第7話
「華浦、もっと積極的に圭の弱みを探れよ」
と拓馬は度々言っていた。
確かに今のままでは、圭を追い詰めるだけの情報はつかむことはできなかった。
圭は用心深く、秘書でも彼の仕事の本質的な部分まで踏み込むのは難しかった。
その後、華浦は圭のデスクをのぞき込むようにした。デスクの中は綺麗に整頓されているため、時間がないと、見ることができなかった。
初夏の暑い日だった。圭は出かけていた。夕方まで会社には帰ってこない。今日こそ彼の何ものかをつかみたい。華浦はそう考えた。
彼女はそっと彼の部屋に入ると、彼のデスクの椅子に座った。そして引き出しを開けた。引き出しの中は乱れなく戻しておかなくてはならない。
彼女はその中の書類を、一枚一枚確認していった。ブラインドの隙間から陽ざしが鋭くさしていた。
一時間ほど見ていたが、これといったものは出てこなかった。やはり、彼のパソコンを見ないとだめか。でも、彼のパスワードがわからない。
その時、部屋のドアが開いた。
「華浦、何をしているんだ」
圭だった。彼の冷たい視線に、彼女は一瞬すくんだ。それから「圭」と小さく言った。
どうして彼は戻ってきたのだろう。
「この頃、おかしいと思っていたら、やはりこんな事をしていたのか」
彼は険しい顔をして言った。華浦は彼の椅子から立ち上がった。
「あなたのデスクを探ったのは、これが初めてよ」
華浦は、精一杯の勇気をふりしぼって言った。
「君は何のために、こんな事をするんだ」
彼の怒りに満ちた声が、彼女の胸にひびいた。華浦の目から涙が溢れた。
「私をくびにする」
と華浦はきいた。彼は青白い顔をして、しばらく彼女を見ていた。
「君のことは、改めて返事をする。今は自分のデスクに戻りたまえ」
と圭が厳しく命じた。
華浦はうなだれて彼の部屋から出た。自分のデスクの椅子に座ると涙をふいた。これで、すべて終わった。明日、辞表を出そう。そう決意した。
翌日、決意を胸に出社した。しかし、九階のオフィスには圭はいなかった。すでに、時計は朝の8時半をさしている。
華浦は胸騒ぎを覚えた。
仕事は手につかず、ぼんやりとパソコンの画面を見ていた。時計が10時を過ぎたときだった。圭がエレベーターから降りてきた。
「どうしたの」
と華浦がきいても、無言のまま、圭は自分の部屋に入っていった。
すると、拓馬が圭を追いかけて来るように、九階のエレベーターから出て来た。拓馬の顔が怒りで黒々としているのがわかった。拓馬も華浦を無視し、足早に圭の部屋に入っていった。




