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華やかなる追跡者  作者: 槇野文香(まきのあやか)
8/9

第8話

「圭、お前はなんてことをしたんだ」

 拓馬の怒号が聞こえた。開けたドアから、二人がもみ合っているのが見えた。驚いた華浦は部屋に入った。

「拓馬、もうあきらめろ」

 と圭が言うと、拓馬は圭を殴りつけた。

「やめて」

 と華浦は叫ぶと、拓馬の右手を抑えつけようとした。怒りにあふれた拓馬は、その手をふりほどき、華浦を突き飛ばした。

「拓馬やめろ」

 と圭は言うと、拓馬の右腕をねじると、殴り倒した。拓馬は床にのめるように倒れ、しばらく痛みで動けなかった。

「拓馬、冷静になれよ。もう、決まったんだ」

 と圭は言った。拓馬は泣いているようだった。

「ばかやろう」

 と拓馬は言うと、ふらふらと立ち上がり、部屋を出て行った。

 圭は、床に座り込み茫然自失の華浦に、手を差し出して起こした。

「華浦、大丈夫か」

 華浦はまだ震えていた。圭も息が荒かった。

「圭、どうしたの」

 圭が冷静な表情を取り戻して言った。

「社長と僕の株を大倉グループに売った」

 大倉グループは、林田工業の競合相手だ。

「それはどういうこと」

 と華浦は言った。

「林田工業は今のままでは生き残れないんだ。大手の大倉グループに吸収合併させて、再生させた方がいい。前から考えていた」

「あなたはどうなるの」

「この吸収合併は、林田一族が会社から手を引くのが条件なんだ。僕はこの会社を去る。拓馬もそのうち辞めなくてはならない」

 華浦はこれが圭の考えだったのかとようやくわかった。

「華浦、君が拓馬から送りこまれていたことは知っていたよ」

 華浦は圭の顔を見た。

「知っていて、私を泳がしていたのね」

 華浦の声は微かに震えていた。彼女は圭の手のひらで踊っていたのにすぎなかったのだ。

「ああ、君は拓馬の大学時代の友達なんだろう」

 圭の顔には怒りはなかった。

「何でもお見通しね。さすがだわ、私の負けよ」

 と華浦は言うと、涙が頬を伝わった。

「華浦、僕は会社を辞めるけれど、君には関係ない。君は会社に残れ」

 と圭は静かに響く声で言った。

「そんなこと、できるはずがないでしょ」

 と華浦は言うと、嗚咽を抑えて部屋を出た。


 それから一週間後、華浦は会社を去った。大倉グループへの吸収合併の話で会社は騒然とし、彼女が会社を去ったことを気にかける人間は誰もいなかった。

 彼女が林田工業を去る日、林田圭は大阪支社に行って、不在だった。

 彼女は、彼のデスクの前に立ち、圭、さようならとつぶやいた。そして、九階のオフィスを後にした。

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