Wise-Mon
【第58回フリーワンライ】
お題:
耳を塞ぐ
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
体育館ほどのホールに、その空間を埋め尽くすかのような巨大な構造物が押し込められている。それは、寒々しい存在感を放っていた。
その構造物のあちこちには冷却装置が取り付けられており、実際にホール内の温度を何度か下げてもいた。
「――これは三つのコンピューターからなる、一つのシステムです」
白衣を着た男たちの一人が言った。白衣の中でも特に年配の男だった。
「三つ、というのは意味深だな」
反応したのは白衣に迎えられている者だ。白衣の中にあってそのダークスーツの人物は異質ではあった。
「……そうですね、しかしこれは彼の賢者ではなく、東方の伝承にある叡智の動物をモチーフとしました」
「というと?」
「三つのコンピューターは完全に同レベルの処理能力を備えていますが、それぞれが『入力』『思考』『出力』を分担しています」
ダークスーツは顔をしかめた。
「そう聞くと『思考』にばかり負担がかかって、『入力』と『出力』が性能を遊ばせているように思えるが」
「いえいえ、それは早計というものです。単純に『入力』と言っても、『思考』のために必要な情報を全て事前にピックアップして、十全に揃ったデータを受け渡します。また『出力』も同様で、『思考』の結果を非情に明確でわかりやすい形にするのが役目です。『思考』のためのデータの最適化と、その結果の復元。どちらも言わば翻訳作業ですな」
「翻訳か。外国語にしたものを渡し、読める形で母国語に戻すと。なるほど」
合点がいってそう呟くと、白い息が漏れた。両脇に垂らしていた手を擦り合わせる。
「それで?」
「これが試運転ですが、実際にお目に掛けましょう」
ダークスーツは擦っていた手を、パン、と鳴らした。
「では予定通りに“生命、宇宙、すべての答え”だ」
「その答えこそが悲願ですな。大丈夫。理論上、あらゆる問いの解答を用意出来ますから」
白衣の代表格が指示すると、彼を取り巻いていた他の白衣が散って端末の操作を行った。
入力を受け付けた構造物が有機的な唸りを上げると、冷却装置が激しく稼働し始めた。
やがて徐々に息を潜めるように構造物が停止する。端末のモニターに出力結果が表示された。
『エラー
解答未出力』
「これはどういうことだ」
「……わかりました。あまりにもシステムを伝承に忠実にしすぎたようです」
「理解出来るよう説明してくれ」
「我々がモチーフにしたもの。それは叡智の猿です。
『入力』は自身で考えず、言われた通りのデータを揃える――即ち『見ざる』。
『思考』はインプットされた情報から無限に近いパターンを黙々と計算する――『言わざる』。
そして『出力』は得た解答を理解可能な形で提示する――『聞かざる』。
どうやら『思考』と『出力』の間で不和が起きているようです。なんてことだ……答えは出ているのに、言うことも出来ないし、聞くことも出来ないなんて!」
『Wise-Mon』了
タイトルはWise-Men(三賢者)とWise-Monkeys(三猿)をかけた。勿論賢者とは東方の三賢者だ。
ていうかMAGIシステムだ。
もうちょっと『思考』がちゃんと答え出してる、という部分に説得力が出せれば良かったんだが。難しい。
ちなみに「生命、宇宙、すべての答え」は「42」である。Googleで調べてもそう出てくる。