第10話 もしかして、チート能力を失った?
翌日。
領主であるシンと一緒に、山賊を退治する方法について話し合っていた。
すると、寄り親である白龍からの使者が、林仲の村にやってきた。
寄り親からの手紙を要約すると、以下の通りになる。
『東国との戦争に決着をつけるから、お前も援軍を出せ』と。
山賊との戦いに決着がついていないのに、新しい問題か…………
マコトが困惑していると、領主であるシンが前回の山賊戦について、寄り親の使者に語った。
十分後。
全てを聞き終えた、寄り親の使者が困惑していた。
まあ、向こうも、こんな大惨事は想定していなかっただろう。
しばらく考え込んだ後、寄り親の使者が提案してきた。
「最低限の人数でいいので、援軍を出してください」
若干の沈黙の後、シンが答えた。
「……わかりました……」
そこで、シンの袖を引っ張って、マコトが耳打ちした。
「山賊は大丈夫なんですか?」
小さく頷いてから、シンが答えてくれた。
「この村を襲った山賊は東国出身だから、今頃は東国に雇われて戦争の準備をしているはずです。
山奥にある、この村は大丈夫だと思います」
その予想は正しいのかもしれないが、安心は出来なかった。
マコトが不安そうにしていると、シンが耳打ちしてきた。
「それに、寄り親の顔は潰してはいけません」
それは、そうだな。
大きく頷いてから、シンが唇を動かした。
「わかりました。この村の相続についての挨拶もしたいので、私と息子のマコトが行きます」
責任者を二人とも出すのは、どうかと思ったが、領主が決めたのなら反対はできなかった。
「わかりました。準備します」と答えて、マコトが自室に戻った。
まあ、俺には死んでも生き返るというチート能力があるのだ。
最悪でも繰り返せば、なんとかなるだろう。
そこで、頭の中に言葉が響いてきた。
『次に死んだら、それで終わりだから』
何だ、今のは?
俺の頭がおかしくなったのか?
マコトが自室を見回したが、周囲に変化はなかった。
部屋の中には誰もいないし、俺がおかしくなったのではなければ――
神様的な存在の言葉なのでは?
もしそうなら、色々と聞きたいことがあるのだ。
例えば――
「元の世界に戻る方法を教えてください」
それからしばらく待ったが、返事はなかった。
「せめて、ヒントだけでも」
しばらく待ったが、返事はなかった。
「返事がないと、帰る方法はないと判断するぞ!」
返事はなかった。
「たんま、たんま。返事がなければ、帰る方法があると判断するよ」
返事はなかった。
よかった。
いや、よくはねえよ!
「本当に、お願いだから説明してください」
その後も、マコトが懇願し続けたが、神様(?)からの返事はなかった。
ちなみに、マコトの奇行を、ヒミコは見て見ぬふりをしてくれた。
感謝である。
翌日。
神(?)への懇願が無駄だと気がついた、マコトがこれからの事について考えてみることにした。
まず、一番重要なのは、俺が何度死んでも生き返るというチート能力を、本当に失ったか、どうかだ!
確かめるために、死ぬわけにもいかないし…………
てか、あの声は、この前の山賊戦で聞こえてきた声と酷似していた。
もしかして、幻聴だったのでは?
まあ、どちらだとしても、チート能力は失っている前提で行動するべきだろう。
てか、チート能力を失ったら、本当にやばいな。
この世界は、難易度が高すぎるのだ。
逃げ出すべきか?
いや、逃げ出しても安全な場所がわからない。
それに、今さら村の人間を見捨てられるほど、俺は薄情になれなかった。
よし、とにかく頑張って、元の世界に戻る方法を見つけよう。
二日後。
出発の準備が整ったので、マコトたちが出発しようとしていた。
ちなみに、連れて行く兵士の数は、20名。
人口250の村の、ほぼ通常動員だ。
後で知ったんだが、シンは寄り親にかなりの借金があるらしい。
そりゃあ、寄り親に逆らえない訳だ。
てか、俺は領主の跡取りになって、本当によかったのかな…………
そんなことを考えていると、近づいてきたヒミコが微笑んだ。
「無事に戻ってきてくださいね」
おお、ヒミコが病んでいない。
この笑顔を見れただけでも、頑張ってきたかいがあったよ。
「ああ、行ってくる」
こうして、寄り親の本拠地である十龍に、マコトたちが向かった。
 




