼ役に立たない。
しいて言えば、日記を書くときに、暗号として使えるぐらいだろう。
次に、英語。
こちらも、アメリカ人がいないので役に立つことはないだろう。
数学。
これは、目茶苦茶役に立った。
食料の計算とか、面積の計算方法が解っていると、天才扱いされるぞ!
科学。
始めは役に立ちそうだと思ったが、全然役に立たなかった。
そりゃあ、元素記号を覚えていても、現物を見たことがないからな…………
たぶん、理科の雑学とかの方が役に立つだろう。
社会。
歴史上の人物の名前とかは、当然ながら役に立たない。
社会制度の知識なんかも、貧村の領主では役に立たないだろう。
芸術全般(音楽+文学)
本の流通量が殆どないので、有名作品をパクって販売しても大して稼げないだろう。
貴族のサロンとかに出入りすれば、少しは役に立つのかな?
こうして考えてみると、学校で習った知識は殆ど役に立たないな。
雑学本とかを、もっと読んでおけば良かったよ!
そんなことを考えていると、カイトが部屋に駆け込んできた。
「マコト様、大変です。猟師のグエンが、山賊のアジトを発見しました!」
どうやら、ゆっくりとは休めないみたいだった。




