『神は許し給う、なんて。』
試験を重ねていくと、リミッター単独ではあまり増幅できないことが解った。
元々一定まである人なら別だけど、普通の人が使えるレベルじゃない。
それを踏まえて、枷さんにリミッター改を作って貰うことになって…
まだ何もかも始まったばかりだけれど、それでも、やっと始められた…。
1000年も時間が掛かってしまったけど。
それでも、やっと………
そんな、ある日
お婆ちゃんに言い渡された。
『草の子と付き合うことは許しません』
草の子…繋のことについて。
会話も何もない。あまりに一方的な通告。
何で行きなり、そんな話になったのか。
まだお互いに好きかも解らないし、小学生だし、付き合う=結婚じゃないし、そもそも私の許嫁すら解らないのに。
なのに、なのに、なのに!
始まった途端にこれだ!!
とにかく、話をしに行こうと足早にお婆ちゃんの家に向かった
『申し訳ありません
お通しできません。』
「なんで…」
インターホン越しに、秘書の鎹さんが冷静な声音で答えた。
何度、何度鳴らしても、呼んでも、叫んでも、2度と誰も答えてくれなかった。
「ねぇ…、なんで?
開けて、開けてよ鎹さん。」
何度目か解らないインターホンから帰ってくる答えはなかった。
私はそっと家の窓の方を見上げた。
誰も見えないし、締め切られたカーテンの部屋。
あそこに、お婆ちゃんは居る筈なんだ。
居る。はず、なんだ。
なのに…なんで
「答えてよ。
答えてよお婆ちゃん!」
「なんで…」
教えてくれなきゃ解んないよ!
解るわけないじゃん…。
こうなったら、夜になっても、明日になってもずっとずっと居座ってやる!!!!
不条理なことなんて絶対認めない!
そう、私はお婆ちゃんの家の前に座り込んだ。
「えっ…ハンナさん?!」
そこに現れたのはセツナだった。
座った瞬間に声をかけられたのか、それとも座ってから随分経ってから声をかけられたのか…、それもわからなかった。
やっほーとでも言おうかと思ったら、四の五の言わず立ち上がらされた。
それで、ちょっと怒られた。こんなところで座り込んだら汚れるでしょう。とか車が通ったら危ないでしょう。とかさ。
セツナに、何で居るの?って聞いたら病院に行く途中だったらしい。
また、菫さんかな…。
いつもと変わらない物言いとか、お母さん以上にお母さんっぽいセツナに何だか笑みと涙が零れた。
栓が抜けたみたいに、何もかもが零れた。
セツナに抱き付いて、ポロポロと涙を溢した。
何で上手くいかないんだろ。
どうしてこうも思い通りにいかないんだろう。
私の何が悪かったんだろ。
それとも、何にも悪くなくても、どんな良いことしても、私は。
私は、名前も顔も知らない誰かの子を生んで、マキリのお母さんみたいにならなきゃいけないのかな…?
マキリみたいな思いを、自分の子供にさせないといけないのかな?
マキリとセツナみたいな悲しい関係を作らなきゃいけないのかな?
マキリも、もっと素直だったはずで、もっと自然に笑えて、当たり前に泣けたはずだったのに。二人は、もっと良好な関係を築けるはずだったのに…。まるで、互いが互いの存在を認めたくないみたいな、憎んでるみたいな……
それでも私達は、その中でしか、幸せを見い出すことを許されないのかな…
居もしない神様はきっと私達を優しく見下ろすだけなんだろう。
「断固として赦しません!!!!」
放課後の特殊能力部で行われた緊急会議にて、セツナは珍しく声を荒げた。
本来は部活のないこの日、大石先生の姿はなく、居るのは私とセツナとケイ。
「まさか、いきなり通告が来るとは…」
ケイも、珍しく険しい顔をしている。
私も、ちょっと暗い顔をしてるかもしれない。
お婆ちゃん、いつもは可愛くて優しいのに…いきなり……。
視線を感じて顔をあげたら、二人にジッと見られていた。
「やっぱり赦せませんね。」
「そうだね。本当に。」
……?
何だろう。
…でも、何にしたってお婆ちゃんは一度決めたら、もう首を縦には降らない。
嫌でも、きっと16になったその日に、結婚させられる。
お婆ちゃんなら間違いなくそうする。
考える時間なんて与えずに。
その日まで相手にも会わせないつもりだと思う。
ううん。
私の予測通りなら、その相手はきっと碓氷 海翔。
長い付き合いなんだ。
お婆ちゃんの考えてることなんて少し頭を捻れば解る。
碓氷家と神氷家は元々同じ氷のレジで、そして血縁関係も非常に近い。
そして神氷家と柊も非常に関わりの深い。
異端である私と、同じく異端である碓氷をくっつければ、異端が生まれる可能性も高いし、力道家と碓氷家、そして神氷家をより一層柊に近付けることが出来る。
それと、お婆ちゃんのほんの僅かな優しさ。
私も、別に碓氷のことは嫌いじゃない…。
……でも……、そう言う意味で好きなわけでは絶対にない。
…っていう複雑な思いを、能力者達は1000年も続けてきたんだよね。
「ハンナさん…?」
私の目の前に居るセツナも、そう言う風にして生まれてきた。
必ずしも不幸になるとは限らない。
それでもこんなに、明確に嫌なのは、自由を奪われたから?
………それとも
「ハンナ…?」
ケイのことが、好き…だからなのかな……?
気が付けばまた、涙が零れてきてしまっていた。
もう何が正しいのか解らない。
何を考えたら正解なの?
何をしたら間違いなの?
間違いとか、不正解とかって誰が決めて、何が私の望みなの?
ぐちゃぐちゃな思考はただただ私の首を絞めて涙を零れさせていた。