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第11話 楽な職場(戦場)に行くはずが、激戦地に案内されてしまった

 十日後。

 寄り親の本拠地である十龍シーロンの街に、マコトたちが到着した。


 この前に来たときよりも、だいぶ人が多いな。

 まあ、俺たちのように、地方からの援軍がきているのだろう。


 そんなことを考えていると、寄り親である白龍ハクロンの執務室に、養父であるシンと一緒に案内された。


 簡単に挨拶した後、シンがこの前の山賊戦について語った。


 

 

 十分後。

 全てを聞き終えた、白龍が口をひらいた。


「大変だったんだな」


 前回、面会したときと同じ台詞だな。

 まあ、悲劇を報告されたときのリアクションなんて、似ていて当然か。


 そこで、辛そうな表情を浮かべていた、シンが顔を上げた。


「ですが、悪いことばかりではありません! 私は優秀な息子を得ることができました!」


 挨拶を促されたので、マコトが口をひらいた。


林仲リンチュウの領主、シンの息子になった、マコトです。以後、お見知りおきを」

 こちらが頭を下げると、白龍が大きく頷いた。


「よろしく頼むぞ」

 なんか、簡単に認められたな。


 こっちは出身地とかの嘘情報を考えておいたんだけど、無駄になってしまった。


 てか、家柄とかに拘らないってことは、この世界は戦国時代なんだろうな…………


 そんなことを考えていると、白龍が質問してきた。


「ところで、マコトさんは、嫁の当てはあるのか?」 


 おお、これが政略結婚なのか。

 本当にあるんだな。

 

 マコトが感動していると、シンが口をひらいた。


「今回の戦いが終わったら、私の遠縁の娘とお見合いをする予定です」

 大きく頷いた後、白龍が微笑んだ。


「そうか、結婚式には呼んでくれ」

 以上で、寄り親との面会が終了した。


 まあ、寄り親から相続の許可が貰えたし、成功だろう。 

 問題は、作戦指示の方だ。


 寄り親の指示は『前線にある砦の守備について欲しい』であった。

 この部隊は、弓兵が多かったので適材適所と言えるだろう。


 また直前に、大量の死者が出ていることも考慮されて、主要街道にある砦ではなく、間道にある砦に配備された。


 寄り親の完璧な配慮に、感謝の言葉もなかった。

 だが、何故だか解らないが、大量の敵がこの砦に攻めてきた。


 本当に、呪われているのかな…………


 味方の人数は、おおよそ200。

  敵の人数は、おおよそ400。


 食料は裕福にある。

 このまま時間を潰していれば、戦争はこちらの勝利だし籠城が最善手だろう。


 そう思っていたが、味方の指揮官であるリョフが外に打って出ようとしていた。

 脳筋野郎って、本当にいるんだな…………


 いや、こちらが勝利をすることを知らないんだし、積極的なだけか。

 そう思っていられたのは、籠城五日目ぐらいまでだった。




 籠城十五日目の現在。

 いつもの会議室で、リョフが大声で呼び掛けてきた。


「こちらから打って出て、敵を挟み撃ちにしよう!」

 この意見を聞くのは、何度目かな?


 正直なところ、かなりウンザリしていた。

 だが、反論しないと、本当に攻勢にでそうだからな。


 手を挙げて、マコトが意見を述べた。


「ここからでは、味方の援軍が来ているのか確認できません。援軍を確認してから、打って出るべきだと思います」


 こちらが慎重論を唱えると、リョフが鼻で笑った。


『ふん、この臆病者が!』と、リョフの目が語っている。

 一応、身分があるので、口に出さないだけ立派だな。


「マコトさんの意見に、反論がある人間はいないか?」


 リョフが問い掛けると、援軍にきていた領主達が目を逸らした。

 まあ、彼らも倍の敵に正面から挑みたくないのだろう。

 

 それはいいのだが、ちゃんと意見を述べて欲しいな。

 俺だけを矢面に立たせるのは、ずるいと思う。


 会議室の空気を察知した、リョフの部下が籠城の継続を主張した。

 それを、リョフが渋々と認めて、会議は終了した。


 部屋を出て行くとき、近隣の領主たちが『お疲れ』と声をかけてくれた。


 始めの頃は、成り上がり者と見下していたのに、汚れ役をするようになってからは好意的になってくれた。


 いつの時代も汚れ役は、必要とされているようだ。


 そんなことを考えながら、マコトたちが当番の見回りをしていると、敵軍が攻めて来ようとしていた。


 なぜ、この時期に?

 いや、理由なんてどうでもいいのだ。


 マコトが急いで報告すると、指揮官であるリョフが指示を出していった。

 

 おお、的確な指示だ。

 ただの脳筋ではなかったんだな。


 こちらが感心していると、リョフから指示がきた。


「シンさんの部隊は、裏門の警備をお願いします」

 おお、最前線から外してくれるなんて、ありがたい。


 そう思っていたのは俺だけで、他の領主たちが気の毒そうにこちらを見ていた。

 俺が頭の上に『?』を出していると、シンが説明してくれた。


「武勲を立てるチャンスから、露骨に外されたんです」

 ふむ、


「武勲って、そんなに大切なんですか?」

 若干の沈黙の後、シンが悔しそうに言葉を発した。


「……もし私に強大な武勲があれば……山賊は私の村を襲わなかったでしょう……」


 そりゃあ、大事だ。

 しかし、今さらリョフに媚びを売ってもな…………


 マコトが悩んでいると「わかりました」と答えた、シンが裏門に向かった。


 まあ、ここで揉めてもいい事なんて、一つもないのだ。

 自分の部隊を率いて、マコトも裏門に向かうことにした。


 おっと、裏門の方にも、結構な数の敵が配備されているな。

 リョフの思惑は外れかもしれない。


 そんなことを考えていると、敵の全面攻勢が始まった。




 一時間ほどで、敵の攻勢が終わった。


 てか、裏門の攻撃部隊はやる気がなさすぎる。

 俺たちは殆ど何もせずに、戦闘が終わってしまった。


 指揮官であるリョフの所に戻って報告すると、リョフが爽やかに微笑んだ。


「シン殿、お疲れ様でした」

 うわ、凄く上機嫌だな。


「ゴホン!」

 わざとらしい咳払いをした後、リョフが大声で呼び掛けた。


「この勢いに乗って、敵を蹴散らしてやろう!」

 そこで、前線で戦っていた領主たちが、一斉に俺に目配せしてきた。


 こいつら、嫌な仕事ばかり押しつけやがって! 

 本当に、クズだな。


 シンの方を確認すると頷いてくれたので、マコトが口をひらいた。


「怪我人も多いですし、ここは防備を固めましょう」

 こちらの発言を聞いた、領主達が無言で頷いていた。


 本当に、こいつらは最低だな…………


 その場の空気を感じ取った、リョフが罵声を発してきた。 


「臆病者は、留守番でもしていろ!」

 そう言い残して、リョフが部下を率いて、敵を追撃した。




 そして、三十分後。

 リョフが討ち取られた。


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