第1話 もしかして、異世界に転生した?
井上誠が目を覚ますと、彼は森の中にいた。
えーと、
自宅のベットで寝ていたはずなのに、どうしてここに?
その疑問を解決するために、マコトが辺りを見回した。
森は観光地にあるような整備された森ではなく、背の高さや木の種類がバラバラな天然の森だった。
ここからでは、整備された建物や道路が見えないな…………
他に、情報はないかな?
マコトが辺りを見回していると、目の前に大きな木があった。
その木は、十字架のような形をしている。
神秘的だし、観光地なのかな?
しばらく十字架の木を見つめていた、マコトが大きく頷いた。
わかった。
これは、夢なんだ。
だから、マコトが目を閉じて、再び眠ることにした。
まもなく、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
のどかだな。
いいBGMだし、これなら眠れそうだな。
ほどなくして、虫の羽音が聞こえてきた。
ずいぶんとリアルだな。
てか、寝苦しいよ!
そこで、野犬の遠吠えが聞こえてきたのだ。
夢だとは思う。
だが、危ないかもしれないし、一応は安全なところに移動しよう。
てか、安全な所って、どこ?
そもそもだ。
この状況は、何なの?
ドッキリ?
いや、こんな大規模なドッキリ、素人の俺には仕掛けないはずだ。
日本のバラエティ番組の規制は強化される一方だし、このネタならお笑い芸人ぐらいにしか、やっちゃ駄目だろう。
そうすると、犯罪に巻き込まれたパターンか?
一般人の俺がなぜ?
そういえば、ウチの両親は大恋愛の末に結婚したと自慢していたな。
まさか、ウチの母親が資産家の令嬢だったのか?
これまでの、母親の言動を思い出してみる。
スーパーの特売チラシを凝視している母。
家電量販店のオープニングセールに並んでいる母。
大きく頷いてから、マコトが呟いた。
「ないな」
うん、絶対にない!
そうなると、他の可能性としては、テレビや小説とかに出てくるデスゲームに巻き込まれた?
その場合は、指示書とかがあるはずだ。
ポケットの中を探してみたが、何も入ってなかった。
てか、寝間着姿だったので、財布や携帯とかもないな…………
まあ、デスゲームではなかったんだし、よしとしておこう。
他の可能性としては――
「異世界に転生したとか?」
マンガとか小説の読み過ぎだな。
だが、万一の可能性がある。
十字架の木に向かって、マコトが話し掛けた。
「神様的な存在がいるなら、状況を説明してください」
それからしばらく待ったが、返事はなかった。
まあ、訳の解らない神様が出てくるよりは、よかっただろう。
マコトがその場を離れようとした所で、女の子と目があった。
いつ現れたんだ?
いや、そんなことよりも、カワイイ女の子だな。
オッパイもでかいし、俺の好みズバリだ!
しかし、服装が少しダサイ。
肌色の作業着を身につけていて、背中に竹かごを背負っている。
てか、竹かごの中に、薪が入っているな。
いつの時代だよ!
そんなことを考えながら、マコトが口をひらいた。
「すみません。道に迷ったので、ここがどこか教えてくれませんか?」
キョトンとした表情を、女の子が浮かべた。
あれ、聞き取れなかったのかな?
「すみません。道に迷ったので、ここがどこか教えてくれませんか?」
「○×△□」
女の子から返ってきた言葉は、日本語ではなかった。
てか、そんなに得意ではないが、英語でもないだろう。
本当に、ここはどこなのだろうか?
こちらが呆然と立ちつくしていると、女の子が頭を下げてから去っていった。
一瞬、薄情だと思ったが、寝間着姿の外人がいたら俺も逃げるだろう。
ふん、俺とのフラグが立たなかったことを、あとで後悔するがいい!
そんな事を考えていると、女の子が見えなくなりそうになっていた。
てか、このままここにいても何も解らないし、女の子を追いかけよう。
寝間着姿の高校生が、カワイイ女の子を追いかける。
これだけ聞くと、犯罪臭がすごいな…………
三分後。
村が見えてきた。
てか、凄い田舎だな。道がコンクリートで舗装されていないし、使っている農具も古い物ばかりだ。
そこで、先程あった女の子と再会した。
こちらが声を掛けようとしたところで、女の子の喉に矢が突き刺さった。地面に倒れた女の子の喉から、血があふれ出していく。
はっ?
マコトが慌てて振り返ると、そこには山賊らしき男たちがいた。
人数は、二十人ほど。
全員が、手に武器を持っていた。
山賊の皆さんの目が血走っている…………
これは、逃げないとやばいな。
そう感じた、マコトが逃げだそうとした。
そこで、山賊が放った矢が、マコトの右足に突き刺さった。
『夢のはずなのに、何でこんなに痛いんだよ!』
そう思ったときには、地面に倒れていた。
くそ、足が上手く動かない。
まもなく、山賊が近づいてくる。
「助けて!」と懇願しようとした所で、マコトの胸に、山賊の槍が突き刺さった。
ウソだろと思ったが、体がドンドン重くなっていく。
薄れいく意識の中で、マコトは思った。
この訳の解らない状況について、もう悩まなくてもいい。
それだけは、助かった。
そして、俺は森の中で、再び目を覚ました。
何だ、この状況?
意味がわからん。
先程、俺は殺されたんじゃないのか?
矢が突き刺さった右足と、槍が突き刺さった胸を、それぞれ確認した。
両方とも、無傷だった。
先程の戦闘は、夢だったのか?
てか、夢から覚めるんなら、自宅に戻りたかったよ。
そんなことを考えていると、後方から物音が聞こえてきた。
マコトが慌てて振り返ると、そこには先ほど死んだ、女の子が元気よく立っていた。