16、5部『死を記憶せよ』
16部と17部の間の話です
それがあとに繋がります
ザザッ…
私は地面を鳴らしながら、相手がこれ以上進めないように立ちはだかった。
相手…3人のうち二人はにこにこ…もしくはニヤニヤと表情を変えず、真ん中の一人はギロリと私を睨んだ。
「あら、ハンナ…久し振りね。
随分ご挨拶じゃない。」
恐ろしいほどの睨みと冷たい空気を漂わせる相手に負けじと、私はキッと睨み返した。
私は…私は怒ってる!!!
これまでにないくらいとっても怒ってる!!!!
「酷いのはカレンの方だよ!!!!
エミヤさんについて変なこと言ったんでしょ?!?!!」
私の目の前にいる相手の名前、両サイドに居るのは大石 陸穂…こっちは優しいから好き。
もう片方は蕾凰 真霧…マキリはねぇ、私は別に嫌いじゃないんだけどセツナに嫌われてるねぇ…、合うわけないよねぇ…。
で、その真ん中に居るのが神氷 懸憐。
エミヤさん達が入る前なら、唯一私と渡り合える人で…そして今だけ私の宿敵!!!!
「あら、貴方にもしたことでしょう?」
カレンは何故か面白いものを見るみたいに、元の目に戻った。
当たり前だけど、さっきの睨み合いも私は本気だったど、カレンは単純に乗ってくれただけ。
確かに最初の洗礼は…本当に嫌だった。
カレンの洗礼はいつも相手が一番思い出したくないことを突く。
私の場合は…誘拐された記憶。
いやー、あの時はお陰で怒り散らしたね。
相手がカレンで本当に良かった。
お陰で側に居たセツナや別の人達に危害を加えずに済んだ。
………まあ、カレンと私が怪我しちゃいましたけど…。
でもね、そらからはちゃんと、カレンっていい人なんだなぁと思った。
ただただ、失うことに極端に怯えているだけ…。
カレンにとっては、それが一番思い出したくないこと…。
だからカレンは同じ戦う仲間が弱くないことを確認する。
一番痛い所を突いて…。
私の場合は結果的に良かったけど……。
「みんなが同じ訳じゃないの!
どーせ3人とも知ってるだろうから言うけど、どうせ血について言ったんでしょ!
私と違って肉体的なことなんだから…
っていうか、そうじゃなくてもエミヤさんを泣かせたら許さない!」
今回はタイガさんへの洗礼だったけど…その洗礼に対してタイガさんが怒ったのは自分のことではなく。
エミヤさんの血…。
お婆ちゃん…つまり能力者を統括している柊家投手の柊 志野によれば、エミヤさんは魔王と音澤の男との混血。
まあ、私的にはそんなのはどうでも良い。
エミヤさんは敵じゃないし。
むしろそのダーティな感じが堪らない。
全面的に好き。
「随分と肩入れしてるのねぇ…?
そういえば、ユキカとナツカもそうだったわね。
あの二人のことを庇っていたわ」
そりゃそうでしょ。
ユキカも、ナツカさんも、仲間想いだし…正確にはユキカだけだけど。
…でも、エミヤさんに対してはナツカさん本人も思うところあるっぽいね?
「…………んっ?」
私は思わず声を出して、首をかしげていた。
「どうしたの?」
そう聞いたのはリクホさんだ。
「いえ…。
あれ…カレン達はもうタイガ…さん達と2回くらい会ったんですか?」
すると、カレンは眉を潜め
「…いいえ?
一度しか会ってないけれど……?」
カレンの言葉を聞き、私は自分で全身から血の気が引くのを感じた。
私のその顔を見て察してくれたのか、マキリもあー…、と溜め息をついて額へ手をやった。
「言われなきゃ、俺も気づかなかった…」
いつもは一人称ボクとか僕だった気がするけど…やっばり、いつもの性格と、マキリの素の性格は違うんだろうなぁ…と思う。
…まあ、それがマキリの生き方なんだから仕方がないよね。
それよりも今、問題なのは…
「つまりさ、ユキカとナツカ…まあ、あと一応サキアお姉ちゃんの前で仇篠の名を出したんでしょ?」
サキアお姉ちゃんは…多分もう知ってる。
だからそこは問題じゃないけど…、ユキカとナツカは本当に知らないはずだ。
でも、二人の両親はエミヤさんの御両親と一緒に戦っていた世代だから…、名字を聞けば解るかもしれない。
…さて、残りの二人も気がついたようだ。
高校生組がんば!
四方八方に謝り倒さなきゃね!
…と言っても、私達の世代は権力者ばかりだから…何だかんだ言っても知らないのは多分ユキカとナツカ、それにケイだけ。
本来なら、そのケイの姉であるアリアさんも知らないはずだけど…あの人はどう見ても異質だ。
そしてセツナはお母さんが隠しはしないだろう。
サキアさんは自らの能力。
リクホとマキリはご覧の通り筒抜け。
「って言うわけで、ボクらはこれで失礼するよ
早いうちに教えてくれてありがとね~?」
やっぱりマキリさんは胡散臭いけど、ちゃんとお礼言えて偉いね。
カレンもちょっとは見習えば?
…あー、もう電話掛けてるよ…神氷当主が頭下げちゃって…律儀だなぁ……
そんなわけで、道路の真ん中で行われた寸劇は終わりを告げ、高校生3人は去っていった。
「………ハンナ?」
再び現れた、別の登場人物に私は振り向いた。
さっきとは違い、私は満面の笑みを浮かべた。
何故なら相手が
「スズナ!」
私の大の親友のスズナだったからだ。
家が向かいで…引っ越したての時はお世話になったらしい。
その記憶はすっかり何処かへ行ってしまったけど。周りの大人は覚えてるんだこれが。
粘着質だねぇ…。
「何で………」
……何でとな?
そりゃ、…なんと言いますか、子供の記憶は忘れやすく、大人は粘着質なものだから…。
もしくは大人が粘着質な理由…?それはさすがに知らないよね。うん。子供だもの。
…ごめんなさい。
何でとはこちらが聞きたいのですが…。
何でいつも優しい微笑みを浮かべてるスズナが、今日はすごいシリアスなの…?
怖い。怖いよ!
するとスズナがツカツカと私に歩いてきて…ガッと私の肩を掴んだ
「何でハンナがあの人と一緒に居るの……?!!?!!!」
そう叫びように言ったスズナは、本当に怖かった。
切羽詰まったみたいな…鬼気迫る感じで…
あの人って…まさか、カレン達のこと……?
何でスズナがカレン達のこと…カレンは高校1年生で私達は小学5年生…ギリギリ会ってるか、会ってないかぐらいかな……?
いや、だとしても何でそんな感じなの…?
スズナは一瞬私から目を反らして、それからまた私の目を見た。
「あの人は…、とにかく!
もうあの人に関わらないで!」
そ…、そんなこと言われましても……
「そんな風に言われても困るよ…
なんで…」
私とカレン達は能力者で…その縁は正直言って死ぬまで消えない。
…そう。
死ぬまでだ。
けど、スズナは…もし来世があるのなら、また会いたいと思う。
カレンのことは結構好きだし、能力者との縁を切りたいと思ったことはない…けど。
スズナが望むのなら、それなりの対処を考える。
いや、難しいかもだけど…。
「あの人は…あの女の人が……」
…やっぱりカレンの方か。
ちょっと………察しがついた。
「あの女の人がお姉ちゃんを殺したって!!!!」
…って、聞いたんだよね。
「モモナさん…」
私の口にした名前に、スズナは目を見開いた。
「な…、なんで……」
カレンが失うことを恐れるようになった一番思い出したくないこと…。
それはカレンの親友が自殺したこと。
「なんでって…そりゃ、手を合わせたこともあるし…」
スズナは四人家族でご両親とスズナともう一人お姉ちゃんで構成されてる。
でも、家に何度か遊びに行ったことがあって…その時、スズナのお母さんとお姉ちゃんと一緒に、仏壇に手を合わせたこともあった。
そのモモナというお姉ちゃんが、カレンの親友と同一人物だったわけだ。
世間とは案外狭い…というか、私とカレンの好みが似てるのか…それとも能力者を引き寄せる“何か”があるのか…。
どちらにしても、私がスズナなことが好きなのに変わりないけど。
「スズナ。
カレンはそんな酷い人じゃないよ。」
私は、私の肩を掴むスズナの手にそっと手を添え、静かに言った。
モモナさんが自殺したのは、カレンのせいじゃない。
カレンの権威に流された周囲のせいだ。
不運な偶然が重なったせいだ。
…まあ、私が全部知ってるわけじゃないけど…、でも、カレンのせいじゃないのは確か。
だからこそカレンは…ずっと……。
でも家族は、誰かのせいにしないとやってられないとも思う。
だから私はそれ以上は何も言わない。