『好きも嫌いもないよ』
「あっ…待った……?」
10分前に来たつもりだったのに、ケイは既に時計の下で待っていた。
でもケイは怒る様子はなく、むしろ嬉しそうに微笑んだ。
「ううん。
今来たところだよ。
ふふっ…、君こそ早いね?」
ケイの言葉に、私は少し恥ずかしくなった。
「たっ…偶々だし…!」
私はそっぽを向いてそう言った。
別に、楽しみに何てしてない。
ただ遅れるのは自分的に悪いって言うか…!
「それでも嬉しいよ。
じゃあ、行こうか。」
そう素直に微笑んでケイが手を差し出してくれるケイに、私は少し嬉しくなった。
けど、その反面、心が苦しくなった。
好きになっちゃいけない。
でも、好きだって素直に言いたい。
違う。
私はケイを好きじゃない。
好き…………
「…行こう!」
ケイは私の手を取って、歩き出した。
ちょっと驚いた。
…けど、今はその方が気が楽だった。
違う。違うんだよ。
私はケイが大好き…。
でも……!
私は、ケイの握る手をギュッと握り返した。
「ハンナ、今度出掛けない?」
そう突然言われたのは、冬休みが終わって登校初日めの事だった。
「えっ…え、……え?」
とうっかりえの三拍子になってしまった。
だって本当に驚いたんだもん。
あれから…音沙汰なしだったのに、どういう思考回路でそうなったのか。
「ほら、まだ直ってないんでしょ?
僕で慣れて欲しいな~って
ていうか、一緒に出掛けたい」
「…最近、飾らなすぎじゃない…?」
本心が駄々漏れすぎて…。
まあ、その方が安心するけど…。
「その方が安心しない?
君もだけど、僕も。」
その安心にはケイも入っていて、私は少し驚いた。
「…無理、してたの……?」
私は何となくケイの手を取って聞いた。
「君に格好をつけたかっただけだよ
無理はしてない。
もうやめちゃったしね!」
弾けるような笑顔に、私の顔もつられて綻んだ。
ケイは多分私に合わせてくれてるんだと思う。
合わせて、変わってくれてるんだと思う。
私も変われるように。決心を着けやすいように。
私がどっちを選ぼうとケイは否定はしない。
ケイを選ぶように誘導はするだろうけど…
だけど、どうして…?
面倒な私じゃなくて、もっと良い子が…。
「ハンナ?」
ジッと私を見つめる翡翠の瞳はやっぱり綺麗。
「…ううん。何でもない。」
だけど、今は、まだ聞きたくない。聞けない。
ケイに我に返ってほしくない。
まだ夢を見たままでいて、夢を見させて。
「じゃあ、どこに行くの?」
「花…!」
私達はGWのうちで近くの公園の花園にやってきた。
女の子らしいとか可愛いねとか言われるのが嫌で隠してるけど、私は花が大好きだ。
これまた女の子らしいとか言われるのが嫌で隠してるけど、占いも好き。
花占い血液型占い星座占いタロット占い。
「幼稚園のとき好きだって言ってたから」
ああ。だから知ってたんだ…。
幼稚園の頃なら、私は素直に言っていたと思う。
スズナはポピー
リューは…アジサイ?(笑)は冗談で…霞草かな。
「ケイはカーネーション。紫と白」
「今も?」
不思議そうに私を見るケイに、微笑んだ。
幼稚園の頃にも同じことを言ったのだろう。
「今もだよ。」
「花言葉は?」
にこにこしながら聞くケイに、私は頬を膨らませた。
それは前も言った。覚えてる。
じゃなくたってケイは植物の能力なんだし、知ってるんじゃないの?
「教えて」
……
「白は純粋な愛。紫は誇りとか気品。
でしょ?!」
バッとケイを見た。
「そうなんだ」
「そうなんだって、
知らないの?」
「知らないよ。」
「植物なのに?」
「植物なのに。」
そういうものなんだ。
何か意外だな。
うーん…逆に関心なくなっちゃうのかなぁ~。
一番近くにあってたくさん知れるのに勿体ない。
…あ、そうだ。
「ねぇねぇ、ケイ!
ケイが使ってる植物は何て言うの?」
ケイが知らなくても良いって言うなら。
変わりに私が教えてもらおう。
だって私は知りたいんだし!
「…うん。
僕が普段使ってるのは何でもない植物だと思うよ
多分新種。」
えええええ?!
「そうなの?!そうなの?!
世紀の大発見じゃん!!!」
「僕の力を吸って成長するからね。
僕次第で変わってるのかも。」
そっか。
能力で育つ植物なんて、新種に決まってた。
既に存在してる植物を操るんじゃなくて、
自分の力で植物を生み出してるんだ。
同じ能力者同士でも、知らないことばっかりだなぁ…。
っていうか、私自身の事もよく解んないし。
「もちろん、辺りにある植物もある程度は操れるよ。」
ケイはそういうとリミッターのブローチを外した。
「―植物よ、我が意のままに―」
ケイがそう唱えると、植物は風も吹いていないのにサァッと揺れ出した。
私がその中の1本に近付くと、その植物はひっそりと伸びて、お手みたいなことをしてくれた。
「…って、自分の子じゃないのを操るのって難しいんだよね
勝手なことされるっていうか…」
そういうものなんだ。なんか意外。
でも
「今のでも十分すぎるくらい凄い思う。
植物とはいえ、他の生物を操るなんて」
たまに思う。
命を操ることさえも能力のひとつなら、それはもう神にさえ等しい。
もしくは、神への冒涜なのではないかと。
まあ、悪魔と対峙してる以上、神の使いっていうのがぽいと思うけど
私はそんな風には思えない。思わない。
悪魔が悪であることは、それはもちろん揺るぎないことだけど
それでも、悪魔だって生きている。
それを殺めることでしか浄化出来ない私達が、神の使いだなんて畏れ多い。
とかなんとか考えたところで神様は目には見えないし、目に見える神の方はそんな問には答えてくれない。
「…嫌い?」
不安そうに私を見るケイに、私は何となく愛しさを感じた。
「好きも嫌いもないよ。
ケイだもの。」
私が好きだとか嫌いだとか言うまでもなく、その能力でさえもケイの一部だ。
それに、そもそも能力に対して好きとか嫌いとかない。
まあ、能力を持ちたくなかったから嫌い。とかは有るかもしれないけど。
「………そっか。」