『cavia』
枷さんの家に向かう途中、誰かに呼び止められた。
「こんにちは。」
女の子の可愛らしい声に勢いよく振り返りそうになってから、相手の声を冷静に思い出して私はリミッターを触りながらゆっくりと振り返った。
「それに何かあるのかな?」
確信したような声と、その姿に私はハッとして段々血の気が引いていった…。
スズナの偽物かと思われた相手は悪魔…じゃなくてスズナお姉ちゃんのネネナさんだったから……。
「ネネナ…さん……」
口に出してからハッと我に帰ってリミッターから手を離した。
ネネナさんは異常なほどに勘が良いから苦手だ。
普通にいい人ではあるんだけど…。
「超能力って言うのかな。
そういうのって」
言葉を失った。
これが絶句というものだろう。
いや、そんなこと考えてる場合じゃない。
なんで?
どこを見て超能力だってばれた?
何を見られた?
どこを?
スズナから話を聞いていた?
「帆凪ちゃんの友達…ではないかな?」
降ってきた声に私は顔を見上げた。
このシチュエーション前も見たな…。
案の定
「枷さ……」
「枷…んー。
もしかして、それと関わりがあったり?」
ネネナさんがそれと指したのはリミッターだ。
どうして、そこまで一瞬でバレてしまうのか…。
いくらなんでも枷さんの話も、リミッターの話もしたことなんてないのに。
「仮にそうだとして?
それを証明する手段も、その力も、君にはないだろう?」
枷さんの目が強く鋭く光った。
殺意などないのに、思わずすくんでしまうような目。
「………証明なんてする必要ない。
私にそれを使わせて。
“何か”を倒す力が欲しい。
その事実さえあれば良い。」
ネネナさんの言葉に、色んなことにツジツマがあった。
ネネナさんが他の家族とは、少し違った風にモモナさんの死を見つめていたこと。
お母さんがスズナや私にばかり、モモナさんの死について語っていたこと。
それを見るネネナさんの目が、酷く冷めていたこと。
何処から知ったのかは解らないけど、ネネナさんはカレンが悪魔討伐をしてきたことを何処かで知って…、それに対して何らか思うことがあったんだと思う。
だからカレンを悪だとは到底思えなくて。
元々、ネネナさんはモモナさんと一緒に過ごしてきてたから。
多かれ少なかれ、モモナさんのことも、交遊関係もわかってたんだ。
でも、スズナは年が離れすぎてたから…。
「君にそんな力があるか?
誰でも良いんだったら僕がやってるんだよ。
君はどういうつもりでそんなことを言ってるんだ?
どんな権利があってそんなことを―」
「枷さん…!」
捲し立て続けようとする枷さんを慌てて止めた。
こんな風に感情的になった、枷さんは初めてみた。
「ん…、ああ。」
枷さんはニコッと笑うと何事もなかったように私の頭をポンポンと撫でた。
「…枷さん。」
ちょっと…と屈むようにお願いすると、首をかしげながらも屈んでくれた。
それでもちょっと高かったので、背伸びをして枷さんに耳打ちをした。
これからする名付けてヒーロー大作戦の、リミッターの試験を手伝ってもらうのだ。
「………そんなの家の者に」
私はジーッと枷さんを見つめて懇願した。
色んな実験対象があった方が良いでしょ?!
良いでしょ?!
良いよね!
良いんです!
「…………解ったよ。
志野には僕から伝える。
ただし」
と、今度は私が耳打ちをされた。
他の能力者の情報は一切明かさないこと。
悪魔とは戦わせないこと。
必要以上に関わらないこと。情を持たないこと。
うんうんうんうん。と私は何度も頷いた。
「大丈夫かなぁ……
あと家でやることね。」
最後に付け足された言葉に私はバッと振り返った。
「えっ、いいの?!」
枷さんは苦笑いで頷いた。
「それで良いね。」
有無を言わさぬ言葉に、ネネナさんはしっかりと頷いた。
多分、意味はあんまり解ってないと思う。
それでも頷いたのは如何なる誓約も受け入れるという意思の強さの現れだと思う。
…どうしてそこまで………。